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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

リアクション

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 光に続き、窓から外に出たヴァルキリーのセラは屋敷に目を光らせる。
 怪盗が現れた部屋の位置から、幾つかの出入り口、窓に目星をつける。
「うわっ。外に逃げたぞ、捕まえろ!」
 突如あがった声に、屋敷のドアが1つ開いた。
 続いて、屋敷の中から悲鳴があがり、風が吹き抜ける。
「そこね!」
 上空から、セラは開かれたドアの上方へと飛ぶ。
 屋敷の中から現れた途端、怪盗は姿を露にした。
 彼女に気づいた怪盗は、くすりと笑みを浮かべて、2本指で敬礼をすると風を纏い、高速で空へと舞い上がる。
 その背には、光の翼が現れていた――。
 パシッ
 身体に当った弾により、怪盗の腕が弾かれた。
 木の枝の上で、フィルがアサルトカービンを構えている。
「最初の一弾だけですか……」
 続く弾は怪盗の風を操る力により、軌道を変えられてしまい怪盗に命中はしない。
 また、風の攻撃により体勢を崩したフィルは木にしがみ付かざるを得なく、それ以上銃を撃つことは出来なかった。
 ――だが。
「一弾であれ、命中させることはできました。実弾であれば、撃ち落とせたかもしれませんが……」
 フィルは上空へ飛んでいく怪盗を見ながら、複雑な思いを抱く。
 自分も、実弾を使わなかったが、怪盗の方も、もっと強い風を起こせば自分を木から落とすことが出来ただろう。

「待ちなさい!」
「お嬢様っ、危険ですわ!」
 地球人の神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は、パートナーでヴァルキリーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)の制止も聞かず、柵から身を乗り出した。
 2人は舞士が飛行できる種族と聞いていたため、屋上で警備に当っていた。
「覚悟しなさい――っ」
 有栖は、バーストダッシュを発動して柵を越える。
 ホーリーメイスを振り下ろすも、怪盗に軽く避けられてしまう。
「あっ……!」
 有栖は当然体勢を崩して落下していく。
「きゃああっ」
 悲鳴を上げる有栖の腕が力強く掴まれた。
 有栖の腕を掴んだのは、逞しい男性の手――怪盗の手であった。
「おてんばは程ほどにね」
 耳元で囁かれウエストに手が回される。後から抱きしめられるような格好で、有栖は屋上へと運ばれ下ろされた。
 ぺたんと座り込んで、有栖は呆然と、下降していく怪盗の後姿を見ていた。
「お嬢様っ、大丈夫ですか!? ――お嬢様?」
 駆け寄ったミルフィの声に、呆然とした顔を向ける。
「お嬢様、無謀です。何故あのような危険な事を!」
「え、あ……うん……」
 上の空で答えながら、有栖は怪盗の背を追い続けた。
 背中に感じた身体は、確かに男性のものだった。若干痩身だが、引き締まった男性らしい身体つきだ。
 自分は落ちても命を落とすことはなかっただろう。ミルフィや有翼種の仲間も沢山いるのだから。
(……怪盗舞士さんって、一体……?)

