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リアクション
教導団と他校生の間にある、高い壁。
未沙が感じたのと同じような壁を、教導団の生徒の中にも感じている者たちがいた。イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)と水渡 雫(みなと・しずく)である。
発端は、雫が義勇隊と一緒に食事をして、その間にコミュニケーションを取りたい、と林偉に許可を求めたことだった。
「先日、教官は私に『敵の敵は味方ではない』とおっしゃいました。そして、確かにそれは真実でした。私の考えが甘かったことは認めます。ですが、私はどうせ強くなるなら、彼らに剣を向けられるようにではなく、背を向けて戦えるような強さが欲しいんです。いざと言う時に他校生と連携を取るためには、一言二言でもいいから言葉を交わしておく必要があると思います。そのために、まず一緒に食事をしたいのですが」
「水渡雫が人質にならないよう、我輩が責任を持って付き添いましょう」
パートナーの吸血鬼ローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)が口添えをする。
「お前も一緒に人質になったらどうするんだ? 一人が二人になったところで、それ以上の人数でかかられたら二人一緒に人質、という可能性はあるぞ。ましてや、輸送隊が本校に向かったおかげで、教導団の生徒の人数は少なくなってるのに対して、義勇隊はあれから更に志願者が来て人数が増えてるんだ。複数で口裏をあわせて何か企んでいる奴が居たらどうする」
林はローランドに訪ねた。
「それは……」
ローランドは答えられない。
「でもっ、接してみなくては、信用できるかどうかすらわからないのでは……」
雫は食い下がったが、林は首を縦には振らなかった。
「お前の気持ちは判らんではない。俺も、義勇隊に集まった他校生が皆信用出来ないと決め付けてるわけじゃないさ。ただ、今は大人しくして、こちらを信用させてから何かをやらかそうとする人間が紛れていないとは限らないだろう。俺には、教官として教導団の生徒を不用意に危険に晒さないという義務がある。戦場に立つ以上危険はあるが、地雷が埋まっていそうな場所に、必要性が感じられないのに突っ込もうとする奴が居たら止めざるを得ない。信用できるかどうかは、直接接触しなくても、行動から判断できるだろう」
「お言葉を返すようですが、必要性が感じられないということはないと思います」
雫と林の会話を聞いていたイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が口を挟んだ。
「義勇隊も我々も、同じく鏖殺寺院を敵として戦っています。生徒間で対立することは、敵を利するだけです」
「水渡に言ったことの繰り返しになるが、『敵の敵は必ずしも味方ではない』ことを、まず認識しろ」
林は厳しい表情でイレブンを見た。
「俺は他校生と対立しろとは言っていない。向こうが信用できるかどうかわからないうちは、過度に馴れ合わず距離を置け、と言っているんだ。使える場面で使うのはいい。協力してやるのもいいだろう。だが、義勇隊が裏切らないことを前提に、全面的に信用しようとするのは止めろ」
「義勇隊の中には、他の場所で個人的に親しくなって、信用出来ると思える者も居ます。それに、彼らが、教導団を『戦友』と考えてくれれば、裏切ることもないと思うのですが……」
「一つの場面では同じ目的を持って協力出来ても、別の場面では利害が対立するのは良くある話だ。それに、他校生が教導団を『戦友』と考えてくれればと言うのは、それこそ、俺たちからの働きかけだけで出来るものではないだろう。これはあくまでも仮定の話で、今現在義勇隊にそういう人間が居るという話ではないが……最初から教導団に悪意を持っている者、あるいは、悪意はなくても、結果的に教導団に不利益となるような目的のために義勇団に志願する者が居たとしたら? かれらが、我々を『戦友』と認識することがあるだろうか? また、そういった連中に我々を『戦友』と認識させ、裏切らないようにするためにはどうしたらいい?」
林の厳しい言葉に、イレブンは口を噤んだ。
「義勇隊の中に、教導団にとって『戦友』たりえない他校生が居る可能性は、まだ否定出来ない。そして、義勇隊に志願した他校生が我々にとって『戦友』たりうるかどうかは、結局のところ、かれらの行動を我々が評価して判断するしかない。それにはまだ時間が必要だ」
林の言葉に、雫とイレブンは反論することが出来なかった。
「我輩の口添え程度では、やはり説得出来なかったか」
肩を落として戻って行く雫を見て、ローランドは淡々と、どこか面白がっているような口調で言った。
「……まあ、若いから悩むのだろうし、我輩は積極的に解決に動くつもりはないが」
「て言うか、これはお嬢さんの問題だもんな。割り切れずに迷ったまま戦って、万一のことがあっても困るけど、基本はお嬢さんが考えて答えを出すべきことだよ」
雫の周囲から『悪い虫』を排除するのが自分の仕事だと考えていて、雫については来たものの話には加わらなかったシャンバラ人のディー・ミナト(でぃー・みなと)が言った。
「しかし、戦争ってこんな面倒なモンだったんだなぁ。悪い虫をぶちのめす時みたいに、息の根止めて終わりでいいのかと思ってた」
「そうだな、そこが面白いとも言える。……傍から見ている分にはな」
ローランドは相変わらず淡々としていたが、ディーはふと思った。『雫と同じ教導団の生徒である自分たちが、果たしてどこまで傍観者でいることを許されるのだろうか』と。
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