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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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   一七

 ユリンたちを囲む炎は、次第に大きくなっていった。草から木へ、隣の木へと燃え移り、このままでは山火事になると判断した樹月 刀真は、玉藻 前に消火を頼んだ。
「マッチポンプだな」
 前は少々不満そうだ。【ブリザード】で周囲を凍らせていく。漆髪 月夜、、騎沙良 詩穂、桐ヶ谷 煉、エヴァ・ヴォルテール、エリス・クロフォードは、火が消えるのを待った。
 このぽっかり空いた時間は、ユリンにとっても契約者たちにとっても、ちょうどいい小休止だった。炎が酸素を食らい、周囲の熱を上げたせいで、全員、動きが鈍くなり始めていたのだ。
 ユリンの体は、火傷と傷を治そうと再生を繰り返していた。刀真が切り落とした右腕、詩穂が砕いた左足も、今は元通りだ。顔の火傷も、ほぼ完治し、ささくれのような細かい傷が残るのみとなっている。
 炎が消える直前、式神 広目天王が姿を現した。「広目天の霊眼」がぎらりと光り、「剛腕の強弓」を引き絞る。ただし、使うのは一本だけだ。
 放たれた矢は、炎を突き抜け、空気を切り裂き、ユリンの左腕に当たった。パチン、と音がして、左腕のガントレットが地面に落ちた。
 前はそれに気づいて振り返ったが、広目天王は既に姿を消していた。ゆらり、と空気が揺れていた。
 ユリンの体を覆う装備はブレス・プレートだけになった。それも外れそうになっているが、彼女自身は全く防御のことを考えていなかった。
 ユリンが刀真目掛け、地面を蹴った。エリスは刀真の前に飛び出し、「レッドラインシールド」「モラスクインナー」「バネ仕掛けの鎧」で拳を受け止めた。一瞬の内に五発を撃ち込まれ、まず「レッドラインシールド」が吹き飛んだ。エリスが全身に響く衝撃に耐えている間に、エヴァが【ポイントシフト】で間合いを詰める。ユリンは振り返りもせず、横へ飛んだ。詩穂がその後を追う。
「今度は逃がさないから!!」
「やれ! 詩穂!」
 鎧化した清風 青白磁の力を借りて、詩穂はユリンの懐へ潜り込んだ。タイミングは、ぴったりだ。「サイコブレード」がユリンの腹に、深々と突き刺さる。
「やった!!」
 だが、ユリンの怒りの燃えた目はそのままだ。詩穂を見下ろし、両の拳を彼女の頭頂部に叩きつける。詩穂の意識が飛んだ。
 すかさず月夜が「ラスターハンドガン」をユリンの足元に撃ち込み、刀真が斬りかかった。ユリンは飛び上がり、それを避けた。――その瞬間、彼女は自身の異変に気付いた。
 体が思うように動かない。
 詩穂が「スローギア」を使用していたのだ。半径十メートル以内に作用するその力は、ユリンだけでなく、刀真たちにも影響していたが、煉は既に待ち構えていた。
 自分の頭上で、「カーディナルブレイド」を振り下ろす煉に気付き、ユリンは咄嗟に体を捻った。「スローギア」の効果が切れるのと、ユリンが拳を繰り出すのが同時だった。そして、それが当たった瞬間、煉の体からリーゼロッテ・リュストゥングが離れた。
「!?」
 リーゼロッテは痛みに顔を歪めながらも、笑っている。ユリンが更に拳を叩き込もうとしたとき、彼女は右腕が動かないことに気付いた。
「これで終わりだ……顕現せよ『黒の剣』!」
 刀真の右手から、ワイヤークローが伸びており、ユリンの右腕に巻きついていた。刀真がそれを手放すと、代わりに光条兵器が現れる。
 ユリンはリーゼロッテを蹴り、刀真目掛けて突っ込んだ。その刀真の体を通し、「ラスターハンドガン」の弾が撃ち込まれた。同時に、煉の「カーディナルブレイド」が背中から、刀真の黒の剣が正面から、それぞれ腹に突き刺さる。
 パリン、と音がした――光条兵器を通して、それを感じ取ったのは、煉と刀真の二人だけだった。
 それぞれが剣を抜き、地面に着地する。ユリンは、受け身を取ることもなく、頭から落ちていく。ぐしゃり、と潰れるような音がした。
「や、ったか……?」
 息を切らせながら、刀真はユリンの動きを見守った。
 やがて、もぞ、とユリンの体が動いた。
「馬鹿な! 弱点を突いたはずだ!」
 煉の顔から血の気が引く。もはやまともに動ける者は少ない。
 ユリンは手を突き、膝を突いたまま、がばりと顔を上げた。目は虚ろで焦点が合っていない。ぴしっ、と音がした。
「な……!?」
 前が愕然となる。
 ユリンの顔が割れ、中から別の人間――シャムシエル・サビクが現れた。まるで、蛹が脱皮して蝶になるように。
「どういうことじゃ!?」
 気絶した詩穂を支えながら、青白磁が叫んだ。
 一糸纏わぬ姿のシャムシエルは、ゆっくりと周囲を見渡した。状況を理解している様子はなく、理解するための能力も、今はないようだ。
「シャム……」
 エヴァが近づこうとして、躓いた。「え、何で?」
 力が入らない。エヴァだけではない。全員、体がしびれている。
「【しびれ粉】……? これぐらい、で」
 ユリンとの戦いで体力を使い切った彼らには、それで十分だった。
 辿楼院 刹那が飛び出してきて、シャムシエルを抱えると、そのまま走り去った。そして、ファンドラ・ヴァンデスの小型飛空艇ヘリファルテが離陸しても、誰一人追うことが出来なかったのである……。