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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

リアクション


●遺跡〜3階研究区

「……本当だな」
「嘘よ!! ドゥルジ、ベルたちを信じて! きっとベルたちがアストーも解放してみせるから!!」
 必死に訴えるオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)の前、ドゥルジは睡眠漕に残ったアストーの石を黙々と集めると、ルドラにうながされるまま、奥のドアから去って行ってしまった。
「ドゥルジ!!」
 ドン! とドアをたたく。あせりから何度も打ち間違いながらもとにかくキーを打ち込み、ロックを解除しようとしたけれど、ナンバーを変えられてしまったらしくドアは反応しなかった。
「ドゥルジ、ドゥルジ……ねえっ!!」
「ベル…」
 師王 アスカ(しおう・あすか)が慰めの手を両肩に回し、抱き寄せる。
 その後ろで蒼灯 鴉(そうひ・からす)はこぶしを震わせていた。
「くっ……あのクソガキッ! どっちも信用薄いからって、あきらかに嘘をついている方に行くか、あのボケ!!
 あーくそッ!! 今ここにいたらぶん殴ってやるのにッ!!」
 彼は本気で憤っていた。
 オルベールとは普段からいがみ合っているし、自他ともに認める犬猿の仲だが、それでも彼女をこんなふうに泣かせるやつはもっと虫が好かない!
「で、これからどうするの? 彼、行っちゃったけど」
 ホープ・アトマイス(ほーぷ・あとまいす)だけが妙に冷静に、冷めた意見を口にする。
「もちろん、追うわよ!!」
 アスカの胸から顔を上げ、オルベールが即答する。そして、自分が涙を流していることに初めて気づいた様子で、振り払った。
「おまえ…」
「なによバカラス。間違えるんじゃないわよ、泣いてるのはシャミよ。ベルはねぇ、怒ってんのよ!」
 ほんと、あのばか! 鈍感! 分からず屋! 
 一途で、不器用で、お母さんのことばっかり考えて!
 こんなにみんながあんたのこと考えて動いてるっていうのに! 少しは自分のために動いたらどうなの!!
 ――ドゥルジは……ここしか知らないの…。私と同じ。

 オルベールのなかで、おずおずとシャミが口を開く。
 ――世界とか、ひととか、考えることも思いつかないの。アストーさまのことしか考えてこなかったから…。

 母・アストーがいなければ。彼は何千年も昔にここを逃げ出していたに違いない。
 もしかするとその想いさえも、彼を縛りつけるために科学者たちによってつけられた、見えない足枷なのかも…。
「世界は広いのよ、シャミ、ドゥルジ。あなたたちには想像もつかないくらい。
 ベルが、絶対解放してあげる!!」
 ふつふつと決意をみなぎらせるオルベールに。
「ふーん、そう。で、これからどうするかって訊いてるんだけど?」
 ホープはどこまでもマイペースというか、クールだ。
「だから追うんだってば!」
「追うと言ったって、ここ通れないんでしょ。それに、居場所分かってるの?」
「……分かる、と思う。シャミが教えてくれたの。4階の『繭』……アンリ博士の研究室に、多分いるって。そこに睡眠漕があるらしいし、ルドラもいるから」
 ルドラ、という名前に、またもオルベールのなかのシャミがおびえた。
 委縮し、手足を縮めて震えているのが分かる。
(怖いの? シャミ。でもだれかを護るためには、そのひとのことを最優先にしないと。怖がって、何もできないでいるっていうのは、その大切なだれかよりも自分を大事にしてるってことなの。そんなふうにしてる限り、護りたいなんて願いがかなうわけないのよ!
 ね? シャミ。ベルはドゥルジに笑顔になってほしい。あなたが見せてくれた、昔の笑顔を取り戻してあげたい。そのためなら、ベルは怖いのも、傷つくのも平気よ。そんなものに絶対負けない。
 あなたもそうでしょう? だから一緒に、彼をここから解放しよう?)
「ベル? どこへ行くんですの〜?」
「5階。女神の居住区から4階の『繭』近くへ下りる道があるの。ちょっと遠回りになるけど、その道の方が安全みたいだから」
 通路へ続くドアの前に立ち、開錠しようとして、ふとその手を止めた。
 振り返って、アスカ、鴉、ホープを見つめる。
「みんな、ここまで一緒に来てくれて、ありがとう。ドゥルジと会って話ができたのはみんなのおかげよ。すごく感謝してる。
 でもここからは…」
 間違いなく、危険になる。生きて帰れるかどうかも分からないくらい。
 自分はいい。もう決めてるから。だけど、アスカたちまで巻き込む権利は自分にはない…。
 うつむいたオルベールを、ふわりとアスカの両腕が抱き締めた。
「ドゥルジもばかだけど、ベルも十分おばかさんでしたのね〜。最後まで付き合う覚悟なんか、みんなとうにできてますわぁ」
「アスカ…」
「それもなしで、ここに来たりなんかしませんわぁ」
「言ったでしょ。これからどうするか、って。ベルが決めていいんだよ」
「あのクソガキ、一発ぶん殴ってやらなきゃ気がすまねぇしな」
「……バカラスの方が年下よ、間違いなく」
 くすっと笑う。
「それがどうした。経験値は俺の方がずっと上だ」
 鴉も負けていない。
「そうね。それはそうかも」
「さあ、行きましょう〜」
 彼らを追ってきていたドルグワントたちはいつの間にか姿を消していた。ここへは入れないとみて、ほかの侵入者の元へ向かったのかもしれないが、不意をついてどこから現れるとも限らない。
 油断なく周囲に目を配しながら、4人はオルベールを先頭に5階へ続く階段へ向かった。



