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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション公開中!

四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−4

「ミルザムのステージ、綺麗だったね! 瀬蓮の好きなキャラクターもいっぱい出てたし」
 ステージが終わってお昼時。高原 瀬蓮(たかはら・せれん)は、誘ってくれた白雪 魔姫(しらゆき・まき)と一緒に、ベーカリーカフェで軽い昼食を摂っていた。程よく暖房の効いた店内に落ち着き、テーブルの中央にパンフレットを広げている。ステージの前にはおもちゃの街をテーマにしたエリアでコースターに乗っていた。他のよりも小さめの、初心者向けのコースターだ。
「これからどこに行こうかな。魔姫ちゃんは、どこがいい?」
「ワタシはどこでもいいわよ。瀬蓮の行きたいところでいいんじゃない?」
 わくわくとした様子で、しかし真剣にパンフレットを見る瀬蓮を可愛いなと思いながら、魔姫はソーセージの入ったデニッシュをかじる。つい、どうでもいいような口ぶりになってしまったが決してそういうわけではなく。特に苦手な乗り物がない魔姫は、瀬蓮には苦手なものもあるかもしれない、と、今日は彼女の希望を優先しようと思っていたのだ。
 そんな内心を知ってか知らずか、瀬蓮は魔姫の口調を気にした様子もなく、チョコレートマフィンを丸い耳のところから食べながら考えている。
「面白そうなところがたくさんあって、何だか迷っちゃうね。あのコースターはどきどきしたけど、終わった後、楽しかったなあ」
 パンフレットから目を上げて、きらきらした表情で瀬蓮は言う。初めてだから、と小さなコースターを選んだがそれがちょうどよかったらしく、
『大きいのに乗ってたら、怖すぎて泣き出しちゃってたかもしれないね』
 と言っていた。意外と芯の強い瀬蓮のことだから、実際はそんなことにはならないだろうけど。
 ――ちなみに、魔姫自身はコースターがどんな高所まで行ってもどれだけスピードが出ても大丈夫なタイプだ。
「……でも、やっぱり瀬蓮はのんびりとしたところで遊びたいな。食べ終わったら、ここに行ってみようよ」
 そうして瀬蓮が指差したのは、メルヘンの世界を表現した体験型アトラクションだった。
「それを選ぶなんて、瀬蓮らしいわねぇ」
 仕方ないわね、という空気を滲ませつつ、魔姫の顔は笑っていた。
 結局のところ、瀬蓮と遊んでいるというこの時が楽しくて。
 彼女がどこに行こうと言っても、悪い気はしないのだ。

 水の上を走る、ボートのような幅広の乗り物に乗るとアトラクションは始まった。明るいおとぎの国が流れる中、様々な人形の様々なストーリーの間を通り抜けていく。建物内の温度は低めに設定されている。この季節にも関わらず、魔姫はそれが心地よく、ちょうど良いと感じた。
「このお人形の服、可愛いね!」
「ほら、瀬蓮、あの上の方でも歌ってるわよ」
 人形のほとんどは、楽譜や楽器を持っている。流れている音楽に合わせて歌いながら、くるくると踊った。
「あ、あれは瀬蓮も知ってるよー」
 やがて、鼻の長い木彫り風人形を見つけて瀬蓮が言う。
「……あれは初めてだと見逃しやすいって言われてるのに、よく見つけたわね……」
 魔姫は少し、びっくりした。

 アトラクションを出て、園内を歩く。その途中には人だかりが出来ていて、何だろうと思ったらそこはお化け屋敷だった。本物のゴーストが出る、と話題のスポットだ。
「お化け屋敷とかどう? 結構人気みたいよ」
「えっ!? お化け? だめだめだめ! それだけはだめ!」
 瀬蓮は慌てて、ぶんぶんと首を振って魔姫のふわふわなコートの腕をぎゅっと握った。
「お化けだけは、苦手なんだー……」

