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第四章 遅れてきた冬 2

「だぁーはっはっはっはっはっ! シャムス! おまえもまだまだうぶだなぁ!」
 バシバシと、酒に酔った男がシャムスの背中を思い切り叩いていた。普段なら周りにいる護衛の従者たちがそいつをボコボコにするものの、お酒の席ということもあってシャムスがそれを許さなかった。そのため、すっかり酔いの回ったローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)が、調子に乗ってシャムスに絡みまくっているのだった。
 しかもローグの話題は恋愛事。それも生々しいものだった。男と女は付き合ったらナニをするのが当たり前だの。実はアレをするときには舌を使うだの……無茶苦茶なことを言いまくる。しかしシャムスは、それを真剣な顔で聞いていた。
「そ、そんなに……。う、ううぅむ……男と女は難しいのだな」
「そりゃそうだって! なんならあんたにも俺が教えて――」
「お馬鹿ぁ!!」
「ふぐぅっ!?」
 さすがに度の過ぎた失礼なことを言い出す前に止めなくては。フルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)がローグの鳩尾に拳をいれた。ローグはぶっと口の中に含んでいた酒を吹いて、イスから転げ落ちる。それから……ゲロゲロと溜まっていたものを吐き始めた。
「きゃあああぁぁぁ!」
「もお! ローグ! なにやってるのさぁ!」
「おまえが人のやばいとこをぶん殴るからだろう! ……あ、やば」
 うぷっと、ローグはさらに吐き気をもよおす。オロロロロロと、テーブルの周りをびちゃびちゃにした。「なにをしとるかおまえはああぁ!」と、シャムスの従者たちがさすがに我慢できなくなってローグを拘束する。
 ――数分後。意識を失ったローグが木に縛られた姿があった。
「まったく……さすがに悪酔いしすぎ! ねえ、シャムス様!」
 フルーネがシャムスに同意を求める。シャムスは「ん、ああ……」と、すこし心配そうにローグを見ながら、名残惜しそうな顔をした。
「だが、興味深い話も多かった。男女の仲はやはり勉強が必要だな」
「あの、シャムス様? そんな勉強しなくてもいいですからね?」
 特にローグの言うことは、と付け足すのを忘れなかった。
「コアトルも、止めてくれればいいのに」
「どうせなにをしたところで、どのみち止まることはなかろう。なんとかなるのなら、とっくの昔に行動しておるしな」
 フルーネに言われて、近くにいた大蛇型ギフトのコアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)はそう返答した。それからコアトルは遠くを見るような仕草でローグを見る。
「まあ、良かったのではないか。結果的には大人しくなった。フルーネの拳におかげだな」
「な、なんか人がものすごく怖い人みたい……」
 複雑な気分だ。フルーネはなんとなくそう思って、世の中は理不尽だと感じた。


 アムドゥスキアスのテーブルに白峰 澄香(しらみね・すみか)たちはいた。
 なんのかんのとアムトーシスに観光で来たのだが、ひょんなことから、こうして魔神と呼ばれる魔族とテーブルを囲むことになったのだ。ただ、その本人の魔神さんは、澄香が想像してよりもかなりお子さまで、目上の人というよりお友達の弟という気がした。
 が、それも見た目だけの話だ。おしゃべりしているうちに、澄香もこの魔神と呼ばれる少年がかなり長い年月を生きてきた悪魔だということがわかってきた。博識だし、しゃべり方もすこし大人びてる。次第に澄香たちも、アムドゥスキアスを心では敬うようになってきた。
「この街は芸術都市というか。街そのものが芸術なんだな」
 キールメス・テオライネ(きーるめす・ておらいね)が、後ろに見える街の風景に目を凝らしながら言う。アムドゥスキアスは笑った。
「そうだね。と言っても、このライトアップとかはリンダさんのおかげだけど。ボクが普段から街にしているのは、このアムドゥスキアスの塔から溢れ出る街の明かりぐらい。芸術っていっても、それはみんなが作りあげたものさ」
「平和になったアムトーシスならではっちゅーことでもあるんやなぁ。それがいつまで続くのかは、ちょいと気になるけども」
 オクト・テンタクル(おくと・てんたくる)が渋い声でうなる。アムドゥスキアスはそれにうなずいた。
「そうだね……。出来れば、この平和がいつまでも続いてほしいところだけど……。でも、たぶんそれは無理だと思う」
 薄情にも聞こえる言葉だった。思わず、澄香が「どうして?」とたずねた。
「人間だけじゃなくて、人ってものが存在してる歴史はそういうものなんだよ。リッシファル宣言とそのときの大戦役が最も近いところのものだけど、それ以前にだって、このザナドゥにも戦争や争いは少なからずあったんだ。アムトーシスだって例外じゃない。たくさん傷ついて、それでも生きてきた結果にいまがある。それはたぶん、どこまでいったって変わらない。人が存在し続ける限りはね」
「でもそれじゃあ……なんだか虚しくなりませんか?」
 達観しているというか。見捨てているというか。見透かしすぎて、自分が生きていること自体がちっぽけに見えてくる。そんな気分にもなった。だが、アムドゥスキアスはそんな悲観を微塵も感じさせない笑顔で言った。
「そんなことないよ。そこには必ず未来があるじゃないか」
「未来が?」
「うん。そりゃ、広い目で見たらちっぽけな未来かもしれないけど、ボクにだって君にだって、未来はある。それは大事にされなくちゃならないものだとボクは思うんだ。確かに戦いは、どこまでも続いていくんだと思うけど……それは別に、誰かや自分の未来を諦めるってことじゃない。幸せだったって思えるように、生きていこうよ。ボクも、そう祈ってるんだから」
 アムドゥスキアスはそう語ると、しばらく黙ったまま、自分の住んでいるアムドゥスキアスの塔を見あげた。
 魔神になったとき、最初に建てた建造物だった。あれからもう何千年も経っている。あのときのボクは褒めてくれるかな? 誰かに聞きたいけど、そんな人はもう数えるほどしか残されていない。その為じゃないけど……生きていこう。すこしでも……。
 アムドゥスキアスは、静かにそう誓った。

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

 シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
 久しぶりのザナドゥを舞台にしたシナリオとなりましたが、いかがだったでしょうか。

 〆切の延長などもさせていただいて、自分の遅筆ぶりが情けないです。
 その分、少しでもご満足いただけるものになっていれば、幸いに思います。

 さて、アムトーシス。
 今回は街中が舞台ということもあって、なんだか色々と作中の街並みが完成されてきている気がします。
 せっかくですので、ご参加くださった皆様には異国情緒に溢れる旅行気分を味わっていただければ……と思っておりますが、はてさて。

 それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
 ご参加ありがとうございました。

 ※02月7日 リアクションを一部修正致しました。