●遺跡〜5階箱庭

「メシエ? エオリア、リリアまで!?」
 突然身を折って苦しみだした3人のパートナーに、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は目を瞠った。
 ついさっきまで普通に話していただけに、唐突すぎてわけが分からない。
「エース、気付いてなかったの? みんなすごい熱出してたんだよ?」
「えっ? ……なんだってそんな…」
 エースも3人が体調を崩していることは知っていた。だが戦闘もこなしていたし、きちんと会話もしていて、まさかそこまで深刻な状態だったとは考えてもみなかったのだ。
 3人ともエースには隠そうとしていたのだから、彼が気付けなくても仕方がないことではあったが、エースは己のうかつさに内心歯噛みをする。
「リリア、大丈夫?」
 リーレン・リーン(りーれん・りーん)はうずくまったリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の横について、少しでも楽になるようにと背中をさすった。リリアはちぎれるような息をして、頭に手を添えている。目を閉じて苦痛に耐えている様子で、リーレンがそばにいるのも気付けていないようだ。ほどなく、リリアは倒れてしまった。
「リリア!」
 彼女に続くように、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)と次々と地面に倒れる。
「くそっ!
 おい、エオリア! 大丈夫か?」
 うつ伏せになっていたエオリアの身をあお向けにし、体力の回復にとひとまず命のうねりをそそぎ込もうとしたときだった。
 ぱちりとエオリアの目が開く。
「気付いたか、エオリ――うっ!?」
 かざしていた腕に焼けつくような痛みを感じて、手をひっこめる。
 エオリアが身を起こすと同時に、チャスタティソードを振り抜いていた。
「エース!?」
 驚きに目をぱちぱちさせるリーレンの前、エースとエオリアが互いをけん制するような動きで立ち上がる。
「……リーレン、俺の後ろへ回れ……ゆっくり、急いで」
 エースはエオリアと目を合わせたままそう言った。まるで、目を離した瞬間襲いかかりかねない獣を前にしているかのように、慎重な声で。
 リーレンはわけが分からないながらも、エースに従ってゆっくり、エオリアを刺激しないように彼の後ろへと回る。
 直後、リリア、メシエと目を覚まし、ゆらりと立ち上がった。
「よかった! 2人とも気がついたんだね!」
 喜びに輝いたリーレンの表情が、次の瞬間凍りつく。彼女の声に刺激されたように、エオリアがとびかかってきたのだ。
 彼の振り下ろす剣とエースの飛竜の槍との間で火花が散った。
「エース!? エオリア!?」
「――なんて、力だよ…」
 槍を持つエースの手がぶるぶると震えていた。
 互いを突き崩そうとするかのように、つばぜり合いをする2人。せめぎ合うそこへ、リリアがソード・オブ・リリアを手に駆け寄った。
 2人を相手には無理だ。
「すまん、エオリア!」
 エースは槍の角度を変え、剣をすり流すや石突でエオリアのみぞおちを打つ。倒れかけた彼をリリアの方へ突き飛ばした。
 エオリアはリリアを巻き込んで石畳へ倒れる。
「今のうちだ! 逃げるぞ、リーレン!」
