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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−5−3

「うん……うん……そうなの? 良かった! じゃあ、あまり遠くには行かないようにするわね」
 預けていた間のイディアの話、ノアと合流したという話を簡単に聞き、弾んだ声を出していたファーシーは通話を終えると皆に言った。
「じゃあ、レンさん戻ってくるっていうしこの近くで……あれ?」
「ひゃっふぅー! ジェットコースター&絶叫モノ巡りは楽しいでありますよ!!」
 彼女達の前方を横切るように、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)の手を引っ張って歩いていた。サンタ服を着たスカサハは最高潮に楽しそうだ。だがカリンはその真逆で、土気色の顔で、もう今にもお化け屋敷に就職出来そうな余裕の無さを見せている。
「テメェ……やめろ! スカ吉! ボクはジェットコースターはもうたくさん……」
 引っ張られるままにやむおえず足を動かしている、というような感じでスカサハに抗議する。だが、後ろを振り向かず前だけを見て進んでいるスカサハはカリンの様子に気付かない。
「スカサハさん! カリンさん!」
 通り過ぎて行く彼女達に、ファーシーは声を掛ける。彼女と目が合うと、スカサハは約45度方向転換して元気にこちらへとやってきた。
「ファーシー様! 来ていたのでありますか!」
「……ファーシー、先輩……た、助けてくれ……絶叫系はもうこりごりだ……」
「ファーシー様達も絶叫モノに一緒に乗るでありますよ!」
「…………」
 2人の様子と、そして現位置から見える巨大コースターをファーシーは見比べる。そして、何か考えるようにしてから「そうね、乗ってみたいかも」という無情な決断をした。「……!?」と花琳が絶望的な表情を浮かべる。
(……こうなったら諦めるしかありませんね……)
 その彼女に、アクアは流石に気の毒そうな目を向ける。まあ、表面上は黙って静観しているだけなのだが。
「今日は、2人で遊園地に来たの?」
「朔様は産休であります! 花琳様も一緒だったのですが、デートとの事なので2人なのでありますよ!」
「産休……やっぱり。そっか、花琳さんはデートなのね」
 甘い言葉に、ファーシーは目を輝かせる。恋の話は、それだけでときめきを感じさせるものだ。しかし――
「花琳……、何か抱えてる様で心配で後つけてきたのに……こんなことに……オェ……」
 そう言って、カリンは力尽きてばたりと倒れた。
 事はそう、単純ではないらしい。
 らしいよ? プリム君……

