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よみがえっちゃった!

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よみがえっちゃった!

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 きょろきょろ辺りをうかがって。
「なんだか今日の街は騒々しいわねぇ〜」
 師王 アスカ(しおう・あすか)は独り言のようにつぶやいた。
「ん? そうか? いつもこんなものじゃないか?」
 それを受けて蒼灯 鴉(そうひ・からす)も一応周囲を見渡したが、彼には「活気がある」と映ったようだ。

 彼らと同じ通りを今、
「早く! 急いでこの街を出て隠れなくちゃ!!」
 と叫んで人々を蹴り倒しながら少女が少年の手を引いて横断していったりしたのだが。
 (加えて「待ってください〜」とあとを追っていく少女もいた)


 そしてなぜかアスカたちを追い抜いて走って行ったダンボール箱(大)……。



 まあたしかにツァンダの街ではいつものことかもしれない。



 アスカも納得して、それ以上そのことについて考えるのはやめた。それでなくても今、彼女は頭の痛い問題を抱えている。
 ドゥルジ・ウルス・ラグナ(どぅるじ・うるすらぐな)のことだ。
 最近とある奇縁により契約したこの機晶姫とのコミュニケーションに、アスカは悩んでいた。
 まず、人間ぎらいだ。――人間であるアスカにはこの時点で分厚い壁がある。
 無口でほぼしゃべらない。――コミュニケーションの基本スキル自体に問題がある場合、どうしろと。

 結果、何を考えているのかさっぱり分からない。

(知り合った当初の鴉より、さらに扱いづらいわね〜、この子)
 連日の気苦労を思い起こし、しみじみ思う。
 そんなアスカの苦悩を見て、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は必死にドゥルジを弁護した。

「ドゥルジは純粋なの! ずっと自分を実験体として利用しようとする科学者や研究員たちしか知らなくて、10年前に目覚めたときだって、素直に「石を返してほしい」って言ったら嘘つかれたり殺されかけたりして……それでちょっと人間不信になってるのよ。でもそういうのって、裏切りや嘘がいけないことだって分かってるってことでしょ?」

 善悪の基準や価値観は自分たちと少しも変わらない、と訴える。
「まあ、それはそうねぇ〜」

 現状、一番の理解者はドゥルジを昔から知るシャミの記憶を持つオルベールだった。
 空大に編入してからずっと、ほぼつきっきりで彼の面倒をみている。
 アスカはオルベールのことが好きだから、そんな彼女がかばっているドゥルジとも仲良くできるよう努力しよう、今はそんなところか。
 もっとも、オルベールとも犬猿の仲の鴉には、そんな考えはさらさらないようだが。

「俺ぁもともとこいつのことなんかきらいだからよ。向こうだって同じなようだし。何する必要もないだろ。
 おまえも無理して仲良くする必要なんかないぞ。べつに今さらお手てつないでみんな仲良くってトシでもねえしな」
 と、ケロリとしている。

「それもそうかもしれないけど〜」
 たしかに性格の不一致というのはある。それはもう生まれもってのものだからいかんともしがたい。
 そしてなんだかんだ言いつつもオルベールと鴉はうまくやっていっている。……まあ、そこには「アスカが好き」という共通項があるからだが。
 本当にいざというときには共闘だってするし。だからドゥルジとも何とかうまくやっていけたらいいのだけれど…。

 そんなアスカの心中を読んだように、鴉はぽんと頭に手を乗せた。
「あんま、やきもきすんな。物事っていうのは自然と収まるとこへ収まるもんだ。今は距離感がつかめなくて互いにおぼつかないけど、そのうち適正な位置で落ち着くに決まってる。
 大体、ドゥルジのやつだって似たような不安があるに違いないんだ。契約するのだって初めてだろうしな。おまえは中心で、どっしりかまえてりゃいい」
「……ええ。そうね〜」
 鴉にそう言われるとそういう気がしてくるから不思議だった。一番ケンカっ早くてだれにもおもねようとしない、マイペースな者のくせに、妙に言葉に説得力がある。

「……鴉も、そうだった?」
 ふと思いつきを口にしてみる。
「さあな。……それより、あいつらさっきからあそこで何してんだ?」
「え?」

 鴉のいぶかしげに眇められた目線を追った先、ドゥルジとオルベールがフードマントの者と話し込んでいた。
 フードマントの者はアスカたちの視線に気づいたのか、会釈をしてすぐ離れて行ってしまう。
 そしてドゥルジは――――


 やおらオルベールに飛びついて、そのまま押し倒した!


