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胸に響くはきみの歌声(第2回/全2回)

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胸に響くはきみの歌声(第2回/全2回)

リアクション

 古代遺跡の隠された地下内部へ続く入口を守るコントラクターと、それを突き崩し、瓦解しようとしている強化人間部隊。
 数では強化人間が上だった。彼らは訓練された兵士で、銃やナイフの扱いにも長けている。手術によって強化された肉体は長時間の酷使にも耐えられ、コントラクターの技を受けても直撃でなければしのぎ切れた。そして当然、幾度かの激突でコントラクターの攻撃が持つ威力が侮れないことを知った彼らは持てる能力を駆使し、コントラクターたちに決めの一手を出させないよううまく立ち回っている。
 その光景を、ルガト・ザリチュは巨大トレーラーのうす暗い内部に設置されたいくつものモニターで見ていた。
「うーん。ジャミングされたときはどうかと思ったけど、意外とどうにかなるもんだね」
 戦闘が始まってすぐに、強化人間同士の通信機能が妨害された。しかし有視界戦闘であることや、これまでの連携訓練の賜物か、強化人間たちはほとんどとまどいも見せず、通信機能なしでの戦闘に順応していた。彼らには彼らなりに、これまでに培った絆と相互理解があるのだろう。
「まあ、こっちの通信までイカレちゃってるのがちょっと問題だけどねぇ」
 コツコツ、と爪先でモニターをたたいたあと、ふむ、と考え込む。
 映像での強化人間たちは一進一退していた。
 コントラクター側の連携も優秀で、突き崩せそうになると必ずだれかがそこにフォローに回る。面攻撃で強化人間を足止めし、瞬間破壊力を持つ者が点で攻撃をしている。
 場は常に流動的で、波のようにうねっていたが、膠着しているのは間違いなかった。
「ねえきみたち? どうしたらいいと思う?」
 ルガトは振り返り、そこに立つ源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)スープ・ストーン(すーぷ・すとーん)、それに七刀 切(しちとう・きり)を順に見た。
 鉄心は暗がりに紛れるように切を盗み見たが、切は答える気はなさそうだ。
「撤退を促すべきかと、思います」
 黙考する間を短くあけて、鉄心は告げる。
 目に見えて落ちていないとはいえ、通信機能の妨害は彼らの連携を阻害し、強化人間たちは能力を活かしきれていない。力は拮抗しているように見えるが、すでに3人の強化人間が戦闘不能になっている。その上向こうには新たに増援が到着し、完全に数でもこちらが不利な状況になってしまった。
「――ゆえに、今のうちに退かせるのが得策です」
「ふーん。でもそれって、本当にうちを思っての意見なのかなぁ? だってきみ、コントラクターなんでしょ?」
 幅広のミラーサングラスの奥の赤い目が愉快そうに鉄心を見つめる。サングラス下の動きは外からは見えなかったものの、見つめられているのを感じとった鉄心は居心地悪さを感じつつも身動きせず、視線をそらさず、意識して脱力を心掛けたが、緊張だけはどうにもならなかった。
「そうです」
「なのにぼくの側につくんだ?」
「……あなたの望みが、あの女性を復活させたいだけだと言ったからです」
 鉄心は後ろの壁際にあるポッドに視線を移した。
 そこには生命維持装置らしき機械から伸びるチューブにつながれ、青白い光をぼんやり輻射している女性の頭部と片腕、それをつなぐ胸部の一部が養液のなかに浮かんでいる。ときおりまばたきをしたり笑みを浮かべたりしているけれど、暗い目は焦点を結んでおらず、意識が覚醒している様子はない。今もかすかに唇が動いていたが、言葉を綴っているようには見えなかった。肺がほとんどない状態で、声を発せられるとも思えなかったが。
