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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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第1章 植林の道とある提案

 これから開校する予定の種もみ女学院には、衰退する大荒野のオアシスを救うという使命があった。
 若者がどんどん出て行ってしまうオアシスに、活気を呼び戻そうと立ち上がったのが本家B級四天王のカンゾーとチョウコだ。
 二人は百合園の女の子に目をつけた。
 かわいくてお金持ちの女の子が嫁に来てくれたら、きっとオアシスも元気になるに違いない。
 パラ実と百合園は険悪ではないが、親密とも言い難い。
 特に、パラ実生と接したことのない百合園生にとって、何かと荒っぽいパラ実生は警戒の対象でもある。
 故に、カンゾーとチョウコは種もみ女学院と百合園の姉妹校提携に手を付ける前に、イメージアップをはかることにした。
 もっとも、パラ実分校が百合園と姉妹校関係になることを望み、最終的には合併を狙っているという噂は、あっという間に百合園まで広まってしまったわけだが。
 ともかく、イメージアップは、チョウコが中心となって行うことになった。
 殺風景な種もみの塔の周りを緑いっぱいにして、パラ実生が社会貢献している姿を見せようと、鍬を手に集まったチョウコ率いるレディース軍団だったが……。
「この塔の周辺がこんなにいい土だったとはのう〜。そぅら、大きく育てよ〜!」
 ブワッと種もみを蒔く種もみじいさんの一団。
 チョウコ達が耕した土をどこからか目ざとく見つけ、種もみを蒔き始めたのだ。
 種もみじいさんから種もみを奪うのは、パラ実生の本能のようなもの。
 土を耕していた鍬は、たちまち武器になってしまった。
「やめてよ、おじいさん達をいじめないで!」
「瀬蓮ちゃん、危ねぇからこっちに!」
 見かねた高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が止めに入ろうとするも、彼女のボディガードを自称してついてきた若葉分校生に引き止められてしまう。
 瀬蓮はチョウコを見る。
「みんなを止めて!」
「止めたいけど、じいさんがこんなにいたんじゃどうしようもねぇ。種もみじいさん狩りをして、向こうから引いてくれるのを待ったほうがいいだろう」
「おじいさんが怪我しちゃうよ!」
 チョウコは苦しそうに顔を歪めた。
 種もみじいさんの手にある、上質な種もみがつまった皮の袋。
 それを奪いたくて仕方がない。
 チョウコのまた、その衝動と戦っていた。
 瀬蓮を止める若葉分校生の目も、種もみじいさんに釘付けだ。
 そしてついに、彼らの一人に我慢の限界が訪れた。
「──その種もみ、よこせやァ!」
 ヒャッハー! と、叫びながらレディース軍団と種もみじいさんの混戦の中に飛び込んでいく。
 すると、他の分校生も次々と参戦していってしまった。
「瀬蓮……止めてくる!」
 阻んでいた若葉分校生がいなくなり自由になった瀬蓮が飛び出そうとした時、空から強い警告の声が降ってきた。
「パラ実の方々は、すぐに種もみじいさんの排除・駆除行為を中止してください!」
 何だ、と空を見上げたレディースの目に映ったのは、聖邪龍ケイオスブレードドラゴンの勇壮な姿だった。
 そして声の主は、その背に跨る宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だ。
「あんた、何モンだ!」
 レディースの一人が声を張り上げると、祥子も拡声器を通して負けじと声を上げて名乗る。
「私は百合園女学院の教育実習生の宇都宮祥子です! 荒野に種もみを蒔き、育て、人々を飢えから救おうとする種もみじいさんを力づくで排除する学校は、百合園との姉妹校にふさわしくありません!」
 祥子の主張に、レディース達はどよめいた。
「おい、宇都宮祥子だってよ。元百合園生だろ?」
「種もみじいさんの排除をやめろって言われてたってなぁ」
 彼女達は困り顔をチョウコに向けた。
 チョウコは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、上空の祥子へ大声で言った。
「種もみじいさんらは言っても聞かねぇんだから、しょーがねぇだろ!」
「他の方法の模索もせず、安易に暴力に頼るならそれも結構! ただし、これ以上その暴力を続けると言うのなら、あなた達を無慈悲で危険な暴力集団として、校長やヴァイシャリー家に報告します!」
「おいおい、そんな報告されたらやべぇだろ……」
「あいつ、潰すか。──誰か銃持ってねぇか?」
 レディース達が物騒な行動に出ようとするのを見透かしたように、祥子の声が被ってきた。
「なお、この様子はデジタルビデオカメラで撮影して、籠手型HC弐式を使い、リアルタイムでヴァイシャリーに動画を配信しています」
 証拠を見せるように祥子がデジタルビデオカメラを掲げると、やや離れたところで、同じく聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに乗っている同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)もデジタルビデオカメラを掲げてみせた。
「何だと!? これ以上やるならチクるって言っときながら、すでに実行済みかよ!?」
「やだっ、あたし今日は農作業だと思ってこんなダサイ格好なのに! ヴァイシャリーの王子様にアピールできないじゃん!」
「ちょっとヤメテ! 待ってて、今、着替えてくるから!」
「あんたら何に文句言ってんだ!?」
 レディースに混じってやって来ていたギャル達も騒ぎ出すと、抗議の内容が気に入らなかったレディース達が睨みつけた。
