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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【誰かの為に】


 受け取る人に合わせた贈り物を用意したい。
 それは至極もっともな想いである。
 真実その真心が強ければ強い程、渡したい贈り物は運命的にピンと感じるものだ。
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が必要であればと持ち込んだ資料画像を食い入るように見つめる。
「私、ダリルに贈る装身具を造りたいの。で、これなんだけど」
 机の上にプレゼント作成用にと散りばめられている遺跡などで集めた機晶石の欠片と共に広げられた昔の装身具とかが載せられている資料画像の一つをリリアは人差し指で示した。
 アクセサリーを写した一枚の画像。緋色の機晶石を中心に据えた金属製のブローチ。
「これをそっくり模したものを造りたいのね」
 とても素敵なブローチだしと意気込むリリアに資料提供者のメシエは、小さく唸る。リリアが今見ているのはダリルと縁のある女性が作った物の資料画像の一枚だ。プレゼントの贈り主をダリルと知っているメシエは、女性的リリアの直感に軽く感心しながら、
「一日では難しいかもしれないねえ」
率直な感想を伝えた。意匠が細かいし、リリアの構想は中々に凝っている。
「でも、無理じゃないわよね?」
「ああ」
「じゃぁ、決まり」
 即断にメシエは画像を抜き出し、リリアに預けた。
「わからないことがあったら聞くといい」
 画像に映る物自体を知らないわけではないから、とメシエはリリアに言い、助言に机の周りを巡るように歩き、横を過ぎようとしたリンスを呼び止める。
「いいところに来た。リンス君、ちょっといいかい?」
「? 何か」
「忙しいところすまないね。こういう機会でしか渡せないかと思って。昔の装身具の画像集が幾つかあるんだけど、参考資料として使えないかな。使えるようであれば、いつかのお礼も兼ねて君に渡したいのだけど」
 良かったら、の話だがと前置きしたが、必要なかったようだ。表情に乏しいリンスの顔には、ありありと興味が浮かんでいる。
「助かる。でも、いいの? 貴重なんじゃない?」
「必要な人が持っている方がいい。遠慮なく受け取ってくれ」
 メシエとリンスの資料の受け渡しを背景にして、リリアはメシエが広げた機晶石の厳選に夢中になっていた。
 何時も危険な任務に身を投じるダリルの事を「ちょっと心配」しているリリアは、いついかなる時もダリルが護られますように、と願いを込めるのに相応しい緋色の機晶石を探す。


*...***...*


 人形作成に混ざって黒崎 天音(くろさき・あまね)が作っているのは大小様々モチーフも種類に富んだビーズ細工達だった。
 器用な指先で編まれていくのは人形に合わせたネックレスに小さな王冠。人形用のアクセサリーとして、そして、子供達にとってはブレスレットや指輪としての、小さくて可愛い小物達。
 借りたビーズ細工の本で基本を抑えながら応用と工夫を凝らし、次から次へと作品を完成させていく。
 女の子が選びそうな可愛らしいアクセサリー系から、ドラゴンや怪獣と言った男の子向け、デフォルメされた白馬、ユニコーン、フォレストドラゴン、と作成レベルすら上がっていく。
 人形工房は暖かな場所で、今は多くの契約者達により賑わっている。その中でのんびりと細やかな作業に没頭するのは常と違って、不思議な感じだった。
 どちらかと言えば受動的で物事が動いてから行動することが多く、積極的に活動している破名が珍しくて、テディベアとティーカップパンダを完成させて余裕が出来てきた天音は何気なくそちらに眺めるというより観察するという気分で視線を向けた。
 作成しているのはかなり昔に流行った手袋人形らしい。手袋をパーツごとに鋏で切って、綿を詰めて縫い付け、服を着せて毛糸の髪の毛を三つ編みに、ボタンの目とパステルチョークのぴんくほっぺ。ノスタルジックな手袋人形は簡単過ぎてどんな初心者も一時間か二時間かで完成させることができると言う。手芸初心者なら無難なチョイスではあるか。流行遅れで古いけど。
 人形工房の主人であるリンスからいくつかの助言を受けて再び縫い針を動かす破名の様子は普通の初心者然で、針の扱いに若干の不慣れが垣間見えるも、特に苦手にしているとかの感じは無い。作業の手も早いし、なんだ存外器用なのかと思って、改めて人形に注目した天音は、一度目を瞬かせる。
 確かに、作っているのは人形だ。人形だとわかっているのに、『何を作っているのかわからなくて』不気味なものに見えた。
 否、不気味と表現するのもおかしいかもしれない。
 単語のジャンルとして同列に入るだろう呪い人形だって製作者の意図が感じられるというのに、破名が作る人形にはそれが無い。どうして作られたのかわからず意図不明という意味での不気味さが漂っているとしか評価できない。
 センスと感性が皆無ということは、相手に訴える要素が無いに等しいとでもいうのか。
 あんな真剣な顔で心が込められていないはずはないのだが、これは果たして贈り物になるんだろうかと疑問が浮かぶ。
「しかも、気づかないんだね」
 作っている事に夢中なのか、本当にわからないのか判断に困る。上手い下手、器用不器用とは違ったそれに、声をかけたほうが良いのかどうか天音は迷った。