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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

リアクション

 戦いは、彼らの想像以上に困難を極めた。
 タケシと彼を護るドルグワント、それだけであるならまだどうにかなったかもしれない。見分けのつかない外見をした4人の少年が人間でないのはあきらかで、彼らの放つエネルギー弾や真空波、バリアによる防御は厄介だったが、それでも数は少ない。地下に下りていた者たちが加勢に加わった今、コントラクターの能力であれば押し切ることも可能のように思えたが、厄介なのが彼らの周囲を埋めるように立ちはだかった研究員たちだった。
 一般人とコントラクターでは、圧倒的にコントラクター側が有利。それはパラミタにいて知らぬ者がいないほどあきらかな事実だ。
 とはいえ、それは対等の条件下であればの話。
 数ではるかに勝る上、全力で殺しにかかってくる相手に対し、こちらは手加減して戦わなくてはならない。それは、ただ殺すという行為よりも数倍難しい。しかも腕を折ろうが足を撃たれようが、彼らはものともせず起き上がって向かってくる。
 彼らは負傷者だった。爆発や火災、逃亡の影響でもともとけがを負っている。その上の戦いだというのに、この闘争心は何だ? これではまるで――――
「さながらアンデッドといった様子ですね」
 クレアの疑問をハンスが言葉にした。
 大丈夫と言ったもののやはり体調が思わしくないのか、もう息が上がっているようだ。
 それでも彼女を護るため、敵を寄せつけまいと歴戦の武術を発動させ、スピアをふるっている。
「ここまで彼らの意識を支配できるとは……あの石は、一体どれほどの力を持っているんだ」
 向かってくる者たちを歴戦の必殺術ととどめの一撃を用いて確実に戦闘不能へと追いやりながら、クレアは独り言のように答えた。
 彼女の脳裏に、月夜白花の姿が浮かんだ。彼女たちに武器を向けた、あれもまた、石の仕業であるのは間違いない。ライゼを操ったのと同じで…。
 くだんの石は今、ライゼの手からタケシへと移っていた。ライゼはまるで彼こそ自身のパートナーであるかのようにつき従い、彼を護っている。
 見覚えのない少年だった。頭部に赤い光を点灯させたヘッドセットを付けている。ときおり赤い人工的な光を放つグレイの瞳。白衣風コートの下は蒼空学園の制服だ。
 ということは、蒼学生か?
(この襲撃に蒼学が噛んでいるとは思えないが……あとで山葉理事長に確認をとらねばなるまいな)
 その特徴を記憶に刻もうと夕闇に目をこらす。
 捕縛へと持ち込みたかったが、そのためにはまずこの研究員たちの壁を突破しなければならない。
 敵は目的の石を手に入れている。今にも転身し、この場を去るのは目に見えていた。――時間がない。
 キルラスから連絡を受け、駆けつけた者の1人クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)は瞬時にそれと見てとった。
 彼は指揮官である梅琳の姿を見止めるや、すぐさま射殺許可を求めた。が、梅琳はかたくなにそれを拒絶した。
「教導団員が同じ教導団員を殺すなど、あってはならない」
 それが彼女の言い分だ。
 クローラは甘すぎると思った。
 このままでは間違いなく逃げられてしまうだろう。これだけの事態を引き起こした相手をむざと取り逃がすことが、はたして正義か?
 それはのちに今以上の災禍となって跳ね返ってくるに違いなかった。そのとき被害者となる者の数は、おそらくここにいる者の数倍の数にふくれ上がる。いざそのときがきて、彼らを前に教導団に責任はないと言い切れるのか?
 まして、あの研究員たちはすでに満身創痍だ。全身に傷を負い、流れる血は決して少なくない。それでも立ち上がり、向かってくる。新たに負った傷口から血を吹き出しながら。
 これは緩慢な死ではないのか?
