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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

リアクション

   一九

 しかし、房姫は内心、笑いそうになった。そう宣言したハイナ自身が房姫に会議の内容を漏らしている。もっとも、やむを得ぬ事情があるわけだが。
(裏切ったか……!!)
 ギリ、とオーソンが歯噛みしたその瞬間、サークレットに嵌まった黒い石に亀裂が入った。それに気づいたオーソンがサークレットに手をやると、待っていたかのように石が砕け、手の中に破片が零れ落ちた。
(――ユリンめ)
 忌々しげな呟きと同時に、声が上がった。
「ベルナデット!?」


 気を失っていた織田 信長は、その声に目を覚ました。
「しーちゃん!? しーちゃん!?」
 桜葉 香奈が、全身血だらけの桜葉 忍を掻き抱いていた。
「しっかりして、しーちゃん!! どうして!? 何があったの!?」
 足を引きずりながら近寄った信長が肩を叩くと、初めて彼女の存在に気付いたらしく、香奈が顔を上げた。涙がぼろぼろ零れている。
「しーちゃんが……!」
「任せろ」
 再び慈悲のフラワシを呼び出し、自分より先に忍の傷を癒やす。忍の意識は戻らなかったが、
「案ずるな、上に戻ったら医者に見せれば大丈夫じゃ」
と信長は努めて明るく言って見せた。
 何より、気を失っているはずの忍が微笑んでいるのがその証拠だと信長は思った。忍は、萎れて、花弁の落ちた百合の花をずっと握り締めていた。香奈はその花を、忍の手ごとそっと包み込む。
 信長は、瀬乃 和深の脇に膝を突いた。彼の前には、氷漬けのセドナ・アウレーリエとベル・フルューリングが立っている。和深も気を失っているが、まるで二人を見張るかのように銃を構えたままだ。
「もう、その必要はないぞ」
 フラワシの慈悲が、和深へも降り注いだ。


 エクス・シュペルティアは突然、水の中から引き揚げられたような感覚を覚えた。やけに頬がヒリヒリと痛む。手が強張っている。「レジェンダリーソード」を強く握り締めているのだ、と気付いたが、次に眼下に赤毛のポニーテールと獣耳を見つけて、混乱した。
「どういうことだ……? なぜわらわは、リーズと喧嘩しておるのだ?」
「き、気付いた……?」
 リーズ・クオルヴェルは、苦しげな声を上げた。
「む? もしや頬が痛むのは、おぬしの仕業か?」
「それっくらい、我慢しなさいよね……」
「リーズ?」
 強張る手をどうにか引き剥がしたエクスは、血がべっとりついているのを見て、青ざめた。
「まさか、わらわがやったのか!? 一体、どういうことだ!?」
「く、詳しい話は後……唯斗を……」
 リーズは階上を指差した。「助けに……」
「何だか分からんが分かった。これ睡蓮」
 紫月 睡蓮は、ぽろぽろと涙を零していた。エクスは、彼女がなぜ泣いているかも分からない。
「リーズを頼んだぞ」
「はい!」
 睡蓮は泣きながら、満面の笑みで答えた。


 木の上から飛び降りたウルスラグナ・ワルフラーンは、ウイシア・レイニアが身動きしていないことに気付いた。
 ――おかしい。
 腕を折られた猪川 勇平を担ぎ、森の中を駆け回った。彼を洞窟に隠し、自身を囮としてウイシアたちを引き放したが、いつの間にかセイファー・コントラクトの姿も見えない。
 追ってきたウイシアをまずは仕留めしようとしたが、「もしや」との思いが脳裏を過ぎった。咄嗟に剣の軌道を変え、木の幹を蹴ってウイシアの傍らに着地した。ウイシアが操られたままなら、これで斬られるだろう。だがウイシアは、呆気に取られた様子でウルスラグナを見ている。
「何をしているんですの?」
「元に戻ったのか……」
「はい?」
「おーいっ」
 勇平の声がする。セイファーに肩を借り、手を振ることは出来ないが、その顔は晴れ晴れとしている。
 ――よかったな。
 ウルスラグナは呟いて、機工剣「ソードオブオーダー」を鞘に戻した。


 拘束されていたアストライト・グロリアフルとソルファイン・アンフィニスは、唐突に夢から醒めた。少なくとも、本人たちにはそう感じられた。
「あら起きたの?」
 リカイン・フェルマータは読んでいた本を閉じ、二人に近寄ってきた。ただし、扉越しだ。
「何の真似だ、バカ女!?」
 武器を奪われ、体を鎖で幾重にも巻かれたアストライトは、文字通り動けないでいた。
「ああ、元に戻ってるわね」
「……あの、これはどういうことでしょうか?」
「ソルも大丈夫ね」
 リカインは考え込んだ。どこから話したものだろうか。二人が行方不明になったところから? オーソンのこと? それとも、剣の花嫁たちが行方不明になっている事件?
 どれも適当な気がしない。
「まあ、しばらくそこにいて。もうちょっとしたら出してあげるから」
「え?」
「ちょっと待てバカ女! 解け! 出せー!!」
 アストライトは怒声を響かせたが、リカインは耳栓をして読書の続きに勤しむことにした。読み終わってから考えよう、と決めて。


 北門 平太はさして速くもない足を懸命に繰り出し、駆けた。扉を開けると、「おお」という夜刀神 甚五郎の笑顔に迎えられた。
「も、元に戻ったって聞いて……」
 草薙 羽純を拘束していた鎖は、既に外されている。
「本当ですか? お芝居とかじゃなくて?」
「大丈夫ですよ! ワタシが【レストア】したから、元気もいっぱいですしね!」
 ホリイ・パワーズが得意げに言う。
 羽純は平太に手を差し出した。
「わらわのことで、そなたにも迷惑をかけたようだな」
「あ、いえ、僕は別に大したことはしてませんから。あの、それで、どうして戻ったんですか? 何かしたんですか?」
「うむ、それは気合だろうな!」
 甚五郎が自信満々に答えるのを、ブリジット・コイルは無視した。
「冷静に考えて、羽純への信号が完全に途絶えた、ということではないでしょうか?」
「信号が……じゃあ、ユリンって人が……」
「或いは、リプレスを誰かが手に入れた」
 五寧 祝詞から、他の剣の花嫁、機晶姫たちも正気に返ったという知らせを受け、平太の顔が見る見る明るくなった。
「じゃあ……ベルも帰ってくるんだ!」