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ユールの祭日

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●●● 魔弾の射手

ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)は愛用のマスケット銃を手にして舞台に立った。

「ほう、『魔弾の射手』かね」
フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が応じる。


「どういうことです?」
ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)レン・オズワルド(れん・おずわるど)に尋ねる。
「『魔弾の射手』は元来オペラの名であり、そこに登場する人物……というか肩書きでもある。
 ザミエルとは魔弾の作り方を知る悪魔の名だ」
「へえ、それじゃザミエルさんは英霊じゃなくて悪魔なんですか??」
「そういう事実はないが……
 シューベルトは魔弾の射手が作曲された時代の音楽家だとザミエルは言っていた。
 今回の狙いはシューベルトとの対戦らしい」

実際、シューベルトは『魔弾の射手』と浅からぬ因縁があった。

1822年、ウィーン。
ここで行われた『魔弾の射手』の演奏を、シューベルトは鑑賞していたのだ。


シューベルトの隣にはピアノ、それもグランドピアノがあった。
ピアノ歌曲の帝王であるシューベルトにとって、ピアノはあって当然のものである。


ザミエルは銃を構えながら、『魔弾の射手』の続きを口ずさむ。

「Bin Freund und komme nicht zu strafen.
((乙女よ)我は汝の友、汝を罰するために来たのに非ず)
まあ待ちたまえよ、ピアノで勝負というわけにはいかないかい」
シューベルトはそう口にする。
ザミエルはピアノに気を取られた。

シューベルトの楽の音を、聞いてみたいとも思う。
そこに迷いが生じた。


「甘いな、これが私のピアノ勝負だ!」
シューベルトはやおら両手でピアノを掴むと、ザミエルへとブン投げた!
動揺しながらもザミエル再び銃を構え直し、引き金を続けざまに六度引く。

銃弾がピアノに命中し、穴をうがつ。
線や鍵に球が当たって不協和音となる。
一発の銃弾がピアノを通り抜けて、シューベルトの肩をかすめた。

しかし銃弾でグランドピアノの質量は止めきれない。
ピアノはザミエルの上にのしかかるように落ち、その体の動きを封じた。
そのザミエルの隣にシューベルトが立つ。

「Bei den Pforten der Hoelle!(地獄の門にかけて!)
 貴様がピアノをあのように扱うとは!」

「奇襲でいけると思ったんだがなあ。
 やはり無傷というわけにはいかなかったよ。
 ところで魔弾の射手についてひとつ質問がある。

 あの歌曲において魔弾の射手は7発の魔弾を持つ。
 6発は撃ち手の望むものに命中するが、7発目は悪魔ザミエルのための弾だ。
 君はすでに6発撃ったようだが、もし君が悪魔ザミエルなら、本当に持つ弾は最後の1発だけではないのかい」

シューベルトの問いに、ザミエルはにたりと笑った。

「然り!
 この7発目こそ私ザミエルのための弾」

ザミエルはピアノに挟まれていた腕を隙間から引き抜くと、自分に銃口を向けて引き金を引いた。

それでこの試合は終わった。

一方その頃。

「うわああ、貴重なグランドピアノが!!!」
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は高価なグランドピアノが破壊されたことで青ざめていた。
しかし彼の恐怖はまだまだ終わらない。