「あらぁ〜 ☆ 」
「おまっ…! ここは公道だぞ!!」

 顔を赤らめるアスカと血相を変える鴉。駆け寄った2人にも気づかない様子で、ドゥルジはオルベールの上におおいかぶさっている。
「やめろ! このばか!」
 一心不乱な彼の襟首を引っ掴み、無理やりひっぱがした。
「大丈夫〜? ベル〜?」
 ゆっくり上半身を起こしたオルベールは、何が何やら分かってない、どこか夢心地な顔つきでぼうっとしたままほおに手をあててた。
「ドゥルジが……ベルのほっぺにキスした…」

「いや、舐めてたんだ、あれは」

 冷静に鴉がツッコむ。
「にしても、いきなりどうしたってんだ、こいつ――痛っ!」
 手の甲を引っかかれ、鴉はぱっと襟首を放す。自由になった先で、ドゥルジは牙をむいていた。

 ――ガルルルルルルル…


「……なんだこりゃ? 犬か?」
「ベル?」
「分かんない。いきなりあの占い師って人が近付いてきたと思ったら「あなたの忘れてる過去や前世の記憶をよみがえらせてあげますー」って…」
「で、犬化したってか?」
 ぷぷっ!
「ド……ドゥルジ、おま、犬だったのかよ…っ」
 指差ししながら大笑い――していた鴉の手を、今度はガブッ!

「ギャーーッ!!
 この駄犬ッ!!」

「だめっ!」
 オルベールが両手を広げて背後にドゥルジをかばい込む。
「ドゥルジは悪くないんだから! それでもやるっていうならベルが相手だからね!」
「こんなドゥルジに手をあげようなんて、大人げないですわぁ、鴉〜」
「……いや、今のは絶対こいつが悪いだろ」
 なに? 悪いの俺?

 ――ま、そうですねー。婦女子は犬猫にひいきなものですから。


 一方犬ドゥルジは、2人にかばってもらっているのを理解してか、笑顔でオルベールにすりすりほおをすり寄せている。
「まぁ。かわいい」
「本当〜。普段もこんなふうに笑ってくれたらいいのにねぇ〜」
 そして鴉と目が合うと

 ――ガルルルルルルル…


「か、かわいくねえ! 全然かわいくねー!!」
 つーか二面性ありすぎだろ。女は良くて男は駄目だとでもいう気か?

 こうなったら動画に撮って、あとで正気に返ったとき、からかいのネタにしてやる。
 そう決めて携帯を開いたときだった。

 ドゥルジが今度はアスカにとびついた!
「きゃあっ」

「なっ!! それはだめだ!!」
 ほおを舐めようとした寸前、ひっぱがす。ドゥルジは不服そうに首ねっこを押さえた鴉を見上げ――そしてやっぱり噛みついた!
「いてえっ!!」
「あっ! ドゥルジ!!」

 まさに犬まっしぐら! 何かに呼ばれでもしたように、ドゥルジはどこかへ向かって一目散に走り出した。

「鴉、大丈夫〜?
 ベル〜?」

「追うのよ!」



*            *            *



「や、やめてください〜〜〜っ」

 公園の一角で、少女がへたり込んだ。
 すっかり当惑しきった、とてもなさけない声だ。
 しかしそうなっても仕方ないだろう。今、彼女の服はビリビリに切り刻まれてしまっている。胸元に掻き合わせているが、もはやほとんど服の役割を果たせていない。
 それをしたのが見知らぬ男だったなら、少女は強烈な悲鳴を上げて逃げ出していただろう。
 しかし、彼女の前に刃物を持って立っているのは、まぎれもなく女性だった。

「だめだ!」

 女は足下の少女を見下ろし、冷徹に告げた。
 金の瞳がぎらりと照っている。

「そんなことでは全然駄目だ! もっとこうしなくては!!」

 宣言するなり、女は少女に向けてさらに刃物をふるい始めた。
 容赦なく、それはもうザックザクに。

「ひっ、ひいいいいいいいい〜〜〜〜っ」
「こうだ! こうだ! こうだ!!」

 女が手を振るたび、はらりはらりと布が飛び散る。
 間もなく、そこにはあられもなく手足を出して必要最低限の場所だけギザギザの布で隠した……なんというか、森の野生児ファッションの少女がいた。
 真夏の海ならともかく、初秋の公園ではちょっぴり寒そうだ。

「……ふーっ」
 女は満足そうに額の汗をぬぐっているが、少女はもはや声も出ないほどおびえきっている。
「よし!」
 やり遂げたことにしたり顔で1人ウンウンうなずいた女は、次の獲物に向かって走って行った。


