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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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ホールにて、友人たちと

 夜のベール幾重にも空から降り、藍色が深くなっていく頃、百合園女学院のホールの窓からは対照的に、煌びやかな光が漏れていた。
 ホールの中は、夜を夜とも感じさせない光の中に身を置きながら、まだ夜は始まったばかりと挨拶をかわしていく人々で賑やかだ。
「……あいつ、どこに行ったんだか。自分で行きたいって言ってたくせに……」
 夜遊びの青少年を指導しに来た風紀委員といった風体の東條 梓乃(とうじょう・しの)は、パートナーの姿を探して人波を縫って歩いていた。
 つい口に出してしまったのは、緊張のせいか。
「それにしても百合園女学院って初めて来たけど……広い」
 知り合いでもいれば、案内してもらえたのだろうけれど。
 慣れない女子校──他校生の客、来賓の男性客がいるとはいえ女性の方が多いこの場に、薔薇の学舎という男子校の生徒は少々気後れしていた。
 前方には豪奢なドレスを纏った女性が二人、こちらも華麗に装った来賓に挨拶をしていたが、何というか、その場の空気が違う。
「あれが百合園女学院の校長先生と、ヴァイシャリー家のラズィーヤ様か。聞いた通り、可愛らしい人と、上品で綺麗な人だな」
 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)桜井 静香(さくらい・しずか)の二人に挨拶しようかと考える間もなく──それよりも、華やかな空気にあてられてしまって、しばしぼうっとしてしまう。
 ふと、いけない、と、くいと人差し指で眼鏡の位置を正すと、彼の視線の先に、見覚えのある姿があった。
「あ……校長先生だ」
 薔薇の学舎の校長ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)だ。彼はラズィーヤと何か冗談でも言い合っているのか、微笑していた。
 梓乃は、ルドルフが実はどんな人物なのか、その為人を知らない。どんな会話をするのか興味を引かれてそっと人の輪に近づくと、会話が漏れ聞こえてきた。
 内容は挨拶やたわいもないものだったが、いちいち言葉が丁寧で気障だ。
「あんな風に話す人なんだな……なんだか芝居がかってて、ああいう所は、まるで僕のパートナーみたいだ」
 何とはなしに会話を聞いていたが、ふとルドルフが横を向いた時──目が合った。
「……あ」
 梓乃はすっと背筋を伸ばすと、両腕を体の線に沿わせと、すっと頭を下げた。じろじろ見るなんて不躾な事をしてしまった。だが顔を上げた時、
「やあ。東條梓乃君だね」
「……え?」
 梓乃の切れ長の目が丸くなると、真面目そうな顔にぽかんとした表情が浮かんだ。
 確かに、今日は制服だから、学舎の生徒だということは分る筈だけれど……。
「あなたが僕の名前を知っているとは思わなかったから……もしかして全校生徒の名前と顔を覚えているんですか?」
「そんなに驚くことかい?」
 薔薇の学舎は選ばれた者にしか入学が許可されない。ルドルフも勿論承認しているし、生徒数は他校と違って約500人と少ない。覚えていても不思議ではないだろうが、だが校長が、ろくに話したこともないただの生徒一人一人の顔と名前を憶えているというのは、それでも驚くことだった。
(真面目な校長先生なんだな。パートナーに爪の垢を煎じて飲ませたいよ)
 ルドルフはそんな彼に微笑すると、
「君は一人?」
「いえ、……パートナーと家を出た……筈、なんですけど。ま、彼は彼で楽しんでいるんじゃないかと思います」
「そうか、見つかるといいね。あちらに警備の方がいるから、聞いてみるといい。もし困ったことがあったら言ってくれ。僕は君たちの学校の校長だからね。
 ……百合園は初めてかな?」
 梓乃は、校長がパートナーに似ているなんて思ってしまったけれど、随分紳士的だなと思う。紳士的なだけでなく、誰にでも親切だ。
「はい」
「良かったら説明しようか?」
「助かります」
 ルドルフは、彼が困らないように場所や百合園の成り立ちなどを要点をかいつまんで二、三、説明してくれた。
「こちらにはよくいらっしゃるんですか?」
「そういうわけではないけれど、イベントが開かれたら招待されることも多いからね」
 それに、校長になる前はもっと身軽な立場だったのだ。
(親切なだけじゃなく、気さくな人物なんだな。といって、だらしないところもない)