 ルガトは彼らに、彼女は生きていると告げた。
『タリーを構成するだけのナノが不足していて、活動できないでいるだけだ。あの体も、ほとんどが死滅したナノだ。でも生きているんだよ。あのなかにぼくのタリーはいて、今も動き続けている……』
 ポッドに手をあて、寂しげに見上げるルガトの姿は、まるで祈っているように見えた。いつか奇跡が起きて恋人の暗い瞳に光がよみがえり、彼を映し、彼の名を紡ぐのをただひたすら待ちわびている。
 その願いはとても純真なものに思えた。
 そして、できるものなら叶えてやりたい、と思ったのだ。
 もちろん彼にも譲れない一線はあるが、それを超えてしまわない限りは助力してもいいのではないだろうか。
 そのとき、プシュッと空気が抜ける音がして、後部とつながる圧力ドアが開いた。
「おい。もう1人……と、1匹追加だ」
 クマのような図体の持ち主で強化人間のアエーシュマが、ひょいと頭を下げてなかを覗き込んでくる。
「1匹とは失礼な」
 後ろから憤慨する少年の声がするが、姿は見えない。なにしろアエーシュマの胴体が入口の大半をふさいでいる。ただ、ひざのところから見える空間の暗闇で、8つの大小の赤い光がポウッとついた。
「お? 違ったか? 悪いな、クモをどう数えるか知らないんだ」
 完璧面白がっている声で、一応謝罪の言葉を口にすると、アエーシュマは半身をずらした。生まれた空間に、アエーシュマを回り込むようにして黒鉄の蜘蛛型ギフトカン陀多 酸塊(かんだた すぐり)一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)が現れる。
 場の視線が自分たちに集中しているのを見て、悲哀はあわててうつむき、所在なさそうにもじもじと体を揺らす。幼いがゆえの大胆さか、それとは対照的に酸塊は堂々としたもので、8つの複眼でジロリとアエーシュマを見上げて威嚇を兼ねた警戒をする。
 小さな50センチ程度の機械が3メートル級のアエーシュマにけん制をかけるのがツボに入ったのか、ルガトはほお杖をついたままクスクス体を揺らして笑う。そして訊いた。
「ぼくはきみに見張りを頼んだんだけどねぇ?」
「あんたに話があって、捜していたんだと。戦う意思はないって言うからな。そいつらのように、一応武器は預からせてもらった。帰るときに返してやる」
 最後の言葉は悲哀と酸塊に向かって告げた言葉だった。
 そして2人が部屋に入ったのを見て、自分は持ち場に帰ろうと反転しかけたのを、ルガトが呼び止めた。
「おまえもここにいろ。あとで話がある」
 アエーシュマは肩で応じる返事を返し、一礼すると黙って切のとなりについて腕組みをした。
「さて。それで、ええと、女性の身で単身こんな危険な所までわざわざぼくを捜しに来てくれてありがとう、かわいいお嬢さん。光栄です」
「それはセクハラって言うんだぞ!」
 すかさず酸塊が言い返す。
「悲哀に何かしたら僕が許さないぞー!」
「酸塊」
 悲哀を守ろうという強い思いにかられ、息巻いている酸塊を、悲哀が胸に抱き上げた。そしてキュッと力を込めて勇気をため込む。
 そしていざこの場に来て、心臓が飛び出そうなくらい緊張にとらわれたなか、がんばって声を張った。
「私は……一雫、悲哀と、申します……」
「悲哀さん。ぼくに何の用かな?」
「あの……アストー01さんを……殺さないで、ほしくて……お願いにまいりました……」
 たどたどしくなりながらも悲哀は告げる。
「アストー01さんを創ったのは……ザリチュ博士だと、ゼーンさんから、聞きました……。このことに、決定権を持っているのも……あの……博士だと……」
「そうだね」
 ルガトは軽く肯定する。実際には役員会にかけなければならないだろうが、役員にはルガトに心酔している者が多い。ルガトがひと言言えばそれが既定化するのは目に見えていた。