 その様子を、離れた場所から困惑げに見守っている2人が。
「……何をしておられるんですの? 麗華さん」
 ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)の目には、手当り次第かたっぱしから女性をひんむいて、ワンピースだろうがパンツだろうが、とにかく全部無人島イメージの超ビキニか縄文人スタイルに変えているように見えた。
 そしてそれは六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)にもそうだったようで。
「さ、さあ…?」
 すっかり豹変してしまった麗華・リンクス(れいか・りんくす)の姿に、めんくらってしまっていまだ平静を取り戻せずにいた。

「何か起きませんと、あんなふうに変貌したりしませんわよねえ、いくら乱暴者の麗華さんでも」
「そういえば…」
 と優希は想起する。

「何日か前に見ていましたテレビの街角ファッションチェックのコーナーで、麗華さんによく似た服装をされた方がコーディネーターにかなり厳しく駄目出しされていて、なんとなーく凹んでいたような…」


 だからファッション憎しで服を切り刻んでいる? とか?



「でも、それは何日も前なのでしょう?」
「えーと。
 あと、ミラさんがお買い物の会計をすませて来られるのをお待ちしている間に、何かフードマントの人に話しかけられていました」
 そしてその直後、ぶるぶる震え出したと思ったら突然猛ダッシュでここへ駆け込んできたのだった。

「――って、まさかあの人のせい!?」

「その可能性が高そうですわね。それで、その方はどちらに?」
「分かりません……麗華さんが心配で、そこまで気が回りませんでした…」
 意気消沈したものの、頭をぶるぶるっとふるって弱気を追い出す。
「と、とにかく今は麗華さんを止めるのが先決です! ミラさん、手伝ってくださいっ」
「ええ、もちろんですわ」


「次! 次はどこだ!」
 しくしく泣いている、通算10人目の女性の首の後ろでキュッと布を結び合わせた麗華は、新たな犠牲者を求めて周囲を見渡した。が、みんなとっくに逃げてしまっていて、めぼしい者はいない。

 いや、いた。
 しかも麗華へ向かって駆け寄ってくる。

「なんだ、優希たちじゃないか」
 新たな獲物に目を輝かせたのもつかの間、それが優希とミラベルだということに気付いて、とたん麗華はガッカリだというふうに手を下ろした。

「麗華さん! こ、これ以上の暴行は見逃せません! どうしてもするというのなら、先に私をしてからにしてください!」


 一応ことわっておくが、優希は麗華のファッションセンスに感じ入って、してもらいたくて立候補しているわけではない。


 自分がそうならない限りほかに被害が及ばない、そう考えたからだったが。
 麗華はいかにも残念そうに深々とため息をついた。

「優希じゃあなあ…」

「なっ…! なんですか、それは!! 私だとどうだっていうんですかっ!!」
 顔を真っ赤にして言い返す優希に、またも麗華は「へっ」というふうに肩をすくめてみせる。
「無駄無駄。優希は「着ヤセ」タイプだろ。つまり服で駄肉を隠すタイプってことだ。色気も全然ねーし。肌露出したってどうにもなりゃしねーよ」
「麗華さん! それは暴言です! 私は何も隠したりごまかしたりなんかしてませんっ!!」
 ほらほらほら! よく見てください! と景気よく脱ごうとした優希を、ミラベルが制止した。
「優希さま、抑えてください。……ほら、あちらに男性の目がありますわ」


 ミラベルが指したのは、噴水のそばに立つ七刀 切(しちとう・きり)だった。
 彼はずぶ濡れの服を着てうっすら微笑を浮かべたままで、さっきからの麗華の切り裂き行為やあられもない姿になった被害者たちの格好にも動じている様子はない。

 ――その様子、こう言っちゃ何だが、かなりキモい。



 優希はあわてて胸元まで持ち上げていた薄手のセーターを引き下ろした。

「と、とにかく。麗華さん、おちついて、一度家に帰りましょう」
「帰らねーよ。あたしはこの街にいる女ども、みんなこの姿に変えてやるんだ」

「麗華さま、そんっっなにこのファッションがいいと思われているんですか…」

「違うッッ!!」

 ミラベルの、不憫な子に向けるようなつぶやきを麗華は全力で否定した。

「おまえ、どんだけあたしにセンスがないと思ってるんだよ!
 あ、あたしだって、戦いさえなければこんなふうに着飾っておしゃれぐらいしたいさ…! だけど、そうはいかないだろ!? なのにこいつら、これみよがしにきれいな格好してあたしの前でぶらつきやがってっ!
 だからこいつら、全員センスゼロのファッションに変えてやるんだ!」
 それがこの無人島風超ビキニと縄文人スタイルだったと。