 グラスの持ち方から何まで、自身にはマナー……美意識に従い律しているという印象を、梓乃は持った。



「やあ」
「あら、マイトさん」
 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)の声に振り返ったイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)は、にっこり笑った。
 同級生たちとの談笑はいかにも育ちのよいお嬢様といった風だったが、振り返る動作には素早く隙がない。そしてマイトの端正で生真面目そうな顔を認めた途端に、目の端に一瞬鋭い光がひらめいたのを、マイトは見逃さなかった。
「あなたもいらしてたんですの?」
「ああ。良ければ、少し話さないか?」
 マイトは務めて穏やかな声を出した。さっきのイングリットの目は、どうも戦いの匂いを嗅ぎつけた戦士の目だったからだ。別に決闘を申し込みに来たわけじゃない。
「それでは皆様、少々失礼いたしますわね」
 輪から外れるイングリットと並んで、二人は何となく窓際に立った。
 マイトはボーイからイタリアンソーダのグラスを受け取って口を付けると、ふぅと小さな息を吐いて。
「しかし、何というか、今年を振り返ると、……こう言ってはなんだが、こうやって君とのんびり過ごす機会はあまりなかった気がするな。
 どうも手合せだったり、荒事だったり……君とは何というか、余り穏やかではない場で一緒になる事が多い気がする」
 イングリットは頷いた。
「……考えてみればそうですわね」
「まあ、俺も人の事は言えないしその辺はお互い様、か……。さすがに今日は武道場も解放されてなかったはずだし──」
 マイトは手の中のグラスの氷を弄びながら何とはなしに言ったのだが、
「……開けていただきましょうか?」
 イングリットがこともなく言ったので、思わず聞き返してしまう。
「え?」
「それが難しいようでしたら、屋外ででも。今から初日の出が見えるまで手合わせを……」
 今にも歩き出しそうになっているイングリットにマイトは狼狽えた。
 今日は、忘年会。しかも、パーティだ。それにイングリットは今はイブニングドレスに着替えていて、ハイヒールを履いている。
 本気かと疑いたくなるが、彼女の目を見れば本気以外の何物でもないことが判る。血気にはやったりは決してしていないが、冗談で言っている目ではない。
「いや、そういうのも嫌いではないが、機会があればまた……その時は技を競い合い切磋琢磨しよう」
「あら、そうですの?」
「今日は淑女のイングリット嬢を、エスコートさせていただきましょう」
 グラスを置いて腕を差し出せば、イングリットも同じくグラスをテーブルに置いて腕を取る。
 今日は“英国紳士と淑女”になって──というのも実際に紳士と淑女なのだから、改めて言うのも変なものだが──二人は会場を回って食事を取ったり、知り合いに挨拶しながら、たわいもない話をした。
 戦ってばかりであればむしろこういった機会の方が貴重かも知れない。
 ライバルとしても、武道家としても、柔術系の武道を学ぶという共通点があるが、同国人でもあった。戦いばかりでなく、パラミタの地で遠い故郷の話ができるのも嬉しかった。
「ま……友人としてもライバルとしても今後とも……来年もよろしくお願いする」
 マイトがそう言うと、イングリットもまた淑女の微笑を浮かべて──だが、どこか不敵に。
「こちらこそ、宜しくお願いいたしますわね。マイトさんの成長を楽しみにしていますわ」



「……意外だわ」
 李 梅琳(り・めいりん)の言葉に、叶 白竜(よう・ぱいろん)は手を止めて、箸を置いて、顎髭に手をやる。
 その間に、先程手を伸ばしかけていたさくさくの川魚のフライは、誰かがさらっていってしまって。あぁ、と白竜は口の中で呟いてから、梅琳の顔を見た。
「意外に、とは……?」
 意外に、という言葉には、顎鬚が含まれるのだろう。それから、軍服でなく私服を着ていることも。
 そんな風に考えての言葉だったが、彼女は可笑しそうに、
「意外に食いしん坊だなってことよ」
「ああ……そうかもしれませんね」
 真っ白なクロスがかけられたテーブルの上、彼のお皿は着実に空になっていく。決して早食いという訳ではないと思うのだが、
「──もしかしてこれが目当て?」
 くすっと笑った梅琳に、慌てて白竜は手を振った。
「……いえ。失礼しました」
「いいのよ、そういうつもりじゃないから。でもこれじゃどっちが付き添いか分からないわよ? ねぇ?」
 梅琳は笑ってグラスに手を伸ばす。
 白竜が彼女を忘年会に誘った文句は、「お願い」のようなものだった。
 ──失礼ですが李大尉、もしも時間が空いていたらでいいので……私を助けると思って少しつき合ってくださいませんか?