「それなら、博士にとって……アストーさんたちは……娘みたいなものでは、ないかと……。
 どうか殺さないでください……。あなたにも大切な方、でしょう……?」
「大切? あんなできそこないが?」
 面白い冗談を聞いたように、ルガトはプッと吹き出した。
「アストーなんか、アンリの生み出したアストレースに比べれば、ただのガラクタだよ。子どものお人形ほどの役にも立たない。
 ああ、いまいましい」
 最後、胸の思いが吐露したように口にしたが、そこに感情がこもっているようには聞こえなかった。
 彼は飄々とした態度を崩さず、今も笑顔だ。
「そうか、きみたちはアレを知らないんだ。あの完成された自然体を。美しくも恐ろしい、いびつな存在アストレース。あれを目にしたら、ほかのなんか全部ゴミだ」
 ルガトの目には、はるか昔に見たアストレースの姿が焼きついていた。自分とタルウィの間に生まれた娘。しかしそれは最大の禁忌の存在であるとタルウィが畏怖し、憎悪したため、ルガトもそれにならって彼女を見ることをやめた。だから、まともに目にしたのはタルウィにせがまれて彼女の脳手術を執行したときだけだ。
 アストレースは完璧だった。まさに最高傑作。すべての科学者が羨望の眼差しを向けずにいられない。
 ルガトは悲哀を見た。
 この娘は知らないのだろう。あのアストーを生み出す数千年の試行錯誤でどれだけの失敗作が生まれ、そのすべてをルガトがどう処分してきたか。密林のダフマで同じ姿をしたドルグワントたちにしてきたことも含めれば、軽く4桁に達する。
 それを、今さら?
「あのアストーシリーズも失敗作だよ。ルドラを釣るエサにすることを思いつかなかったら、起動もさせずに廃棄処分でバケット(破砕機)行きだった」
 廃棄処分でバケット行き。その冷たい響きにびくっと体を震わせ、青ざめつつも、悲哀は必死に訴えた。
「でも……彼女たちはもう、生きて、動いてるんです……。お願いします」
 頭を下げる悲哀をルガトはじっと見つめたあと、おもむろに白衣のポケットに手を突っ込み、携帯を取り出した。
「ミナ、そこにいる?」
『博士! どちらにおいでですか? 連絡をとろうと朝から役員の皆さんがずっと捜していらっしゃるんですよ』
「あー、うん。知ってるよ。ごめんね、またきみに迷惑かけてるね」
『そのすばらしい頭脳の隅でかまいませんから、携帯は切らずに持つ物だということを覚えてくださるとうれしいですわ。
 それで、何の御用ですか?』
「ゼーンに……ああ、いいや。面倒。きみからみんなに伝えてくれる? アストー01への破壊命令ね、あれ取り下げるって」
『え?』
「ただし、回収は必要だよ。必ず捕えて連れ戻しなさい」
『――分かりました』
 ルガトは携帯を切り、またポケットに突っ込んだ。
「これでいい?」
「ありがとうございます……!」
「礼を言うには早いよ。あれの利用価値はなくなったから、どうでもいいと思っただけ。うちの猟犬たちは破壊する気満々だし、ぼくにもそれは止められない。あの憎悪は彼らの主義、存在意義だからね」
「行くならさっさと行った方がいい」
 ずっとモニターに目を落としたまま、ぽつっと気のない声で突然七刀 切(しちとう・きり)がつぶやいた。
「この場に残ったコントラクターはあいつらとの戦闘に集中してる。今なら入口に楽に近づける」
「そう思う?」
「鉄心が言ったとおり、このままならコントラクターが勝つ。ここでこれ以上時間をつぶしたって意味ない」切はルガトを見た。「ルドラたちの目的が達成されてからじゃ遅いかもしれないんだから、さっさと動くべきだ。あんたの目的が本当に、恋人の復活ならね」
「……分かった。ありがとう。
 じゃあ、そろそろ行こうか」
 立ち上がって伸びをするルガトにアエーシュマが言う。
