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リアクション
パルナソス山頂の中央に据えられている神殿の前には、早速キャノン ネネ(きゃのん・ねね)が陣取ってくつろいでいるが、常にそばにいるはずのキャノン モモ(きゃのん・もも)の姿がない。
「さあ、モモちゃーん。今日は野点をやりますからねぇ。お茶会は身だしなみとお作法が大事なのですよぉ〜」
神殿内の人目に付かない場所で、モモに着物の着付けをしているレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)と、それを補佐しているミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)。
出発前に衣裳の準備に余念がないレティシア。
モモは襦袢を着せられながら、
「あの、レティさん……」
「こら、モモちゃん。『おねぇさま』でしょぉ〜?」
「あ、その、おねぇさま……準備が早すぎるのでは……?」
気が早いレティシアに一言言いたいモモだが、ミスティは、
「今回のお茶会は戦場まっただ中が狙いなんでしょ? きっとのんびり準備する暇はないわ。今のうちにやれることはやっておかないとね」
と言いながら、襦袢のたわみを取ろうと、モモの胸元に手を入れる。
「やぁ、ちょ、ミスティさん、そんな……」
「ん? 何?」
「あーん、ミスティ。そういう部分の直しはあちきの仕事でしょぉがぁ」
そんなやり取りの中、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)がやってくる。
「お二人とも、モモさんの着物の柄なのですが」
「あぁ、決まった?」
「それが、顕仁さんのこだわりが止まらなくて……」
今回のティーパーティで、洋式のお茶ではなく『和』と尊ぶ茶の湯を考えていたのは、レティシアだけではなかった。
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が、わざわざフォイエルスパーを稼働させてまで、茶室をコンテナで持ち込んでいる。
偶然趣旨が同じ者がいて、泰輔はさらに張り切るのだが、そこで黙っていられなくなったのが讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)である。
彼は、
「裏千家名取のレティシアならいざ知らず、モモが脇にいるならば、そなたには我が作法のいろはを教授してしんぜよう」
と、細かいこだわりを見せ始め、モモの着物の柄までああでもないこうでもないと熟考を重ねている。
「そういうわけで、まだ……」
「ええ〜、あちきのモモちゃんを襦袢姿でうろうろさせるのはイヤですねぇ」
「仕方なかろう。先に進言があれば、我も見繕ってきたというのに……」
顕仁は手持ちの中からかろうじて選んだ3パターンの柄を持ってきて、
「順番に着せて選ぶとしよう」
というこだわりっぷり。
そこに、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が顔を出し、
「調子はどうです? 茶室の内装を見てもらいたいんですが」
と言うのだが、
「だーっ! まだモモちゃん襦袢なんだから、男は来んな!」
「ご、ごめんよ……」
と、追い出される始末。
顕仁は追い出されないところを見ると、やはり彼は別格といったところか。
着せ替え人形状態のモモは、
「あの、そろそろお姉さまの様子も見なければ……」
と、ネネの心配をしている。
一方のネネはといえば、いつの間にかセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を交えて、三人で組んだ女幹部ユニット『セクスィー☆ダイナマイツ』の衣裳談義。
セレンフィリティが持ち込み、テーブルに並ぶ衣裳を見て、セレアナは頭を抱えている。
「セレン……前回より露出度上がってない……?」
「当然じゃないセレアナ。今日はあたしたちの、ダークサイズ初任務よ? 言うなれば今後のセクスィー☆ダイナマイツを占う初陣なの。そこで目立たないでどうするっていうの!?」
セレアナを説得しながら、徐々にテンションも上がっていくセレンフィリティ。
「恥ずかしいのは当然だけど……これって防御力度外視よね……」
テーブルに並ぶ衣裳は、もはや大事なところを隠すだけの布にしか見えない。
そんなセレアナの心配を尻目に、モモは切れ目や穴が開いたデザインの水着を選び、
「わたくし、今回はこちらにしようかしら……」
と、自分の身体にあてがってみる。
セレンフィリティは、モモにグッと親指を立て、モモも親指で返す。
「グッ、じゃない!」
「セレアナさんはこちらがよろいいのではなくて?」
「紐しかないじゃない。何も隠せてないわ」
「セレアナにはやっぱりこれよ」
「1万歩譲って貝だとしても、しじみはイヤよ!」
「仕方ないですわね。ではあえて全裸にジャケットのみでいかがかしら?」
「わかった! わかったわよ! 自分で選ぶからー!」
と、セレアナは今回も二人に押し切られていく。
☆★☆★☆
出発前からすっかり賑やかな様子だが、多少なりとも緊張感を維持しているのは、今回特に重要な働きとなる選定神 アルテミス(せんていしん・あるてみす)とダイダル 卿(だいだる・きょう)。
とはいえ、神である二人の自信は揺るがないようで、神殿入口でダイソウの姿を求める。
「もう出発してもいいんかのう」
「何を言う、ダイソウトウさまがまだではないか」
「何をやっとるんじゃあいつは」
「またせたな」
二人の元に、エメリヤンに乗ったままのダイソウがようやくふわふわと到着する。
(どうりで遅いはずだ)
と思うものの、アルテミスもダイダル卿もキリリとしたエメリヤンを慮って言及せず、
「おぬしで最後のようじゃな。ところでなかなかの陣容じゃのう」
と、ダイダル卿が山頂にひしめきあうダークサイズプラスアルファを見渡す。
「うむ。だがエリュシオンの時ほどではないな。ダークサイズ幹部も、多くが捜索隊として月に行っているらしい」
「なるほどのう。向こうで合流できるといいが」
「ところでダイダル卿。全員を山頂に揃えたのはなぜだ? このパルナソス山全てがお前の本体ならば、どこにいても一緒ではないのか」
「どこにおってもいいんじゃが、離陸時には揺れと変形があるからのう。振り落とされたら困るわい」
「なるほど。アルテミス。準備はいいか?」
「もちろん。我のバリアが必要になるのは宇宙へ抜けてからでしょう。それまではゆっくりしていようかと」
「よし。ではダイダル卿、頼んだぞ」
「おお、出発か。では皆の者! 離陸するぞい!!」
ダイダル卿は山頂の皆に声をかけ、神殿の中へと消えてゆく。
彼は神殿中心部の祭壇に手をかざして動かす。
床が円形に抜けると、底には小さめながらもマグマがたぎっており、ダイダル卿はその中へ身を投じる。
直後、パルナソス山が大きく揺れ始め、続いて山の周りの景色が下へと沈んでいく。
轟音と共に、カリペロニアを離れ、パルナソス山はダイダル卿の本体『蒼空の城ラピュマル』へと姿を変える。
繁っていた木々は本体の中へ沈むように取り込まれていき、岩石のようなごつごつした質感、山一つ分の広々とした円盤状で、中央にはやはり神殿を頂いたままの荒削りの浮遊要塞は、早速北へと進路を取って、 月への港を目指してスピードを上げる。
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