 同人誌 静かな秘め事──静香は、その様子をおもしろそうに見下ろした。
「仲間割れですの? ふふっ、その様子もちゃんと撮ってあげますわ。ところで、母様の呼びかけの答えはどうなのかしら?」
 呟き、チョウコに目を向ける。
 チョウコはまっすぐに祥子だけを見て対抗するように言った。
「ここを田畑にする気はねぇんだよ! ここら一帯は緑化モデル地区だ!」
 祥子の侠客の威勢に押され気味だったレディースが、チョウコの宣言に勢いを取り戻しだす。
「そうだそうだ! 開校と緑化活動は連動してるってのに、ここから離れてどこでやれってんだ!」
「決まってるじゃない。ここじゃないどこかよ! そうしていたちごっこの開拓と種もみ蒔きが繰り返されることで、大荒野は一大耕作地として生まれ変わるのよ!」
「な、何て勝手な言い草なんだ……」
 レディースとギャルは驚愕した。
 両者がそんなやり取りをしている間、種もみじいさん達はというと。
 祥子を味方と判断し、調子に乗って種もみを蒔いていた。それも奮発して高級な種もみをだ。
 その気配に気づいたレディースが、ついに耐え切れなくなって鍬で思い切り種もみじいさんをブッ飛ばしてしまった。
 ホームラン級に飛んでいく種もみじいさん。
 ブッ飛ばしたレディースの手に、種もみの詰まった袋がポスンと落ちてくる。
 それをきっかけに、再び種もみじいさん狩りが始まり、場は阿鼻叫喚の渦となった。
 チョウコは舌打ちすると、祥子に種もみ女学院開校の理由を話し始めた。
「アタシらは単に百合園の子とイチャイチャしたくて姉妹校を目指してるわけじゃない。世話になったオアシスの存亡がかかってんだ。あの人達のためなら何だってやってやる!」
「恩返しは立派なことだけど、あなた達のやろうとしていることは認められないわ。──パラ実生が空大に大量進学したため、あそこが何て呼ばれたか知ってる? パラ実大分校よ。もし、種もみ女学院が百合園と姉妹校になったら、きっと同じように言われるわ。生徒達の貞操の危機よ!」
 言い切った祥子にチョウコがさらに反論しようとした時、レディース軍団と種もみじいさんの乱戦の中から、仮面をかぶった何者かが美しい金髪をなびかせて現れた。
 いつまに戦いに加わっていたのか、その手には選定鋏が光っている。
 パーティマスクらしき仮面の人物は、チョウコを見て静かに言った。
「そういうことだったのか……。これは余計な殺生をしてしまったな」
 切なくため息をつく仮面の人物だったが、乱戦の中で命を落とした者はいない。
 その代わり──。
「あーっ! あたいの髪が!」
「あっ、あたしも!? どうなってんだ!」
 数名のレディースの長髪が、肩口でばっさり切り落とされていた。
 どうやらこれが、仮面の人物の言う殺生のようだ。
 チョウコは胡散臭そうに仮面の人物を見ている。
「何だい、あんたは?」
「私の名は『仮面雄狩る』。リアジュウシネを潰す者だ」
 仮面雄狩る──口調も人格も変わってしまっているためわからないが、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)である。
 膝下ほどまであるきらめく金髪に見えるものは、ギフトのシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)だ。
 チョウコはますます胡乱気な目つきになっている。
「いったい何の用だ? ここにリアジュウシネはいないよ」
「そう……これはこちらの勘違い。またしてもパラ実生がリアジュウシネと騒いで、まっとうに生きる者の去勢を企んでいるのかと思い、懲らしめにきたのだが……違ったようだね。それどころか、リアジュウを目指しているのだろう?」
「ああ、そうだよ。そしてオアシスを賑やかにするのさ!」
 二人の会話を聞いて、祥子は嫌な予感がした。
 リカインの頭の上に乗っていて、周囲には髪の毛だと思われているムーンも嫌な予感がした。
(あの百合園の教育実習生は強そうです……。実は私が髪の毛ではなかったことに気がつき、切ってしまえなんて考えたりしたら大変です。ですが、リカインは仮面雄狩る状態で私のことなど気にしていない様子……)
 ギリギリまで、仮面雄狩るに付き合おう。
 と、ムーンはいつでもギフト用装着ブレードとミニツインドリルを振り回せるように、触手を緊張させた。
 そんなムーンとは反対に、レディースとギャル達は心強い味方が現れたと喜んだ。
 しかし、翼の靴の力でふわりと宙に浮きあがった仮面雄狩るのように飛ぶことはできないので、標的はやはり種もみじいさんのままだ。
 潜在解放により仮面雄狩るの秘められた力が引き出され、肉体の完成でより強靭な体に仕上がっていく仮面雄狩る。
「仮面雄狩る様ー! がんばってー! 勝ったら、うんとサービスしちゃうから!」
「切った髪のことなんて気にしなくていいわよ!」
 黄色い声援を送ったのは、年齢を偽ってキャバ嬢をしているパラ実生だ。
 仮面雄狩るは、仮面で覆われていない口元に淡い笑みを浮かべると、宙を蹴って祥子へ一直線に飛んだ。
 仮面雄狩るの手が何かを投げた。
 ハッと祥子が受け止めたのは、薔薇の飾り。
 キザな挨拶とも取れる行動に怪訝な表情で相手を見る。
 タキシード、シルクハット、ベルフラマントで決めた──変な奴。
「あなた、本当に何者なの? 契約者なのは間違いないみたいだけど」
「言っただろう。リア充を応援する者だと。種もみ女学院と百合園が姉妹校になることで、リア充が増えるのは結構なことじゃないか。それも、子孫繁栄のためだという。それを邪魔する君には、撤退してもらうよ」
 そう言って、仮面雄狩るは選定鋏を構えた。
 選定鋏──どこから見ても剪定鋏だ。
 祥子は一瞬、言葉を失った。
 はたして、これを相手にしていいのか、この変な奴を。
「さて、この選定鋏は君を選ぶかな?」
 あやしく笑う仮面雄狩る。
 その鋏は、エリュシオンの選定神と同様の力を持つとか。
 ──もちろん、そんな事実は一切確認されていない。