葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【2024初夏】声を聞かせて

リアクション公開中!

【2024初夏】声を聞かせて
【2024初夏】声を聞かせて 【2024初夏】声を聞かせて

リアクション


8.2人の思い出

 夏が近づいてきたある日。
「羽純くん、ホットにする? アイスにする?」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は、キッチンで紅茶を淹れていた。
 どちらかと言えば、アイスティーが美味しい時期だけれど、戴きもののこの茶葉はホットに適している茶葉だ。
「歌菜と同じで」
 リビングから伴侶である月崎 羽純(つきざき・はすみ)の声が響いてきた。
「……うん、それじゃホットにしよう!」
 歌菜はトレーの上にティーカップ並べて紅茶を注ぎ、茶菓子と共に羽純の待つリビングへと急ぐ。
 今日はそんなに暑くはなく、窓からは気持ちの良い風が部屋の中に吹き込んできていた。
 ソファーに座ってアルバムを眺めている羽純の髪が、さらさらと揺れている。
(羽純くん、なんだか……綺麗!)
 羽純にちょっと見とれながら、歌菜は近づいて。
「はい、どうぞ」
 紅茶の入ったティーカップに砂糖とスプーンをつけて、羽純の前に置いた。
「ありがとう。……ホットにしたのか。良い香りだ」
「うん! アイスだと、水滴も落ちるしね。大切な写真、濡らしたくないから」
 自分の分もテーブルに乗せると、歌菜は羽純の隣に腰かけた。
 2人きりで過ごす、午後のティータイム。穏やかな日常の姿だった。
「零すなよ」
「羽純くんこそ」
 微笑み合って、2人は一緒にアルバムを最初のページから見ていく。
 そのアルバムには、2人の共通の思い出が飾られている。
 2人が出会った頃からの――。