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2024種もみ&若葉合同夏祭り開催!

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2024種もみ&若葉合同夏祭り開催!

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「フリーマーケットって、本当に何でもあるのね」
 ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)が両腕いっぱいに買ったものを抱えて神条 和麻(しんじょう・かずま)へ振り向いた。
 生き生きとした彼女に微笑みつつも、和麻は買い物の多さに驚いていた。
「いつの間にそんなに……それ、使うのか?」
 訝しげに和麻が指さしたのは、袋からちょこっと存在を覗かせている泡立て器。ふつうの店に売っているように綺麗だが……。
「キマク商店街で調理器具を作って売っている人がお店出してたの。これを使って作った料理は、不思議とおいしくなるんだって。試してみようと思って」
「ああ、そう」
 騙されてる、とまでは言わないが、うまく乗せられたなと和麻は思った。
 ルシアは次にあひるのおもちゃを袋から取り出した。
「これはお風呂の湯船に浮かべると、すごくリラックスできるみたいなの。それから、これがインク切れしないボールペンに、こっちが絶対開かない金庫!」
「いや、後ろ二つは騙されてるだろ。だいたい、絶対開かない金庫ってどうやって使うんだよ」
 さすがに黙っていられなくなる和麻。
「……あ。言われてみるとそうだね。でも……まぁ、せっかく買ったから何か入れてみるよ。何かない?」
「入れるのは俺の持ち物か。……別にいいけどさ。今、適当なの持ってないから後でな。それと、荷物持つよ。まだいろいろ回るんだろ」
「ありがとう。じゃあ、次はどこを見ようかな。あっ。あそこ、犬の服が売ってるよ。見に行こうよ」
 ルシアはぐいぐいと和麻の手を引っ張り、どんどん進む。
「犬なんて飼ってたっけ?」
「飼ってないけど、かわいいから見てみたいな」
 そうして着いた、手作りの犬の服を売っているブース。
 一着ごとに違うデザインの服に目を輝かせているルシアを見ている和麻の表情もやわらかい。
 楽しそうなルシアを眺めながら、和麻はこれからのことを思った。
(告白してOKをもらったけど……ルシアだもんな。実はちゃんとわかってない可能性もあるよな)
 和麻の中に、もやもやと不安が生まれる。
 それでも、どうなるかわからないけれど、一緒にいたいのはルシアだから。
 告白して、OKをもらってゴールではない。
 むしろ、やっと始まったのだ。そう考えれば、不安があるのも当然と思えた。
(ルシアとの絆は、これから深めていけばいいんだ)
「和麻」
 ルシアに呼ばれて和麻の意識が現実に戻る。
 彼女は笛のようなものを持っていた。
 そして、それを吹いたとたん、笛の先端が伸びて和麻の鼻先にチョンと当たった。
「……」
「一着買ったら、おまけでもらっちゃった」
「犬、いないのに?」
「これから見つけてもいいよね」
 上機嫌なルシアに、和麻は苦笑するしかない。
「そろそろ休もうか。いっぱい買ったし」
「そうだね。向こうにパラミタ一白いお好み焼きが売ってたよ。食べてみようよ」
「怪しいからダメ!」
 今度は和麻がルシアの手を引き、安全な食べ物を売っている店に連れて行くのだった。

 フリーマーケットに出店しているのはパラ実生だけではない。
 オアシスの人達や噂を聞いたパラミタ各地から人が集まっていた。
 きちんと区割りされた通路を、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)高原 瀬蓮(たかはら・せれん)は手を繋いで歩いていた。
 稀に見る美少女二人が仲良く歩いているため自然と視線を集めていたが、本人達は気づいていなかった。
 パラ実にだいぶ馴染んだ瀬蓮が、美羽に知り合いのブースを案内した。
 そのたびにサービスやオマケをもらい、今日のために用意した買い物用の手提げ袋は早くもいっぱいになりそうだ。
「思ってたよりまともかも」
 美羽の素直な感想に、瀬蓮はクスクスと笑った。
「ちょっと荒っぽいけど、みんないい人達だよ。……あ、見て。あのお人形かわいいよ!」
 瀬蓮が指したブースには、親指の長さ分ほどの手作り人形が並んでいた。
「おまじないのお人形だって。願い事を三回唱えて枕元に置いて寝ると叶うそうだよ。……買っていこうかな」
 瀬蓮はいそいそとポシェットから財布を取り出す。
「飾っておくだけでもかわいいね。私も買おうかな。ねえ、瀬蓮ちゃん。アイリスにも何かお土産買っていこうよ」
「そうだね。じっくり見て決めよう」
 人形を買った二人は、足の向くままに歩いた。
 いつの間にか食べ物を売るコーナーに来ていた。
 すると、聞き覚えのある声が美羽を呼び止めた。
「美羽ちゃん、来てたの?」
「おばさん! わぁ、おいしそうなお惣菜!」
 声の主は中国から移住してきた農家の人だった。
 収穫した野菜を使った中国の家庭料理を売っていた。
「そちらはお友達?」
 美羽は瀬蓮を紹介した。
「少し休んでいったら? ほら、これ食べて力つけてね。まだまだ見て回るんでしょ」
「ありがとう! いくら?」
「これはサービス。おかわりはお代をいただくわね」
 美羽は野菜と肉のあんかけ炒めをもらった。
 そこに、今度は種もみじいさんが現れた。
「美羽ちゃん、来ると思っとったよ!」
 と、抱き着いてこようとするのを華麗にかわす美羽。
「ほれ、黄金の種もみからできた米で作ったおむすびじゃ。瀬蓮ちゃんと食え」
「美羽ちゃーん、瀬蓮ちゃーん、こっちこっち! こっちも来てくれぇ!」
 大きなおにぎりをもらったかと思うと、次に呼びかけてきたのは種もみ生だった。
「この究極のナスを使った焼きナス! さぁ、ガブッと!」
 と、まるごと串に刺したナスを突き出す。
「究極のナスって?」
「究極の肥料と究極の水で育てたナスさ! 絶対うまいぜ!」
「酢醤油は?」
「究極のナスにそんなものはいらん!」
 いろいろと怪しいが、種もみ生は自信満々に言い切っている。
 美羽が戸惑っている間に、瀬蓮が先に食べていた。
「おいしいよ、これ! 美羽も食べようよ」
 食べてみると、確かにおいしかった。
 おいしいおいしいと喜ぶ二人に、種もみ生は感激のあまりついに下心が表に出てしまった。
「二人共、俺の嫁になってくれー!」
 二人まとめて抱きしめようと広げた両腕は、しかし美羽が瀬蓮の手を引いてするりとかわしてしまう。
「おいしかったぁ! 瀬蓮ちゃん、向こうでおにぎりとお惣菜も食べよう」
「うん。みんな、ごちそうさま。お店、がんばってね」
 手を振り、二人は休憩にちょうどいい場所を探しに行ってしまった。
 見事に振られた種もみ生を、種もみじいさんがからかい半分に慰めていた。