「麗華さま…。
 でもわたくし、毎日きちんと身だしなみを整えて、きれいな服を着ていますわ。それは麗華さんの単なる思い込みなのではありません?」

 ――あ。言っちゃった。


「……ミラベル……てめえ…」

「それにわたくし、麗華さまは好きでそのような格好をされているのだとばかり思っていましたわ。ですから口をはさむべきではないと思っていましたの。たしかにやぼったくてダサくて流行遅れな服を着ているなとは思っていましたが…」
「ミ、ミラさん…っ、あのっ、あのっ、れ、麗華さんは流行に左右されたりしない服装をされていて……その……色目も華やかなのではなくて、地味……あわわ、け、堅実な、落ち着いた色を選ばれているだけで…っ」

「まあ優希さま。いいんですのよ、フォローされなくても。だって麗華さまは普段の服装がダメダメすぎると気付いていらっしゃったのですから」
 ねえ、麗華さま? と見つめた先。
 麗華は肩をいからせ、はた目にもあきらかなほどぶるぶる震えていた。


「てめえ……ひとが黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって、この糸目!!


 ピク
、とミラベルの眉が反応する。
「いと…?」
「いちいちいちいち言うことが嫌味ったらしいんだよ! 前から思っていたんだがな、この際だから言わせてもらうぜ!
 てめえ無駄に着飾りすぎなんだよ!! クジャクか、てめえは! そんなんだから男が寄りつかねーんだ、この行けず後家が!!
「行けず…?」
 ピクピク


「あわわ…。れ、麗華さん、ミラさんも、お、おおおおお、おち、落ち着いて…っ」
「まあ優希さま。わたくしは落ち着いていますわ。優希さまこそ気を落ち着けてくださいませ」
「ミラさん…」
 ほっとしたのもつかの間。

「その間に、わたくしがこの礼儀を忘れた山ザルを成敗しておきますから」


……え゛?


「んだとぉ? コラ! 今何言ったあ!」
「……フ。フフフ…。
 先からの優希さまへの暴言も大概だが、わたくしにもそんな事を思ってやがったのかってんだ、このサル!!
 オウ、上等だ! 今まではな、その外見が年長者に見えるからこっちも合わせて立ててやってたんだよ! それを調子こいて図に乗りやがって! いっぺんとことんまでボコッて、だれが本当の年長者か思い知らせてやる!!」


 てめえなんざ、ナラカ送りだゴルァ(9゜Д゜)9!


 ――ってミラベルさん。完璧ひとが変わってますがな。



「だれが山ザルだ!! あたしはヤマネコだーーーーーっ!!」


 こぶしを固めた麗華が殴りかかろうと駆け出したときだった。


「だれかタッケテーーーーッッ!!」


 が2人の間を背中の翼機巧龍翼全開で通り抜けた。


「要、コロス!!」


 続いて悠美香が刀を振り回しながら。


 そして現れる、犬ドゥルジ
 横手からジャンプして、悠美香にとびついた。


「あ゛ーーーーーーっ!!」


 受け止めきれずあお向けに倒れた悠美香のほおを犬のように舐め回しているのを見て、要が急ブレーキかけて戻ってくる。

「ドゥルジ! おまえにはいろいろ思うところがあったりするけど、それだけは許さん!! 悠美香ちゃんは俺んだーーっ!!」

 ――ガルルルルルルル…


 ドゥルジは要に狼のような獰猛な威嚇のうなり声を発する。


「Hi,ドゥルジ! Come on!!」


 息せき切って追いついたオルベールが、ばっと両手を広げてドゥルジを呼んだ。
 そしてまごうことなき忠犬よろしく駆け戻ってきたドゥルジに、脇から一歩踏み出たが容赦なく鉄拳制裁をぶちかます。

「ったく、駄犬め。面倒かけさせやがって!」
 頭にたんこぶを作ったまま、ずるずる引きずられていくドゥルジ。


 そしてドゥルジという重しがなくなった悠美香は無言で立ち上がる。
「悠美香ちゃん…?」
 ショックでもしかして正気に返った? との要の願いもむなしく。


「要、死ネ!」


 悪化してますーーっ!?

 キャーーーーーッ と再び始まる追いかけっこ。
 砂煙を蹴立てて2人はどこへともなく走り去って行った。



 全く意味不明な出来事がまさに怒涛の勢いで優希たちの前に展開され、遅れてはっとわれに返ったとき。
 2人の前から麗華の姿は忽然と消え去っていた。

「あら?」
「麗華さん!?」

 きょろきょろ見渡す彼らの目に入ったのは、麗華の被害者たちと、そしてグルグル噴水の周りを走っているダンボール箱(大)だけだ。



 はたして麗華はどこへ消えてしまったのか?

 次の登場を括目してマテ!!