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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 竹林の散策路の中で、ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)は頭を抱えていた。
「わあ……とても美しくて、風情のある景色ですわ」
 ナディムの隣では、グィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)が感嘆の声を上げながら月を見上げている。
「グィネヴィアのお嬢さんと、今度は二人で楽しむために遊ぼう、って約束していたはずなんだが……」
 じとっとナディムが向ける視線の先では、桐条 隆元(きりじょう・たかもと)が散策路の作りに感心しながら、ナディムとグィネヴィアの前を歩いていく。
「ふむ……この配置は、わしの宿屋の庭園に活用できそうだ」
「……なあ、たかもっちゃん」
 ナディムが、グィネヴィアに気付かれないようにそっと隆元に耳打ちをする。
「頼む、ここは空気を読んで帰ってくれよ……」
「何を言うておる、中秋の名月の時期を美しく彩るこの様々な工夫が分からぬのか」
 聞く耳を持たない隆元に、ナディムはひとつ溜め息をついた。こうなってしまったら、もう人の話を聞いてくれる状態ではない、と悟ったのだ。
 隆元への説得を諦めたナディムはグィネヴィアの傍に戻った。
「暗いから足元、気ぃつけろよ」
「はい、心配して下さって、ありがとうございます」
 ナディムはグィネヴィアが転びそうになったらすぐ支えられるように、グィネヴィアのやや後ろを歩いていった。

 三人が竹林を散策していると、野良英霊の赤川元保と国司元相が月うさぎの餅を持ってやってきた。
「ようやく持って来たか。待ちくたびれたぞ」
 好物の餅を前にして隆元が嬉しそうな声を上げ、早速餅をひとつ手にとった。
「まあ、美味しそうですわ。わたくしもひとつ、頂きますわね」
「……あれ?」
 隆元に続いてグィネヴィアが嬉しそうに餅を頬張ったのを見て、ナディムが声を上げる。その場にはもうひとつ餅が残っている。
「たかもっちゃん……もしかして赤川ちゃんたちに、人数分の餅を持ってこいって言ったのか?」
「当たり前ではないか。腹が減っては満足に竹林を見ることもできぬであろう」
 さも当然、との如く反論する隆元に、ナディムは盛大に溜め息をついた。
「この餅、『分け合って食うとその2人は永久に結ばれる』ってジンクスのある餅だぞ?」
「え、ええっ!?」
 呆れるナディムとは対照的に、驚いたのはグィネヴィアだ。ジンクスを知らなかったのは隆元と同じだが、ジンクスを知ると急に餅を口に運ぶ手が止まった。
「人数分の餅を持ってくるなんて、情緒の欠片もない……」
「餅のジンクスなぞ知らぬわ! わしは餅が食えればそれで良い」
「そ、そんな意味の込められたお餅だったのですか」
 隆元とナディムが騒いでいる中、グィネヴィアは一人、残りの餅を食べて良いものかどうか迷いながら、顔を真っ赤にしてうろたえていた。

「お月見、二人でできなくなってごめんな」
 餅を食べて満足した隆元が遥か先へと歩いて行ってしまった後、ナディムとグィネヴィアは二人で竹林を歩いていた。
「いいえ、人数が多くなった分、賑やかで楽しかったですわ」
 グィネヴィアの方は特に気にした様子もなく、笑っている。だが、餅を食べ終えてからどこか恥ずかしそうにしている。
「……今度こそ、二人で楽しむために遊ぼうぜ」
「ええ、是非また遊びましょう!」
 ナディムの申し出を、グィネヴィアは嬉しそうに受け入れた。
「外の世界には、わたくしの知らないことがまだまだたくさんあるのだと痛感しましたわ。ですから、もっといろいろな場所へ連れて行って頂けませんか?」
「ああ、もちろん!」
 グィネヴィアとナディムは、しばしの間二人きりでの竹林の散策を続けたのだった。