(だが階級は絶対だ)
 言いたいことは山のようにあったが、噛みつぶし、飲み込んで、クローラは「了解しました」と短く応えた。
「クローラ?」
 無表情を貫く彼の心中をおもんばかり、セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が声をかける。
「ここから狙撃する」
「え? でも――」
「間違いなくこちらにも敵の攻撃がくるだろう。おまえには防御を頼む」
 セリウスは教導団に身を置いているが、もともと好戦的な性質ではなく、人を傷つける行為を嫌っている。傷ついている彼らを、さらにおまえの力で傷つけろと言うのはあまりに酷。
「クローラ…」
「なぜライゼたちが操られているか不明だが……おまえがそうでなくてよかった」
 もしそうなっていたら、撃たねばならなかっただろうから。
(たとえ相手がおまえでも、あそこにいれば、俺は撃つ)
 その信念は決して言葉にされなかったが、ぴんと伸びた背筋に、セリオスははっきりと理解していた。
 それが軍人クローラ・テレスコピウムだ。友を気遣うやさしさと、その友であろうと撃つという非情なまでの厳格さが混ざり合い、不思議とその身に同居している。
 傷つかないわけではない。傷つくことをおそれていないだけ。
「僕は……そんなきみの『盾』だ」
 だれにともなくつぶやかれた言葉は、セリオスの胸に違和感なく染み入った。
 自分自身ですら守ろうとしないその心を、ほんのわずかでいい、守れる者でありたい。
(なぜ僕が彼女たちのようにならないのか、僕にも分からないけど……この先何が起ころうとも、決して僕だけはきみを傷つける側に回ったりしないよ)
 タケシへ近付こうとするクレアたちの前進を手助けするべく、次々と脚部を狙い撃っていくクローラ。ほどなく彼に気付いたタケシの目が向いた。
 同時にドルグワントの1体が人々の頭上をはるかに越える跳躍で彼らの面前へと躍り出る。撃ち出される数々のエネルギー弾。それらはすべてセリオスの操る鉄のフラワシが受け止めた。
「僕はひとを傷つけたり、殺したりするのは本当にいやなんだよ。それはたとえ、敵であるきみでもね。
 でも知っているひとたちが傷つくのを見るのはもっといやだから、きみの思いどおりにさせてあげるわけにはいかないんだ」
 物腰のやわらかな外見に見合った、品のいい口調でにっこりと笑う。しかし行為は断固としていた。
 少年が高速で繰り出す攻撃のことごとくを鉄のフラワシで受け止める。クローラにはかすらせもしない。鉄壁の防御を敷く。
 フラワシを操る間、コンジュラーは無防備になる。
「おまえたちはセリオスを護れ」
 こちらへ向かってくる研究員たちを見て、クローラがキノコマンたちに命じたときだった。
 漆黒の影が自動ドアから飛び出してきた。
「なに!?」
 驚く者たちの間を風のようにすり抜けて追い越し、地面すれすれを疾駆する。それは樹月 刀真(きづき・とうま)だった。
 石を持つタケシをまばたきもしない目で見据え、人々を生きた盾として影から影へと渡って間合いへ捉えようとしている。向かい来るエネルギー弾はその風のごとき動きでことごとく避けた。ライゼの放つ真空波も、彼の脅威の速度についていけない。
「ルドラさま、わたくしが必ずやお守りいたします」
「イコナ!?」
 驚く鉄心の前、イコナが無光剣を手に刀真の進路に立ちふさがった。
 片手は鉄心にねじられたときのまま、だらりとぶら下がっていた。そんな状態で、ファイナルレジェンドを導こうとしている。しかしどう見ても刀真の方が早い。
 言うまでもなく、イコナが刀真に対抗できるはずがない。技が発動するより先に――たとえ発動したとしても避けられて――彼女が斬られるのは火を見るよりあきらかだった。
「イコナちゃん! だめーーーっ!!」
 イコナの危機に、目覚めたティーが彼女をかばい立つレガートにすがって悲鳴を上げる。
「よせ!!」
 鉄心がイコナを胸に抱き込んで転がるのと、クレアが横からタックルを仕掛けるのとが同時に起きた。
「邪魔をするな」
 もつれ合い、転がった先で、刀真は上になったクレアを無表情に見上げる。
 クレアののど元には、黒の剣の刃が触れる寸前まで迫っていた。
「たとえおまえでも、俺の邪魔するのであれば敵だ。容赦はしない」
 殺意はない。殺気もない。ただ、力を行使する意思のみがある。
 完全に常軌を逸している――剣を持つ手をぐいと押しやり、刀真を、クレアは思いきりひっぱたいた。
「この大ばか者! 頭を冷やせ!!」
「頭は冷えている。これ以上ないほどにな」
「冷えてなどいない! 固定され、固まってしまっているだけだ!」
 胸倉を掴み、引っ張り上げる。
「なにが邪魔だ、だれが敵だ! そんなことを口にする今のおまえは盲目も同然だ! 仲間を斬ろうとするなど、それでも誇りある教導団員か! なさけない!!」
「おまえだって地下では射殺許可を求めたじゃないか」
「あれは彼らが正気に返る保証がなかったからだ! 今とでは状況が全く違う! だがおまえは状況など考慮していない! ただ自分の邪魔をするから殺そうというのだろう!!」
「…………」
 違う、とは言えなかった。そのとおりだったからだ。そして今も、それが間違っているとは思わない。
 月夜と白花は俺の物だ。髪の毛の先から足のつま先まで、心から魂まで。残らず、丸ごと、2人は俺の物でなくてはいけない。それは永遠の不文律であり、何者であろうとそれを揺るがしてはならない。――ならなかった。今までは。それを崩したのだ、あの敵は。
 だからこの手で葬らなくてはならない。それを侵すやつは許してはならない。その存在を認めない。欠片も残さず滅してやる。それを邪魔する者は全てやつと同類。排除して何が悪い。
 彼の冷えた頭は淡々とそう訴える。理路整然と。これほど筋のとおった話はないと。
「……っ!」
 クレアは突き飛ばし、立ち上がった。
「今はおまえの相手をしている暇はない! 私の言ったことが本当に冷えた頭で理解できるまで、おまえはそこでそうしていろ! 戦線には出るな!」
 そしてハンスの元へ戻り、戦いに復帰する彼女を、刀真は黙したまま見ていた。