              ◇◇◇◇◇◇

「お、お化け屋敷……ですか?」
「そう。何でもね、すっごいリアルらしいのよ!」
 その頃、ファーシー達は全員で、屋外テーブルを囲んでいた。近くにある園内のホットドリンク専門店で買ったオリジナルカップを手に、シーラが大地から預かってきた崩れにくいお菓子――フィナンシェやクッキーを食べている。
 は心霊現象が割と苦手だ。お化けと聞いて少しびくついたのには気付かず、ファーシーは明るい調子でパンフレットを差す。
「ここに来たら入らなきゃもったいないって雑誌にも書いてあったわ」
 ――事前調査をしていたらしい。
「あたしも行きたいな! ね、諒くん、行こうよ!」
 そしてこちらは諒の内心を知ってか知らずか、気が付いても好奇心が先行したのか、ピノも彼にわくわくとした瞳を向けた。
「えっ! う、うん……」
 そんなに楽しみな顔をされたら、苦手だから……とは口に出せない。「おにいちゃんも行こうね!」と言われて、ラスも多少身を引きながらも頷いている。そして面白そうなアトラクションと聞いて、マリオンも乗り気の声を出していた。
「あたしも行きたいの。行きましょうお化け屋敷!」
「お化け屋敷ですか。面白そうですね」
 特に反対する理由もなく、セラもホワイトクリームココアを飲みながら同意する。もう、行く空気満々だ。だがアクアはあまり気が進まないようで、黙ってジンジャーティーをかきまぜている。やがて、空気を気にせずにはっきりと言った。
「私は行きません」
「……怖いんですか?」
「ち、違います! ……。ほ、ほら、お化け屋敷に赤ん坊を連れて行くわけにもいかないでしょう大泣きしますよ! 私は子守をしていますから、皆さんで楽しんできてください」
 アクアは、セラの言葉に動揺を隠し切れないままにイディアに注目する。イディアは、ホットミルクを飲んでいた。
「「「「「「「…………」」」」」」」
「ひ、1人は必要でしょう! 子守!」
 7人にイディアと交互に視線を向けられ、アクアは立ち上がりそうな勢いで力説する。確かに、子守は必要だ。
(……その手があったか)
(……その手があったんだ……!)
 ラスと諒は思いもつかなかった理由に言葉を失う。
(遊園地って、何気に諒ちゃんが苦手なものが多いんですよね〜)
 そんな出遅れた2人を撮影しながら、シーラはのんびりとそんな感想を抱いていて。
「ふぇ……」
 イディアが泣き顔になったのは、その時だった。お化け屋敷を断る口実にされたのが不満だったからではなく――
「ふぇえええええ! ふぇえええええ!」
 何かを怖がるように、何かを警告するように大声で泣く。皆はびっくりしてイディアに注目し、ファーシーも彼女の顔を覗きこんだ。お腹は今、一杯になったし、おむつ関係でもないことは泣き方で分かる。だが、一応の確認を済ませてから、ファーシーは言った。
「ど、どうしたの? イディア。ここには何も怖いことなんて……」
「ふぇえええええ!」
「アクアさんと2人で待ってるのがイヤなの?」
「ふぇえええええ!」
「……ファーシー、今の質問は……。……ああ」
 アクアは釈然としない気分で突っ込み兼抗議の意を込めた視線を送り、そこでイディア号泣の理由を悟った。熊の着ぐるみが、イディアの正面側から近付いてきている。のそ〜っとした熊の隣にはノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)がいて、彼女はファーシー達に向けて手を挙げた。
「ファーシーさんっ、今日はよろしくお願いしますねっ!!」