「盗まれたのは高価な万年筆だそうですよ、マスター」
 桐生 円(きりゅう・まどか)が現れ、屋上で騒ぎを観賞しているオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)に語りかけた。
「ふふ……面白い怪盗さん」
 オリヴィアは低空で飛び回る怪盗を笑みを浮かべて眺めていた。
「そこか――!」
 アルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)は、小型飛空艇を操り上空からカラーボールを投げつける。
 低空を飛行していた怪盗は、巧みに避けていくものの、地面に落ちて飛び散った液体が僅かに身体にかかっていく。
「夜間の運転は気をつけて、綺麗なお嬢さん」
「!?」
 陽気な声と共に、下方から強風が湧きあがる。アルフレートはバランスを崩し、飛空艇の制御に集中せざるを得なくなる。
「待て怪盗ー!」
 すちゃっと取り出したお面を装備して、教導団の神代 正義(かみしろ・まさよし)が躍り出る。
 怪盗は、少女向けヒロインアニメのお面を被った正義に怪訝そうに動きを止める。
「光の使者! パラキュアブラック!」
「ひっ光の使者! パラキュアホワイト……!」
 パートナーの大神 愛(おおかみ・あい)も、少しおどおどしながらも、お面を被って声を上げる。
「二人はパラキュア!!」
「二人はパラキュア!!」
 同時に2人は声を上げた。
「……出店で買ったの? 似合ってるよ、女の子の方だけだけどね」
 怪盗は声を上げて笑いながら、高度を上げた。
「逃がすか!」
 正義は、爆炎波を怪盗の足に向けて放つ。
 しかし、怪盗から発せられた風により、爆炎が自分達の方へ押し寄せる。
「炎の攻撃は危険です」
 パラキュアホワイトが、後方に下がりながら声を上げて、パラキュアブラックに、ヒールをかける。
「お前は、何の為にこのような真似をしてる!」
 空に向かい、剣を繰り出しながらブラックが問う。
「……キミ達がこうして遊んでくれるから、かな」
 笑い声を上げながら、怪盗はブラック――正義の攻撃が届かない上空へと飛んでいった。

 バシャッ
 屋上から當間 零(とうま・れい)が投げた水風船が怪盗の腕に命中する。下方に気を取られて反応が遅れたようだ。
 液体は蛍光塗料と香水を混ぜあわせたものだ。
 怪盗の右腕が緑色に光り、香水の匂いが立ち込める。
「待て! アンタの手口は大体わかった。……はず。あたしにはさっぱりだけどさ。その格好じゃ逃げられないないだろ! 素直に投降しろ!」
 パラ実の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)が、屋上の手すりの上にどーんと立ち、下げた親指を怪盗に向ける。
 怪盗は突如動きを止める。
「隙アリッ!」
 魅世瑠のパートナーのフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は、光条兵器――目から放つ光で、怪盗に一撃を食らわす。
 狙ったのはマスク。出来れば顔に刻印を刻みたかったところだが、その余裕はないようだ。
 フローレンスの攻撃を瞬時に避けた怪盗だが、攻撃はマスクを掠めてその一部が地上へと落ちた。
 怪盗は方向を変えると何も言わずに、高速で屋敷から離れていく。
「……無視とはいい度胸じゃねぇか、コノヤロー!!」
 魅世瑠は騒ぐが、怪盗は振り向きもしなかった。実に、彼女は今、怪盗よりインパクトがあり目立つ格好をしている。
 借り物の動き難い服は、脱いでしまった。
 そう、彼女は美しい肌を惜しみも無くさらけ出している。光条兵器に照らされながら。
 ……全裸に背嚢だけの魅世瑠の姿に、さすがの怪盗も臆したようだ。
「怪盗舞士グライエール……」
 百合園女学院の奈留島 琉那(なるしま・るな)は、走って怪盗の姿を追いながら呟く。
「突然現れて、目的の物を皆の前で堂々と奪い――夜空に舞い出て踊り、風の中に消えていく。嘲笑とも思える笑みを浮かべていますが……」
 琉那は立ち止まる。
 高速で移動していいた怪盗はどこからか取り出したマントを広げると、その中に包み込まれ、風に溶けるかのように姿を消していた。
「何故か、少し余裕がないように見たのは、気のせいでしょうか」
「ばっちり撮りましたよー」
 頭上からの声に、琉那は振り向いた。
 民家の屋根の上に、百合園女学院の生徒である桜月 綾乃(さくらづき・あやの)の姿がある。
 彼女はビデオカメラを空へと向けていた。
「走って追跡は無理そうだし、もどろっか」
 声をかけてきた彼女に「そうですね」と頷いて、琉那は、屋根から下りようとする綾乃に手を貸すことにした。