First Previous |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
Next Last
リアクション
しかし、その救護所にも、『黒面』の影が迫る。
「ここは怪我人を治療する所だと言っても、テロリストに通用するわけはないか」
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)はハンドガンをホルスターから抜いた。
「クレアさん!」
一緒に治療にあたっていたネージュが思わず腰を浮かす。
「ネージュは、ここで治療していてくれ」
「……ハンスさん」
ネージュはクレアのパートナーである守護天使のハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)を見た。
「大丈夫、わたくしもクレア様と一緒に行きますから」
「わかりました。でも、無茶はしちゃダメですよ?」
ネージュも白い耳を揺らしてうなずく。クレアとハンスはテントを飛び出した。負傷者を運んで来た、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)のパートナーレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)の背後に、黒い影が迫っている。クレアはハンドガンを構え、引金を引いた。黒い影が弾丸を避ける、その動きでスピードが落ちた。
「手伝います!」
ハンスはレジーナに手を貸す。クレアは二人を追うように、『黒面』に背を向けた。『黒面』の手から投げナイフが放たれる。次の瞬間、銃声と共に、クレアは地面にくずおれた。そして、『黒面』も肩を押さえてうずくまる。
「クレアさん!?」
レジーナが悲鳴を上げる。
「すみません、少しこの方をお願いします」
ハンスは運んでいた負傷者をレジーナに任せ、クレアにではなく『黒面』に駆け寄ろうとした。だが、それより早く、『黒面』は立ち上がり、救護所のテントに向かって駆け出した。
「仕留め損ねたか……慣れないことをするものではないな……」
後ろ向きのまま、自分の脇腹を貫いて銃を撃ったクレアは、傷を押さえて苦笑した。
「すみません、わたくしも捕まえ損ねました」
すまなそうに言いながら、ハンスがクレアの止血をする。
一方、救護所のテントに向かった『黒面』は、立ち止まってテントの中を見回し、つかつかとネージュに近寄った。
「なっ、何ですか!?」
ネージュは気丈に『黒面』を睨み上げる。
『おい、怪我の手当てを……お前は』
『黒面』の唇から、空気の漏れるような、かすかな声がした。
「声が……出ないの?」
ネージュは目を瞬かせた。その時、
「何をしてるんだ、ぼんやりするな!」」
マナを救護所に運んで来たベアが、グレートソードで背後から『黒面』を斬った。
「……死んじゃだめっ!」
倒れた『黒面』に向かってネージュが叫ぶ。その首から血がほとばしった。ハンスが慌てて『黒面』を抱え起こしたが、『黒面』は既に息絶えていた。その手から、血まみれの短刀が転がり落ちた。
「自分で、首をかき切った……?」
血塗られた剣を手に、ベアは『黒面』を見下ろした。背中の傷は確かに大きいが、すぐに治癒すれば一命は取りとめたかも知れない。しかし、『黒面』は自ら死を選んだ。
ネージュは首を横に振り、唇を噛んで、『黒面』のそばに座り込んだ。
「どうして、自分から……?」
「捕まるくらいなら命を断つように命じられているのか、あるいは洗脳されているのかも知れません」
ハンスは『黒面』の傍らに跪いて頭を垂れると、ネージュの手を取って立ち上がらせた。
「ぼうっとしている暇はありませんよ。考えるのも悲しむのも、やるべきことをやってからです。……その方をこちらに」
負傷者を運んできたレジーナに、ハンスは言った。
「クレアさんも、手当てしなきゃ!」
ネージュは弾かれたようにクレアを振り返った。
「止血はしてあるから、そちらの女子を先に診てあげてくれたまえ」
クレアはまだ痛そうに顔をしかめ、わき腹を押さえながら、簡易寝台に横たえられたマナを顎で示す。
「……はいっ」
ネージュはうなずき、顔面を血で染めたマナに駆け寄った。
First Previous |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
Next Last