「ゆうえんちうちはじめてやわーきらきらしててめっちゃたのしいー!」
 その少し前、バシュモ・バハレイヤ(ばしゅも・ばはれいや)は、クリスマス仕様となったデスティニーランドに心弾ませ、歩いていた。ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)と手を繋いで、半ばスキップするような足取りで見える全てに生き生きとした瞳を向ける。
「でも人いっぱいおるからおねにーちゃんはぐれんようにな!」
「そうだね。これだけ混み合ってるとはぐれたら大変そう……」
 前も後ろも、更にその先にも、どこを見ても人がいない場所はなくて、この広さも相まって合流するのには苦労しそうだ。
「……あれ?」
 だがそこで、ケイラは人々を透かすように視線を遠くに飛ばしたまま、片手を何度か握り直す。つい今まで確かな温もりがあって、物理的な存在によって手を握り込むことは出来なかったのだけど。
 だけど、今は空を掴むばかりだ。
 遅ればせながら手元を見下ろして。
「いない……!?」
 バシュモの姿が忽然と消えているのを確認して、ケイラは愕然とした。

「ふぇえええええ! ふぇ……ふぇ……びゃあああああ!」
「イディアちゃんー、この熊さんはレンさんですよー、怖くないですよー」
「びゃあああああ!!!」
「……ダメです、レンさん脱ぎましょう! 頭脱ぎましょう! さあっ、さんはいっ!」
 熊の着ぐるみが接近すればする程、イディアは激しく泣き叫んだ。とにかく、全力で熊を拒否する。シャットアウトする。
「……仕方ないな」
 ノアの掛け声と共に、レン・オズワルド(れん・おずわるど)は着ぐるみの頭をかぽっと外した。
「びゃ……、……?」
 熊の頭から出てきたレンの顔を見て、涙を撒き散らしていたイディアはきょとん、とサングラスと目を合わせた。昼の光を反射させるサングラスを見つめることしばし。
「……? ばぶ。……ばあ」
 目の前の着ぐるみがレンであることを理解したようで、両手を伸ばしてわきわきとさせる。笑顔を取り戻した彼女を見ながら、レンは納得いかなそうに溜息を吐いた。
「この着ぐるみはどうも子供に不評だな……熊だからか?」
「ば、ばぶ、ばあ」
 何かを言いたそうにイディアは声を発し続ける。喋ることが出来たら『くまさんはこわくないよ!』と言っていたかもしれない。ぬおん、と迫る無表情な着ぐるみが怖かったのだ。本物を知らない彼女は、くまはかわいい、と思っている。
「ということでファーシー、イディアちゃんの面倒を見にきたぞ」
「うん! ありがとう!」
「面倒を……!?」
 2人の間では話が通っていたらしく、ファーシーは聞き返したり驚くこともなくレンにイディアを預けている。レンはスリングを斜め掛けし、着ぐるみ分だけ太くなった両腕で彼女を支えた。
 アクアは、その光景から目が離せなかった。子守役が来たということは――
「ちょうど良かったわ。これでアクアさんが残らなくても大丈夫ね!」
「…………」
 即ち、そういうことである。テーブルを見ると、誰のカップの中身も空になっていて。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか!」
 ファーシーもそれを確認し、立ち上がる。皆が移動を始める中、外で待つという行動理由を失ったままにアクアも最後尾から付いていく。
「実は私、遊園地って初めてなんですよっ!! だから、ファーシーさん達が遊びに行くって聞いた時は私も私も!! とレンさんに本気で懇願しましたっ!! なので、今日は全力で遊びます!!」
 歩きながら、ノアははりきった調子でぴょんぴょんと跳ねるようにファーシー達に言う。
「イディアちゃんはレンさんに任せて、私はこの遊園地の乗り物の全制覇を目指しますよっ!!」
 そこからは、熱く燃え上がるようなやる気オーラが感じられた。ダッシュしてきたバシュモがレンに飛びついたのは、その時で。
「わーなんかサングラスかけたくまさんやー! もふもふさせてー」
「……おっと」
 どーんという衝撃にいささかバランスを崩しながら、レンはバシュモに苦笑を向ける。
「来ていたのか。もふもふは良いがイディアが落ちないように気をつけるんだぞ。ああ、この子はケイラのパートナーで……」
 腰辺りに取り付いたままのバシュモをレンはファーシー達に紹介する。話しながら、人の流れに乗って歩き続ける。そして――
「ここにもいない……!?」
 バシュモを探し、ケイラが大慌てでその場に到着した時には、10人は人混みの中に紛れきった後だった。