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リアクション
毛布にくるまって、二人掛けのソファーの上に寝転んでいる少女がいた。
「ちょっとエマ、何でもうウトウトしてるわけ。このためにたっぷりお昼寝してきたんでしょー!?」
ゆさゆさ少女を揺すっているのは、神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)。空京大学に通う、容姿端麗な女の子だ。
「ん……」
少女――授受のパートナーのエマ・ルビィ(えま・るびぃ)は、半分くらい瞼を開けるも、眠気に勝てずにすぐ閉じてしまう。
「いいターゲット発見♪」
悪戯気な声が響いた……ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)だ。
「あ、ゼスタせんせー、あけましておめでとー! 今年もよろしくね!」
「ん。おめでとー。よろしく。毛布に包まってるのはエマチャンか〜」
「うん。眠っちゃいそうなの。起こすの協力してー!」
言って、授受はテーブルの上に置いてあったお菓子を掴む。
「エマの大好きなスイーツで起こそう!」
クッキーとチョコレートを授受はエマの口元に近づける。
「食べないんなら、俺が食っちまうぞ? 菓子だけじゃなく、エマチャンごと」
くすっと笑いながら、ゼスタがエマの顎に手をかけて口を開かせた。
「ん……」
口の中に入ってきたクッキーとチョコレートを、エマはもぐもぐ食べて。
「……もっと……」
幸せそうな声を上げていたが、目は閉じたままだった。
「ね、寝ながら食べてるし……!!」
授受は戦慄した。
ゼスタは笑い声を上げている。
「んもー、苦労して旦那さんに許可とって連れ出してきたのにー!」
エマの顔の側で、ぐったり脱力して。
「まあ、日の出までは時間あるからまだ寝かせとくか…」
授受は彼女の頬をつっつきだす。
「ははは、可愛い寝顔」
言いながら、ゼスタはテーブルの上に置かれていた菓子に手を伸ばして食べ始めていた。
「……うん。可愛い」
授受は指を止めると、エマの顔をじっと眺める。
「いいよね、エマは。フワフワの桜色の髪で白い肌で……砂糖菓子でできたお人形さんみたい」
「授受チャンだって負けてないぜ? 黙ってれば」
振り向いて、授受はゼスタを軽く睨む。
その目は真剣で――寂しそうだった。
エマに視線を戻して、授受は彼女を眺める。
寝顔と、規則正しい呼吸を見ながら、ぽつ、ぽつ語っていく。
「……羨ましいな。旦那さんにめいっぱい愛されて」
そっと、エマの髪に触れた。
「たくさん愛して、同じくらい愛されて……」
柔らかな感触がとても心地よくて、羨ましくて……。
「あたしも、優しい恋がしたかったな……」
儚げで哀しそうに、授受は微笑んで目を閉じた。
いつの間にか、授受も夢の世界へ誘われていて、普段は口に出さない弱音と、表情が表に出てしまっていた。
こくん。
授受の頭が下に揺れた途端。
「ん……」
後ろから抱きしめるように伸びてきた大きくて温かなゼスタの手が、彼女の両頬を包み込み、小指が唇に触れて……次の瞬間、むにっと左右に引っ張られた。
「きゃぁっ!?」
一気に目が覚めて、授受はゼスタの腕の中から飛び出す。
「……!」
次の瞬間、悲鳴で飛び起きたエマがゼスタの懐に入り込み、彼の喉元にナイフを突きつけていた。
「っと、警備に見られたら大変なことになるぜ」
ゼスタが何をしたのか分からなったが、ナイフの刃がパキンと折れて落ちた。
「あれ……ゼスタ……? あけましておはようございます、ですわ……」
ぼんやり微笑みながら、エマはゼスタを認識して手を下ろした。
「ごめんなさいですわ、何か危険があったのかと思って……」
そしてぺこりと頭を下げた。
「い、いきなり、後ろから何するのよ……っ」
授受は真っ赤になって動揺していた。
ゼスタに触れることくらい、今まで普通にしてきたし。
別になんてことない悪戯、だったのだろうけれど。
「授受?」
不思議そうな目を、エマは授受に向けた。
「俺は軽い付き合いなら、大歓迎だから。寂しくなったらいつでもおいで、授受ちゃん。割り切った付き合いの方が、恋愛なんて一時的なものより楽しめるぜ。
それじゃ、もう眠るなよ、初日の出見逃すぜ」
笑いながら、ゼスタは2人の元から去っていく。
「ええ、日の出楽しみですわね」
エマは授受の様子を不思議に思いながら彼を見送った。
「……」
授受は赤くなったまま、ふて腐れたような表情で彼の背を見ていた。