リアクション
○ ○ ○ 子供用の衣装を借りて、5歳児と化した遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)も、新婚さんのパーティ会場に訪れていた。 「おにーさん、おねーさん、おめでとうございます!」 「おめでとうございます。しあわせになってください」 20代半ばくらいの男性と、20歳くらいの女性の新婚さんに2人で近づいて、子供らしい笑顔で祝福した。 「ありがとう。お2人もとっても可愛いわ」 純白のドレスを纏った花嫁さんは、ちょっと屈んで2人に笑みを見せた。 隣の花婿さんも優しい目で歌菜達を見ている。 「すごくすごくきれい……!」 席に向かう新婚の2人を、歌菜は目をキラキラ輝かせてみていた。 「おねーさんたちがしあわせになれるように、いっぱいいっぱいおいわいしなくちゃ!」 「そうだな、たくさんいわったほうが、しあわせになれそうだ」 2人は沢山のおめでとうの言葉と、余興の時間に歌を歌って新婚さんを祝福するのだった。 「小さな花嫁、花婿さんを募集しているのですが、少しお時間をいただけませんか?」 そんな2人に、式場のスタッフが声をかけてきた。 式場では幼児の花嫁、花婿モデルを募集しているそうだ。 「はすみくん、やろっ、いっしょにやろっ!」 歌菜はとっても乗り気で、羽純の腕をぐいぐい引っ張った。 「モデル? どうしてオレまで……」 「おねがい、おねがいー。はすみくんとやりたいっ」 羽純はあまり乗り気ではなかったが……。 「おねがいっ」 「……そこまでいうのなら……」 押しに負けて、歌菜と共に式場へと向かい、幼児用のかわいらしいドレス、タキシードを着せてもらうのだった。 「……すこしきゅうくつだ」 着せてもらった服は動き難くて、羽純には窮屈に感じられた。 「えへへへへっ」 ウエディングドレスを着せてもらった歌菜が、スタッフに連れられ羽純の前に現れた。 「……カナはにあってる、な」 可愛らしい歌菜の姿に、羽純はどきどきしていたが無表情で頷いた。 「はすみくん、かっこいい! あっちでしゃしんとるの!」 歌菜も羽純の可愛くて凛々しい姿がとっても嬉しくて、彼の手を強く引っ張った。 「そんなにひっぱるな、ころぶぞ!」 羽純は歌菜が転ばないように、ゆっくりと子供のペースでカメラの方へと歩く。 「はすみくん、カナのてをぎゅっとしてっ」 カメラの前で、歌菜は羽純に笑顔でお願いをする。 「そうだな」 と、羽純が歌菜の手を握った途端。 「うれしい。はすみくん、だいすきー」 幼児化している影響で、普段人前では言わないこと、しないことを歌菜は大胆に自然に表現していく。 歌菜はいきなり羽純の手を強くひっぱると、近づいた彼の頬にちゅっと口づけた。 嬉しそうな歌菜のキスと、少し驚いた表情の羽純の姿を、カメラマンはしっかりと写真に収めた。 「カナ……」 「つぎは、こんなポーズがいいかな? どうですか?」 歌菜は羽純の腕に抱き着いて、カメラマンに笑みを向ける。 羽純も軽く微笑んで、カメラに目を向けた。 2人の可愛らしい姿は沢山写真に収められ、式場のパンフレットや店頭に飾られたのだった。 ○ ○ ○ 「……まだか。まったくおんなのきがえは……」 式場の控え室で、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は眉間に皺を寄せて、パートナーのルカルカ・ルー(るかるか・るー)達を待っていた。 ちなみにタキシード姿の5歳児である。 幼児化については一度……いや二度も三度も拒否したのだが、ルカルカに強くせがまれて断りきれず、薬を飲んでの同行だった。 ルカルカには付き合ってやるが、ドレスは一着にしろと言ってあったのだが、色々着て試しているようだ。 「おまたせ、ダリル」 ようやく彼女達がダリルの前に現れたのは、ダリルの着替えが終わって30分が過ぎた時だった。 「どう、にあう? アレナがえらんでくれたの」 5歳児の姿をしたルカルカは、ローズピンクの幼児用ウェディングドレスを纏っていた。 