「やっとか。昔は率先して行きたがっていたもんだが。歳をくって、ずい分腰が重くなったな」
「あれはきみたちが破壊されるのを見て鬱憤晴らししてただけ」
「ドルグぎらいは相変わらずか」
 苦笑するアエーシュマから目を放し、悲哀を見た。
 てっきり忘れさられているものとばかり思っていた悲哀はびくっと反射的、背筋を伸ばす。
「きみたちも来る?」
「いいんですか?」
「うん。一緒においでよ」
「おいおい。ピクニックじゃないんだぞ?」
「だってさ、僕の周り、彼らで囲っておいたら、いきなりミサイル撃ち込まれたりしないですむでしょ?」
 ああなるほど、とアエーシュマは納得する。
 次にルガトは鉄心を見た。
「きみは撤退しろと言ったね。ごめんね。きみを信じないわけじゃないんだ。ぼくもきみの見当が正しいと思うよ。でもね……もう、待ちくたびれたんだ」
 最後のつぶやきにこめられた感慨は、これまでの軽快なしゃべりと同じ人物が口にしたとは思えないほどとても重かった。
 もしやと懸念していたことが急に真実味を帯びてきて、鉄心の胸がざわつく。
 やはりこの人は――……。
 そのとき、ビーッビーッと音をたてて2つの小さなランプが緑から赤へ変わり、そして唐突に消えた。
「ナンバー4と10か」
「完全にロストしたな」モニターに映った、真っ二つに斬られて転がる強化人間を見て言う。「これこそ廃棄処分だ。残り8体。均衡が崩れたからな、次々いくぞ。
 まったく。オレをさっさと投入しないからこうなる」
「うん。だけどぼく、ホラ、臆病だから。きみに守ってもらわないと」
「フン」
 にこにこ笑うルガトに、どうだか、と言いたげにアエーシュマは鼻を鳴らしたが、ようやく戦場へ出られることにうれしそうに武装の点検を始める。
「あの……タルウィさんは、こちらに置いていかれるのですか?」
 少しためらうような素振りをしたあと、思い切ったようにティーが質問をした。
「うん? もちろん連れて行くよ。きみたちが守ってくれるんだろう?」
 ルガトからの返答に、ティーはほっと胸をなでおろす。そして緩んだ気を引き締めるように背筋を伸ばし、しっかりした声で「はい」と答えた。
 そっと脇のポッドの丸いガラスに手を這わせる。
 ルガトや鉄心たちがモニターに映し出された戦闘の様子に見入っているとき、ティーはインファントプレイヤーを使って、タルウィの「意思」を読み取ろうとしていた。
 ポッドのなかの彼女は一部しか残っていない。まともに残っているのは頭部と片腕だけで、それ以外の部分は失われている。この状態で生命活動を維持できているのは、ポータラカ人だからこそだろう。
 最初、ティーはその痛ましい姿に、きっと彼女のなかには死の体験が刻まれているのだろうとの思いから、交感することに躊躇した。おそらく彼女のなかはその「時」で凍りついているに違いない、と。交換すればそれを追体験してしまう。
 けれど、どうしても今のタルウィの気持ちを知りたかった。5000年待ち続けているあの孤独な博士にそれを伝えてあげたい……。
 その一心でティーは心を決め、ポッドのタルウィと視線を合わせた。
 しかしその恐れは、幸か不幸か杞憂に終わった。
 タルウィのなかには何もなかったのだ。
 いや、それは正確ではない。何もないようでいて、何かがある。ただそれは「感情」と呼べるものではなかった。「意思」ではあり、「個」でもある。が、少なくともティーではそれを「読む」ことは無理だった。
 ティーは「人間」であり、無意識的に最も自分が読み取りやすい「人間の感情」に変換して感じ取る。しかしそこにあるのは「人間」とは全く違う高次元の――あるいは低次元の――いわばデータであり、それを識別し、変換し、読むことはできなかった。それを表す「言葉」がない。
 簡単に言えば、フォーマットが違う。
 そこにあることは感じられても、それが何か、読み取れない。
