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リアクション
七
「みーつっけたっ」
明倫館まで後少し――遂にその相手は現れた。以前と同じような簡素な服に、部分部分を覆う防具。ただしいったん切り落とされたためか、右腕にガントレットはない。
「うっかり見逃してくれるんじゃないかと、淡い期待を抱いたんだがなあ」
匡壱はフッと笑い、鯉口を切った。
「ま、覚悟はしてたさ」
「待ってくれ。俺たちにやらせて欲しい」
猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)とウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)は、ユリンの傍にいるウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)、セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)を哀しげに見つめた。
「必ず、そいつを倒して、二人を取り戻す……!」
勇平は「白竜鱗剣『無銘』」を抜き、すうっと息を吸った。「……行くぜっ」
地面を蹴り、ウイシアとセイファーの間目掛けて、突っ走る。
「うおおおおお!!」
「白竜鱗剣『無銘』」は、岩をも切断するほどの切れ味と、尚且つ傷一つつかない頑丈さを誇る剣だ。だが、その重さ故に扱いが難しい。勇平が振り回すと、ブォンッ! と大きな音がした。
「――へえっ」
ユリンの両目がぱちくりと瞬く。
ウイシアは「稲妻の札」を取り出した。雷が「白竜鱗剣『無銘』」目掛けて落ち、勇平の体を貫く。
「ぐあああ!!」
つんのめるように倒れた勇平に、ウイシアは光条兵器「イプシロン」を構えた。
ウルスラグナはその隙に、ユリンの後方から斬りかかる。しかしその前に、黒刀「八咫」と不殺刀を構えたセイファーが立ちはだかる。
「ターゲット、確認。殲滅します……」
呟き、二刀を激しく振り下ろす。右かと思えば左、左かと思えば右。ウルスラグナは、凌ぐのに精一杯だ。
その間にウイシアは、ゆっくりと勇平へと近づいていく。勇平は動けなかった。――否、動かなかった。ダメージは残っているが、手も足も、まだ自由が利く。ウイシアが自分の真上に来れば。トドメを刺そうとするその時に。
だがウイシアより早く、「白竜鱗剣『無銘』」を掴む右腕を、何者かが踏んだ。
「その剣、いいねっ」
ユリンだ。勇平の腕が地面へめり込む。
「ぐああああ!」
地面とユリンの足の裏に挟まれ、骨が軋む。血管が千切れそうだ。
そうして、遂に鈍い音と共に、勇平の絶叫が森に響いた。
「お前……本当にシャムシエルなのか?」
勇平の腕を折り、「白竜鱗剣『無銘』」を拾ったユリンは、新しいおもちゃを手に入れた子供のようだった。
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、顔をしかめながら尋ねた。
「またそれ?」
ユリンはうんざりしている。「そんな人、知らないってば!」
「だがオレは、お前に会ったことがあるぞ。会ったというか、声だけだけどな」
「そういう人、いっぱいいるよ」
「ちょっと訊きたいんだけどな、前に会ったときは、『真の王』は友達だって言ってたな?」
「うん、パパがそう言ってた」
「パパってのは、オーソンだな? もしかして、ママもいるのか? ちょっと羨ましいぞ、それ」
「ママって何?」
「何って……ママってのはなあ、パパと対になる存在で、子供はパパとママから生まれるもんだ」
「変なの。ボクはパパが生んでくれたんだよ。だからママなんて、いないよ」
「君は剣の花嫁だろう?」
と尋ねたのは、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)だ。
「そうだよ」
「ということは、オーソンに作られた、と考えていいのか?」
「だから、そう言ってるじゃんか!」
ダン! とユリンは足を踏み鳴らした。口調も苛立っている。
「そうか、ならこれを見て欲しい」
クリストファーが取り出したのは、今は亡きエリュシオンの選帝神、テレングト・カンテミールの一部だったと思しき機械パーツ――「カンテミールの部品」だ。
それを見たユリンの表情が変わった。目が釘付けになり、どうしても視線を外せない。
間違いない、とクリストファーは思った。ユリンはシャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)だ。
「これに興味があるかい? ユリン」
「……うん。それ、くれる?」
「あげてもいいが、俺の話を聞いてくれ。これに興味を持った、ということは、ユリン、君は縁のある人物ということだ。――シャムシエル・ザビクと」
ぴく、とユリンの眉が動く。視線が「カンテミールの部品」から、クリストファーへ移った。
「君は知るべきだ、己のことを。己が誰であるか、パパとの関係も含めて」
「……どうして邪魔するの?」
途方に暮れた表情を浮かべ、ユリンは尋ねた。予想外の返事に、クリストファーは戸惑う。
「ボクは、パパの言うとおりにしたいんだ。パパが喜んでくれて、褒めてくれればそれでいいんだ。だから」
そこでユリンの言葉は切れた。
「久しぶり。乳はボクと同じくらいかな?」
サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が、【逮捕術】と【抑え込み】を使い、背後からユリンの胸を揉んでいたのだ。
「……でもないか。ちょっと小さいね。まぁちょっとくんずほぐれつ話そうじゃない? ボクも君の身体に一寸興味があって――」
――最後まで言えなかった。ユリンの姿はサビクの目の前から急に消えた。体を捻じり、腰を落としたのだ。そして鳩尾に一発、顎に一発。脳みそが縦に揺れたところで、
「死んじゃえ!!」
「天下一刀流奥義!!」
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、【真空斬り】を放った。ユリンだけを狙って。
ユリンは「白竜鱗剣『無銘』」でそれを跳ね返す。更に抜き放ったクレイモアで、クリスティーの腰を狙った。
「危ない!」
クリストファーの【咆哮】にユリンが驚いて顔を向けた。剣の軌道が変わり、クリスティーはその隙に間合いを取る。
シリウスは気絶したサビクを回収しながら、
「自分でユリンは無茶苦茶強いって言っといて、そりゃないだろう。油断しすぎじゃないか?」
と文句を言った。
「それを言ったら可哀想だよ。ユリンの強さは想定以上なんだから。言うなれば、受け身を取っても全く意味がないほどに」
「まあ、取り敢えず、目的は達した。ユリンの正体は分かった。――で、どうしようか?」
その答えが分かるなら、苦労はないとクリスティーはパートナーの横顔を見つつ、嘆息した。
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