「ん? アレナもダリルにみてもらって、ほら」 ルカルカは自分の真後ろにいたアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)を前に引っ張り出した。 アレナはネイビーブル−の幼児用ゲストドレスを纏っていた。 明るい笑顔を浮かべているルカルカも、恥ずかしげな顔のアレナも、とても可愛らしく、ダリルは思わず言葉を忘れて見入っていた。 「……ダリル、かんそうは?」 ルカルカに尋ねられ、ダリルは軽く咳払いをした。 「にあってる……ぞ」 「あれ? ダリル、かおあかくない? ルカたちがかわいかったから、みほれてたでしょー」 「それはない」 きっぱりとダリルは否定する。 「ルカはともかく、アレナがかわいくないと?」 「……あっ」 恥ずかしそうにしているアレナを、ルカルカは前に押し出した。 「それもない。ふたりとも、にあってて……かわいいとはおもう」 「ありがとうございます。ダリルさんも、かわいい、です」 「……あ、ありがとう」 「ふーん、アレナにはすなおにおれい、いうんだー。ダリルほんとかわいい、かわいいよー」 「おまえはいうな」 ダリルはルカルカをじろりと睨んだ。 「きちょうよねー、ダリルのちいさなころ、ルカしゃしんでもみたことないし」 「つくられたころからおとなのすがただったから、ようじじだいというのがなかったんだ」 「なんだかもったなーい」 「もったいなくない」 「ふふ……」 ルカルカとダリルのやりとりを、アレナはにこにこ楽しそうに見守っていた。 「さ、いくぞ」 ダリルは2人を連れて撮影室に向う。カメラマンも首を長くして待っているはずだ。 「こんなポーズどう?」 えいっと、ルカルカはカメラの前で、グラビアモデルのようなセクシーなポーズを決めた。 「ちょっと自然じゃないねー」 カメラマンにそう言われてしまった。 「それじゃ、こんなのは? あとは、てんじょうから、ロープをさげてくれたら、つかまってターザンみたいに」 「いやいや、そういうしゃしんはいらないだろ」 ダリルにつっこまれて、ルカルカはうーんと考え込む。 「はいいいよ、こっちのレンズみてねー」 対してアレナは、渡された花束を手に、恥ずかしそうに微笑んでいるだけだったが、何枚も写真を撮られていた。 「アレナをみならってみようかな。こう?」 ルカルカはやや横向きで、顔だけカメラに向けてみる。 「うん、いいよー」 「ふふ、それじゃ、はなむこ、まんなかでどうかな?」 「おい……」 袖にいたダリルを引っ張って、ルカルカは強引に真ん中に立たせた。 「りょーてにはなーっ♪ えーい」 そして花吹雪を空に撒いた。 「うん、可愛いよ。撮るよー」 やれやれと微笑するダリル、照れくさそうに笑うアレナ、楽しそうな笑みを浮かべているルカルカを、カメラマンは可愛く綺麗に写真に収めた。 「なんどきても、ウエディングドレスはいいよね。ふだんはスカートはかないんだけど、こういうのはとくべつ」 撮影が終わった後、ルカルカはパーティ用ドレスに着替えていく。 スカートを穿かないのは嫌いだからではなく、動きにくく、足に傷もつきやすいからだ。 「そういえば、こんどデパートでバーゲンあるじゃん? いっしょにいかない?」 着替えながら、アレナを誘うとアレナは嬉しそうに頷いた。 「いくぞ」 パーティ用の服への着替えも、ダリルの方が早かった。 アレナは撮影の時に着ていた服のままだ。 なんでも、近々フィアンセと模擬結婚式をやるので、ウエディングドレスはその時着たいとか。 「はい、パーティ、いきましょう」 小さなアレナを見ながら、ダリルはアレナのウエディングドレス姿を思い浮かべる。 (一生懸命、幸せになってほしい) 「……?」 アレナが視線に気づいて、顔を上げた。……2人の目があった。 ダリルは口を開きかけたが、言う事は出来ず、ただアレナに微笑む。 (アレナの結婚式、俺はどこにいても祝いに駆けつけるよ) ダリルの視線に、アレナはまた少し恥ずかしそうに微笑み返した。 |
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