 そのことをもどかしく思いながらもあきらめるしかなかった。

(でも、生きているのです。タルウィさんは、ここに。たしかに)

 ならば、守ろう。赤子のように無力な彼女を。
 決意を新たにして、這わせていた手をきゅっと握る。うつむいた視界に、イコナの姿が入った。
 イコナも同じようにポッドのなかのタルウィを見上げている。けれどその顔つきはぼんやりとしていて、瞳はタルウィを映していたが、意識はどこか遠くの何かへ向いているようだった。
「イコナちゃん?」
 ティーは呼びかけた。そして何度目かの呼びかけに、ようやくイコナは反応した。
 目をぱちぱちさせ、ティーの方を向く。
「あ……ティー……」
 口調もいつもよりゆっくりだ。
「どうかしたんですか? まるで目を開けて眠っていたようでしたよ?」
「眠って……? ――そう、かも、しれません……」
 え? とティーは思わず唇を動かしていた。
 てっきり「違いますわっ。そんな器用なことができるのは、ティーぐらいのものですっ」とかなんとか返されるとばかり思っていたのに。
 イコナは少しはにかみながら言葉をつなぐ。
「眠って……わたくしは、夢を見ていたのですわ」
 だれかが自分の前に立っていた。
 目を開いて、そのだれかに焦点を絞ると、そこにあったのは苦い失望の表情だった。
『……失敗か』
 見えない壁に阻まれて声は聞こえなかったけれど、唇がそう動いているのが分かった。
 その人に失意の目を向けられて、泣きそうになったこと。
 なのに、この人はこのままでは死んでしまうと思って、わたしが守ってあげなければいけないと思って……。
 はじめにやろうとしたのは――……。
「……夢です」
 何と説明すればいいのか分からず、イコナはかすかに笑んだまま首を振って、ティーの質問を遠ざけた。
「それより、ええと、タルウィさんですが、封印の魔石に封じて運ぶことはできますかしら?」
「どうでしょうか。分かりませんが、難しいのではないでしょうか。タルウィさんを封じて運ぶことはできても、運んだ先でこの生命維持装置やポッドも必要になるでしょうから」
「ああ、そうでしたわね」
(身代わりになった恋人をよみがえらせる、か……。
 失ってしまった命を取り戻そうなどと、そんな都合のいい話は神の身にさえ早々ないものでござろう)
 タルウィの運び方について話し合っているティーとイコナの背中からポッドの女性に目を移し、スープ・ストーン(すーぷ・すとーん)はそんなことを思う。
 大切なものを取り戻したい、という心情は分かる。だれしも持つものだ。それが己の過失、あるいは己のために犠牲になったものであるならば特に。
 罪悪感。執着。未練。名前は何ともつけられる。
 女性や子どもがそこに夢を見ようとするのも分からないこともない。恋人を取り戻したいと願う一途さは同情を誘うから。
 しかし現実はそうそう甘いものではない、とスープは達観する。
 ルガトのはもはや妄執そのものだ。5000年の間に池の底に溜まった澱(おり)のようなもの。
 それに気づかぬ鉄心ではない、とは思うが……。
(存外、気づいたからこそ、こちらにとどまっておるのかもしれぬな)
 ため息をつき、ルガトと何か話している鉄心を見やりながら思う。「自分たちが守るから、輪から出るな、決して前に出るな」とか、そういった心得的なことを話しているようだ。
(気づいているのであれば、もはや結論は見えておるだろうに。それに最後までつきあう所存か。
 ま、それもよいかもしれぬな。鉄心殿も、つれなくしたり結論を先送りにして逃げたりする傾向がある。此度のことはザリ殿を反面教師とし、失ってから後悔する羽目とならぬよう、たまには省みることを考える一助となるでござろうからな)
 スープはひそかに心のなかでそう結論し、1人うんうんとうなずいていた。