 返事も聞かず、リーレンの手首をとってエースはドアへ向かって駆け出した。
 だがたどり着くことはできなかった。
 彼らの行く手をふさぐように、霧隠れの衣を用いたメシエが実体化する。
「メシエ、おまえもか…」
 先のエオリア、リリアもそうだったが、メシエもまた、もう痛みに苦しんでいる様子はなかった。静けさをたたえた赤い瞳が無感動にエースを見つめている。
「目を覚ませ、メシエ! 俺だ、エースだ!」
「もちろんきみはエースだ。何か勘違いをしているようだね。私も、あの2人も、きみやリーレンのことはきちんと覚えているよ。正確に理解もしている」
「なら――」
「ただ、それよりもずっと優先するべき事項があると思い出したというだけだ」
 メシエの手のなかにパリパリと青白い光が集まりだす。――サンダークラップだ。
 エースは肩越しにそっと後ろをうかがった。リリアやエオリアもそれと気づいているのか、巻き込まれることのないよう距離をとって立っている。
「それが俺を殺すことだっていうのか!? 俺が死んだらおまえたちもどうなるか、知っているだろう! ロストするんだぞ!」
「知っているとも。きみもちゃんと聞きたまえ。それよりも優先すべき事があると言ったばかりじゃないか」
「それに、べつに殺さなくてもいいんです。動けなくしてダフマから放り出せばいいんですから」
 エオリアが肩をすくめてメシエに同意する。
「もちろん、抵抗するなら殺すしかないけど……だってエース、あなたそこそこ強いし。強く抵抗されたら私たちも誤って殺しちゃうかも」
「エオリア……リリアまで…」
 愕然となるエースに、そのとき背中にかばったリーレンの震えが伝わってきた。
 彼女も彼らの言葉に絶句するほど驚き、そして恐怖を感じている。
「……リーレンもか?」
 探るような彼の言葉に、数瞬3人は黙った。何か思案しているようだ。
「タケシのこともありますしね。彼女は拘束させてもらいましょうか」
「ええ、そうね」
「ルドラさまのご判断をあおがねばならないだろうが……もちろん抵抗するのであれば、死なない程度に動けなくさせてもらう」
 それを耳にして。カッとエースのなかを怒りが走り抜けた。
「ルドラ「さま」だと? 「ご判断をあおぐ」だと? いつからおまえは他人の下僕になりさがることを良しとするようになった! 『自分の主は己自身のみ』が信条だったはずだろう!!」
 その言葉にもメシエは微動だにしない。しかし内心痛いところを突かれたのか、手のなかの力が霧散した。
「今だ、リーレン!」
 脇を抜けていくエースとリーレンを、メシエは黙って行かせた。追撃もかけない。
「メシエ? どうかしたの?」
「――1度だけだ、エース。これまでのきみとの日々に免じて、1度だけ見逃してあげよう」
「だけどメシエ、ルドラさまはそんなこと許しませんよ? エースはきっとおとなしく出て行ったりはしません」
 メシエのつぶやきにとまどったようにエオリアが言う。
「彼は逃げないだろうね。おろかにも、私たちを元に戻す方法があるのではないかと思い、このなかを探索するだろう。
 狩り出してあげようじゃないか。彼のパートナーであるわれわれの手でね」
 2人に異論はなかった。彼らの知るエースなら、きっとそうする。
 メシエを先頭に、3人はエースとリーレンの消えたドアから抜けていった。