              ◇◇◇◇◇◇

 その頃、花琳はプリムを連れ、ファーシー達より一足先にコースターに到着していた。
「デスティニーランドに来たらこれに乗らなきゃね♪」
「ジェットコースター!? や、止めようよ……しかも、これ、凄いスピードで怖いやつだよ!?」
「そうだよ、だからこそ外せないよね♪ ……ね♪」
「う……」
 伝家の宝刀、例の写真を見せられたらプリムはもう断れない。泣く泣く、コースターの順番待ちに並ぶ。並んでいる間も花琳は彼から離れず、どこからどう見てもカップルだ。
「む、あれはプリム!? と……まないたドS娘!」
 ホレグスリ売り中のむきプリ君は、その2人をたまたま発見してしまった。
「ど、どう見てもデートではないか! イブに予定……。く、イブに予定……」
 リア充にホレグスリを返されたと思えば、次はまさかのパートナーのデート目撃である。むきプリ君はぶるぶると震えて悔しがった。そこに、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が紙幣片手にむきプリ君の前に現れる。
「ホレグスリと解毒剤を幾つかくれ」
 だが、むきプリ君は既におしごとどころではない。
「くそう、俺もリア充に……リア充になるのだ!」
 ぐわっ、と目の前の大佐に襲い掛かる。だが、直後に身の危険を感じてぴたりと止まる。彼の盛り上がった股間に、白く光るメスが当てられている。マジで去勢される5秒前だ。
「何かしたら金○を削ぎ落とすが……いいか?」
 ふるふるふる、とむきプリ君は首を振った。
「もう1度言うぞ。ホレグスリと解毒剤を幾つかくれ」
 こくこくこく、とむきプリ君は頷いた。
「あ、やっぱり居たんだもん。……むきプリ君!」
 デスティニーランドに来た久世 沙幸(くぜ・さゆき)が駆け寄ってきたのは、大佐が去った後だった。内股になって元気の無くなった股間を押さえていたむきプリ君は、輝いた顔で沙幸を迎えた。
「おおっ! ホレグスリ娘か! 連れは一緒ではないのか?」
「ラスボスを倒せなかったんだもん。それでね、むきプリ君ホレグスリいくらかもらえないかな?」
「1瓶500Gだ!」
「…………」
 分厚い掌を出され、沙幸は箱を改めて見る。そこにはラミネート加工された『500G』と書かれた値札が貼られていたが。
「さあ、いくらでも持って行くがいい! 1瓶500Gだ!」
「…………」
「そうだ、クリスマスに1人とは寂しいのではないか? 何なら、俺が連れの代わりになってもいいぞ! それならばタダだ!」
 むきプリ君は親切心――もとい、もしやイケるかもと小瓶の蓋をきゅぽんと開けて沙幸に襲い掛かった。だが――
「警備員さーん」
 直後、沙幸は人混みのどこかに向けて助けを呼んだ。大きくもないが小さくもない声量で、通りすがりの紺の制服がぴくっと反応した。むきプリ君もぴくっと反応する。
「この筋肉の人がセクハ……」
「ま、ままま待て! ちょっと待て!」
 蓋を開けたままの小瓶を振り回し、そこらのカップルに振り掛けながらむきプリ君は慌てる。カップルは数メートル進んだところで大人のいちゃつきを始め、警備員は慌てて飛んできてその2人を引っ張っていった。
 それを見送り、沙幸はむきプリ君にむき直った。手袋に包まれた掌を出す。
「警備員を呼ばれたくなければホレグスリを頂戴」
「むむ……」
 脅しともいえる要求を受け、むきプリ君は泣く泣くホレグスリを袋に入れて渡した。
「しかし、これをどうするつもりなのだ? 1人で飲むのか?」
「それはね、売店で売るんだよ」
 袋を受け取り、引っ張られたカップルの消えた方を見ながら沙幸は言う。
「お客さんに飲んでもらって遊園地中をカオスの渦に……じゃなくって」
 つい本音が漏れて慌てて言い直す。
「クリスマスだもん、大胆になりたいカップルだって多いと思うんだよね。そんな人たちの背中を押してあげられればいいな、なんて……ほ、ほんとだよ」
 目をそらした沙幸に、むきプリ君はキラーンと目を光らせる。やはり、彼女は自分と同種の思考の持ち主だ。
「ほう……」
「木の葉を隠すには森の中って言うし、キャンペーンの特別メニューってことにしておけばきっと怪しまれないと思うんだよね。ばれる心配も少ないんじゃないかな」
「成程、同志として応援しているぞ!」
 ばれるリスクに殆ど無頓着だったむきプリ君は素直に感心し、タダでホレグスリを提供する羽目になったことも忘れて白い歯を見せて派手に笑う。基本的に、この筋肉は単純なのだ。

              ◇◇◇◇◇◇

「アイリ!」
「エリスさん?」
 一方、海京の天御柱学院では、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)に会いに来ていた。突撃するように彼女の部屋を勢い良く開けてはっきりと言う。
「デスティニーランド内に、怪しい薬を売り捌きながら女と見ると襲い掛かってくる変質者が出没してるそうよ。愛の守護者たる魔法少女として見過ごせないわ!」
「! 変質者!? それはつまり……」
「そう、むきプリ君という名の変態よ!」
 驚いて腰を上げて振り返るアイリに、エリスはそう断言した。
「クリスマスに水を差す無粋な変態を叩き出しに行くわよ! 魔法少女にクリスマスも正月もないんだから!」