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シルバーソーン(第2回/全2回)

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シルバーソーン(第2回/全2回)

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第1章 守るべきもの 2

 エリシュ・エヌマの対地魔法粒子砲を持ってしても、《影》たちを全て掃討するには叶わない。
 街に向けて撃つわけにもいかないことから距離をとる上に、細かな狙いをつけることも出来ないからだ。
 しかも、エリシュ・エヌマの役目は攻撃にあらず。迎撃用の装備は整えてあるものの、それらに過度の期待は持てなかった。
『ロベルダさん』
 街に侵入してきたシャドーを叩き斬ったあと、ロベルダの腰にあった通信機から聞こえたのはある男の声だった。
「おや、浩一さん。いかがなさいましたか?」
 ロベルダは視線を配った仲間たちにその場を頼むと、いったん後ろに下がる。
 通信機の相手――久我 浩一(くが・こういち)に向けて、老獪な執事はすかさず応答した。
『そちらの様子はどうですか?』
 浩一の声は、心配と不安が混ざったようなものだった。
「倒しても倒してもキリがありませんな。幸い、エリシュ・エヌマの攻撃が侵入してくる敵の一部を一掃してくださいますが……さすがに街にまでは撃ち込めませんので。残りの敵は白兵戦で対抗するしかありません」
『そうですか。……実はちょっと、それらのシャドーたちに対して有益な情報が』
「ほう?」
 それは興味深い話だ。
 もしかしたら、敵軍に勝つ突破口になるかもしれないと思われた。
『どうやら連中は、《黒い柱》を魔力の中継点として生まれているようです』
「《黒い柱》……」
 初めての情報に、いささかロベルダも眉根を寄せた。
『いわばそれがシャドーたちの発生源。……さすがにどこにどれだけあるかまでは分かりませんが、それを破壊していけば戦況は大きく変わってくるはずです』
「なるほど……」
 発生源を壊していけば、いずれはシャドーの数も減っていくだろう。
 ただもちろん、それだけに固執していては街の守備が疎かになってしまう。あくまで余裕があった場合。あるいはそれを見つけたときに判断するのが、現状の作戦になりそうだった。
『俺の部隊のほうでも一つは見つけましたから。今からそれを破壊しに行きます』
「分かりました。くれぐれも、お気を付けて」
『そちらも。ご武運を』
 浩一の通信はそれで途切れる。
 それにしても、情報分野に関してはこれ以上ないぐらい適当な人材だった。各分野、いずれも秀でた人間というのはいるが、浩一のそれは実に適材適所だったろう。
 ロベルダは彼から譲り受けた通信機を使って各所に連絡を送ると、再び剣を構えた。
(私も、負けていられませんからな)
 決意を新たに、剣を携えた執事は前線へと舞い戻っていった。



 バチッ!
 ライトニングウェポンによって電撃を付与された弾丸が、シャドー目がけて連射された。
 しかし、シャドーたちはそれをゆらりと音もなく避ける。左右を飛んだ弾丸から避けようとしたとき、彼らは必然的に中心に固まることになった。やはり、思考能力はそれほど高くないようだ。
 銃弾を放ったハンドガンを片手に、浩一は自分の推測が当たっていたことを確信した。
「千里、前にっ!」
「任せてください!」
 同時に、浩一の言葉を合図にして、彼のパートナーである希龍 千里(きりゅう・ちさと)が前へと飛び出した。
 シャドーたちはとっさに距離を取ろうとするが、遅い。すでに千里の両手は重なり、自らの前に突き出されている。
「はあああぁぁぁっ!」
 武闘派少女の凛とした気合いの入った声音。
 重なって突き出された両手の前に集まったのは光の力だった。それは瞬時に丸い珠の形へと変化する。心身の調和が取れた武闘家のみが体得できると言われる〈則天去私〉の光だ。千里は重ねていた手を離すと、右腕を引いた。珠はそこにとどまったまま、激しく渦巻いている。
 そして――
「ッ!」
 叩き込まれた右拳が光を貫き、その力を纏ってシャドーたちへ打ち込まれた。
 ボウッ!
 と、巨大な光の珠が膨れあがる。それはシャドーたちを包み込み、一気に渦巻いた。渦の中で、シャドーたちは消滅していく。
 まさしく浄化の光。武闘家が放つ、聖なる拳の一撃だった。
「……さすがですね、千里」
 光の珠が空気に霧散して消えたあと、浩一はそう言って千里を褒め称える。
「いえ、そんな……」
 だが、きゅっと結んだ唇と鋭い眼光を持った娘の顔は、実に遠慮深いものだった。
 たとえ敵を倒したこのときでも、気を緩めてはならないという、謹厳な態度がうかがえる。
「これで、とりあえずは前進になるでしょうか」
「そうだね。おそらくは」
 千里の言葉に頷いてみせて、浩一はハンドガンを構えた。
 その銃口が狙い定めるは、人一人の身長ほどはありそうな《黒い柱》。
 引き金が引かれると、銃弾が《黒い柱》を貫く。まるで水晶が割れるような音を立てて、亀裂が走った柱はミシミシとその亀裂を広げる。やがては、バリンッと粉々に砕け散ってしまった。
「やりましたね、浩一さん!」
 浩一のもとに駆け寄ったのは、彼の部隊に属する諜報隊員たちだった。主に情報の回収と報告をメインとする浩一の諜報部隊は、またこうして新しい情報を各地に伝達させるだろう。
 シャドーが生まれてくるこの《黒い柱》についての情報を与えてくれたのも、彼らだった。
「そうですね、皆さんのおかげです」
 心の底からそう思って、浩一は彼らに笑いかけた。
 しかし、内心ではまだ終わっていないと冷静な声が語りかけている。
(……全ては黒夢城。そしてモートとアバドンを倒さねば、終わらないのですから)
 はるか彼方の瘴気に満ちた空を見つめて、浩一はハンドガンをホルスターに収めた。