 キャバクラ喫茶『ゐずみ』やステージ、契約情報サービスなどで賑わいを見せてきた契約の泉に、新しい店舗が建った。
 バラックに併設されたコンビニ『幸愛苦流P』の契約の泉店だ。そこの社長は……。
「俺が社長だ」
「きゃーっ、ニャンコの社長だって!」
「三毛猫? かわいい〜! 癒されるわね〜」
「確か三毛猫のオスって貴重なのよね。ミケちゃん、ねこじゃらしだよ〜」
 仕事に精を出していた国頭 武尊(くにがみ・たける)が三人の女性客に新店舗の店長なのかと聞かれ、
「店長じゃないけど、社長ならあっちだ」
 と、猫井 又吉(ねこい・またきち)を指したらこうなったのだ。
 ニャンコじゃないしミケちゃんでもない、と叫びたいところだが、大事なお客様なので我慢した。
 見たところ、荒野の住人ではなさそうだ。空京あたりから来たのかと、又吉は推測した。
「ようこそ幸愛苦流Pへ。お嬢さん方は泉で遊びに来たのか? 更衣室もあるぜ。遊び疲れたらうちで冷たいものでも買ってくれよ」
「飲食物は今日は半額なんだよね。ネットで見たよ」
 又吉は開店宣伝をネットの動画配信サイトに流していた。
「いっぱい買ってってくれ」
 女の子達は飲み物やお菓子類を買い込んで店を出て行った。
「ありがとうございましたぁ!」
 と見送るのは、バラックで暇を持て余していたパラミタ人達だ。
 又吉に誘われて店員になったのだが、もしかしたら、いまだ会えないパートナーが来るかもしれないという一縷の望みもあった。
 また、ここでは簡単な軽食も出していた。
 武尊が連れてきたかわいいコックさんで、白い粉を使った料理が得意なゆる族だ。
「タコ焼き6パックお待たせしました!」
 こちらも武尊が連れてきたコンビニ店員が元気な声を張り上げていた。
 武尊も品出しや客の案内で忙しく働いている。
 ふと見ると、又吉の姿がない。
 バラックのバイトも気がつき、どこへ行ったのかと気にし始めた。
「着ぐるみって、夏は地獄だよな。まさか……」
「しゃ、社長を探せー!」
 ドタバタと店の内外を、又吉を探して走り回る。
 すると、
「こらー! 真面目に働けー!」
「あっ、社長発見! 大丈夫ですか、気分が悪いなら横になっててもいいんですよ!」
「お水飲みますか?」
 謎のビデオカメラ片手に姿を見せた又吉に、バイトがわらわらと群がっていく。
 心配してくれたのはありがたいが、又吉は今日の店の様子をビデオカメラに収めていたのだ。
「俺のことはいいから、ふつうに仕事しててくれ。な」
 そう言い聞かせると、心配そうにしながらも水やアイスを押しつけて、それぞれ持ち場に戻っていった。
「社長、大切に思われてるな」
「撮り直しだぜ」
「とりあえず、姿が見えるところにいてくれよ」
 武尊が言った時、店の外から怒鳴り声が聞こえてきた。
 はしゃぎすぎたパラ実生が暴れているようだ。
「やっぱ出たか……。ちょっと行ってくる」
 ため息をこぼすと、武尊は狼藉者を沈めに出て行った。