 何故って、無精髭が目立つ、中高生より一回りは年を取った教導団員。それが一人で百合園の忘年会に突入するには勇気が必要だったのだ。いや、確かに、来たかった理由の一つが、学園祭に来そこなって海軍カレーを食べられなかった……というものだから食いしん坊の指摘もあながち間違いではないが。
 白竜は軽く咳払いをした。
「大尉に声をおかけしたのは……それだけではないのですが。
 私も李大尉も、同じ中国出身。そして、今は階級も並び大尉同士ですから、それぞれに部隊を指揮することもあります。
 ただ、私が教導団に入った時は上司でしたし、上司として尊敬する気持ちは変わりません」
「……それで?」
「自分の性格にいささか自覚がありまして、自分を押し通そうとするだけでは難しい状況に対応できないと感じています。来年起こるであろう事態に備えるためにも、仲間として力を合わせてたいと思いまして。そこでこの催しを聞き、息抜きも兼ねてと……」
「それが真面目っていうんじゃないかしら」
 梅琳は白竜の口調に、また笑った。
「ええ、勿論よ。任務が同じになるとは限らないけれど、お互いに教導団のためにベストを尽くしましょう。
 それから、尊敬してくれるのは嬉しいけど、同じ大尉なんだからこれからは遠慮なく──」
 にやり。と、梅琳が笑ったように見えた。思わずたじろぐ白竜に、
「嘘よ。……ま、無茶ブリはしないわ。とりあえずは食事でも楽しみましょう」
 白竜がさっそく白身魚のグリルにナイフを入れ、薄い黄色をしたレモンバターソースを絡めて口に運んでいると、背後から香ばしい香りが漂ってきた。
 知り合いの海兵隊員・セバスティアーノと暇をしていた船医が、追加の大皿を運んできたところだった。
「手長川海老のラビオリ・トマトソースがけ。うちのコックの自慢メニューなんですよ。……お、その美人誰です?」
 梅琳には別に恋人がいるのを知らないせいで、美人の友人だとでも思ったのだろう。
「李梅琳大尉ですよ」
 答えた白竜の顔がちょっと誇らしげに見えたからだろうか、
「何だ、見せ付けに来たのかよ。いいよな、教導団は美人がいっぱいいるんだろ? ──あー、行こうぜ、セバスティアーノ?」
「いいよな陸軍は……」
 それを横目に、梅琳もカルパッチョを頬張る。白竜もその薄く光を透す一切れを口にした。
「舌でとろける味わいだわ」
「……美味い」
 新鮮な魚なのだろう、スッと舌の上で滑らかに消えていく。
「そんなに食べたいんなら、気が向いた時に来てくれたら、何でもご馳走しますよ。出航してないとき限定ですけど」
 その代わり可愛い女の子でも紹介してください、と二人は言って、また厨房へ戻って行った。