葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション公開中!

四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−9

「お待たせいたしました」
 向かい合って座る赤城 花音(あかぎ・かのん)リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の前に、ロールキャベツの入った皿が丁寧に置かれる。飲んでいたドリンクバーのカップを脇に置き、花音はフォークとナイフを手に取った。
「わあ、美味しそうだねリュート兄!」
「そうですね、早速いただきましょう」
 デスティニーランドにあるウェスタン風のレストランの窓際の席。窓の外ではゲリラライブが行われていて、若者達を中心に盛り上がりを見せている。
「音楽ってやっぱり良いね。ああして、誰かを楽しませることができるんだもん」
 そんなことを素直に再確認し、花音はリュートに向き直った。今日こうしてクリスマスイベント中のデスティニーランドを訪れたのは、彼にデートに誘われたからだ。デートといっても、2人は正式に付き合っているわけではない。先日、リュートに告白されたけれど――
(リュート兄は……ボクを愛すると言ってくれた。でも、まだ……ボクの気持ちは不確かで……)
 何て答えればいいのか、まだ、分からない。
 けれど、彼が花音を想ってくれているのは分かってしまって。
(ボクの気持ちは定まらないけど……ちゃんと、兄さんと向き合おう)
 そう思ったから、こうして今、ここにいる。クリスマスの機会に、彼との距離が少しでも縮まればいいと思いながら。
「さて、ちゃんと話をする時間ができたけど……」
 ロールキャベツを切り分けつつ、花音は言う。
「リュート……兄……本当にボクが相手で良いの?」
「……と、いうのは?」
「何と言うか……ボクと組んで……何時も貧乏くじが、回っていくのはリュート兄だと思うから……それで良いの? リュート兄は、ボク以外の相手と付き合う方が、絶対! プラスになると、ずっと思っているんだ」
 絶対、に力を込めて花音は言う。その彼女を、リュートは手を止めて優しい眼差しで見つめていた。花音は、自分のことを考えてくれている。花音自身よりも、リュートの幸せを考えてくれている。彼女の言葉からは、それが伝わってくる。
「僕は……花音が愛おしいですよ。破れた想い……勇み足の恋を越えて……やはり……あなた……花音なのです」
 そういう彼女だから、好きになったのだ。だからこそ、クリスマスを一緒に過ごしたい、と思ってしまう。
「…………」
 花音は考え込むように俯いた。そう言ってくれるのはとても嬉しい。
 けれど――と、ゆっくりと、今の気持ちを言葉にする。
「契約者になる切欠を用意してくれた事には、とても感謝しているよ。リュート兄のお陰で、一流と認められるアイドルにもなれた!」
 そうして、精一杯の笑顔を浮かべる。
「ありがとう!」
「……いえ」
「でも、今は……まだ、リュート……兄の想いに答える事は……できないな」
 それは、花音が頑張ったからですよ、とリュートが言う前に、花音はそう続けて目を伏せた。彼女がここまで来れたのは紛れもない、彼女自身の力だ。それを下から、陰から支えるのがリュートの役割であり。
「結婚も……今は、あまり意識していないかな? アイドルにとって、デリケートな問題でもあるからね。やっぱり……ハッキリできなくて……ゴメンね」
 元気をなくした花音を安心させるように、リュートは微笑む。
「花音、僕は慌てませんよ? あなたに振り向いてもらえるために、己を磨きながら……向き合いますし、待っています」
「うん……」
 ロールキャベツのスープを飲んで答える花音に、元気な笑顔は戻らない。どこか申し訳なさそうにしている。殊更に困らせるつもりも、悩ませるつもりもない。それもあり、リュートは話の方向性を変えた。2人がこれからも協力していくべきこと。花音が何より、楽しそうな表情を見せることに。
「……これから音楽活動は忙しくなります。僕が陰になり……がっちりと花音を支えます! あなたの輝きが曇らない様に……。僕が誇りを持って選ぶ……運命なのだと思います。花音……僕があなたを護り抜きます!」
「……リュート……兄……」
 花音は顔を上げ、呆けたようにリュートを見た後、笑顔を浮かべた。
「うん。これからの音楽活動も、一緒に頑張って行こうね♪ そうすれば……ボクと兄さんの想いが……結び付く時が来るかもしれない」
 自分に半ば言い聞かせるように後半の言葉を呟くと、気持ちを切り替えたのか彼女は溌剌とした声を出した。
「さあ! 今後の音楽活動だけど……創った楽曲は、恥ずかしからずに! どんどん聞いてもらえる様! 発表して行こうね♪ やっぱり! 第3者に聞いてもらうのが、何よりの修行になるよ♪」
 まだ、書き尽くした感覚は無くて。
 まだまだ、書き続けられる余力は残っていると思う。
「一流を超える……超一流を目指すよ!」
 その時には彼に、自信を持って応えられるかもしれない。
「リュート兄! 今まで……ありがとう! これからもよろしくね☆♪」
 楽しそうに、弾むような声を出す花音。音楽の事になると嬉々とする彼女からは、確かにエネルギーが溢れていて。そんな彼女を、リュートは純粋に愛しいと思う。
 ――クリスマスの魔法……少しだけ……僕の想いを形に残します。
「ええ、花音」
 少しだけ椅子を引き、リュートは花音の額に軽くキスをする。
「!」
 唇を離すと、「えっ……」というように驚く花音の顔があって。
「これからも2人! 頑張りましょう!」
 彼は彼女に、とびきりの笑顔でそう言った。