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マレーナさんと僕~卒業記念日~

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マレーナさんと僕~卒業記念日~

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7.朝:メイド達の強襲
 
 玄関先の異変にいち早く気づいたのは、姫宮 和希(ひめみや・かずき)だった。
(マレーナは?)
 和希はすばやく目を走らせる。
 マレーナは下宿裏の井戸にいて、ガイウスと談笑している。
 ガイウスは夜露死苦荘の用務員だ。
 増改築総監督の命を受け、建物の傷み具合を見て回っていたところ、マレーナに捕まったらしい。
 庭――という形に唇が動く。増改築される風呂の庭について、話し込んでいるようだ。こちらの動きには気づいていない。

(今のうちにくいとめるぜ!)

 トラックから次々と強面の古株と美人局の新人メイド達が降り立つ。
 いずれもその服装から、唯我独尊の【出張メイド】達であることは明白だ。
 だがそのほとんどはパラ実生らしく、どう見ても「受験生達をいたぶりに」来たようにしか思えない。
 念のために残心も使って身を護りつつ、殺気看破で相手の気を探る。
 スキルに反応したのは、訝しげな和希を発見したからだ。

「おらおら! メイド様のお通りだぜ。
 玄関を開けやがれっ!」
 
 ドゴォッ!
 
 下宿の外壁に強烈なグーパンチ!
 そのまま力づくで下宿に上がろうとする。

「何しやがる! おまえら!」
「そうだよ! あんた達。
 勝手にあたしより目立っていいって、誰が言ったんだよ?」
 和希はえ? と下を見た。
 メイド達の前に、茅野 菫(ちの・すみれ)が腰に手を当てて、不敵に笑っている。
「下宿への秩序ない乱入は……【みんなの妹】のこのあたしが、管理人に代わってお仕置きだよ!」
 はっ! と、三体の召喚獣を召喚する。
 明けに取られているメイド達を、純白の杖の先端で指して。
「さあ、サンダーバード! フェニックス! ウェンディゴ!
 適当にやっつけちゃえっ!」
 三体はここが見せ場とばかりに、「適当に」メイド達を蹴散らす。
 
 だがあまり派手にやると、マレーナに気づかれて、下宿の者達も脅えてしまうに違いない。
 
「菫、もういい!
 おい、お前ら! 俺をよく見ろ!!」
 
 体の位置をずらし、逆光から逃れた。
 屋根の上から和希は親指で自分を指さす。
「俺が誰か? パラ実生なら知ってんだろう?
 いや、パラ実生じゃなくとも……【ロイヤルガード】の姫宮和希だ!
 ここは俺の顔に免じて、収拾させてはもらえないだろうか?」
「……てことは……げぇっ!
 【パラ実新生徒会会長】様でございましたかっ!!!」
 一斉にひれ伏したのは、それだけこの肩書きの名声には意味があるからだ。

「なぁーんか、つまんない。
 これって、時代劇の印篭と同じじゃん?」
 
 その菫を、ひれ伏すふりをして押し倒そうとする影がある。
「伏せろ! 菫」
「へ? きゃ!」
 菫は横っ跳びで逃れる。
 バランスを崩した幾名かのメイド達に向けて、和希は鬼眼で威圧。
 動けなくなった後、ボコボコにして荒野にほうりだした。
 菫は必要なくなったサンダーバード達を収めつつ。
「サンキュー、和希♪」
「いや、召喚獣で連中を殺しちまうのも、どうかっと思ってさぁー」
 
 ともあれ、これで「不届き者のメイド達」はいなくなった。
 真面目なメイド達数十名に向けて、菫は、
「本当にあんた達、受験生のためになりたいと、そう思ってんの?」
 背後に手をかざす。
 そこには、メイド達の到着を心待ちにして窓にへばりついている下宿生達の姿がある。
「はい、召喚獣のお嬢様」
 メイド達は恭しく首を垂れる。
「しょうがないな……でも、その代・わ・り!」
 どさどさどさ、なぜかイルミンスール制服(しかも初等部)を目の前において。
「これに着替える!
 嫌とは言わせないわ!!」
 軽く威圧する。
 メイド達は召喚獣が控えていることもあり、恐れをなしたのか?
 戸惑いつつも、その小さな制服に着替える。
 一同をザッとみて、和希はなるほどな、と頷いた。
「そうか! 見た目から可愛くすれば、確かに怖くはねぇな」
「えぇ、でもまだまだ!
 あたしの調教は、完璧でなくちゃ!」
 作業が終わるのを待って、菫は次なる指令を下す。
「そういう訳で、皆さんには今から夜露死苦荘下宿生達の【みんなの妹】になって頂きます」
「げっ、それはいくらなんでも……」
 無理がありすぎね? という和希の言葉を片手で遮って。
「大丈夫! 元祖【みんなの妹】の私についてくれば!
 まずは妹的しぐさと言葉遣いから!」
 
 ……そうして、我儘の仕方まで完璧に【みんなの妹】化した出張メイド達は、立ち居振る舞いの不気味さゆえにかえって下宿生達から嫌がられ、【みんなの妹は最凶!】と恐れられることとなる。
 
 だが結末を知らぬ菫は、今は嬉々として調教に励むのであった。
「おら、そこっ! サボってんじゃないよ!
 今日からみーんなまとめて【みんなの妹】組なんだから!
 いい? 【みんなの妹】地位向上のために頑張んの!
 【みんなの妹】、ファイト!」
 
 ふうっと息をついて、和希はおもむろに井戸に目を向けた。
 下宿裏のそこでは、多少不安げなマレーナがガイウスと話し込んでいる。
 
 大丈夫だ、マレーナ。
 チンピラでも来て、騒ぎを起こしていたのであろう……
 
 武骨に告げたガイウスの姿勢は、わずかに「要人警護」を思わせる構えをしている。
 和希は僅かに笑うと、不器用な相棒にそっとエールを送るのであった。

(頑張れよ! ガイウス)

 ■
 
 菫によるメイド達の調教が終わったのは、正午前だった。
 【唯我独尊のオーナー】達の使命と、なぜか【みんなの妹】の使命を背負わされた彼女(?)達は、プレッシャーに顔をしかめつつ、次々と下宿の中に上がり込んでいく――。