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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』
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第2章 試練へ
「キミが後生大事に抱えてる秘密って、一体何なの?」
「それはこの災厄に関わっているのでしょう?」
「全く、しつこいわね」
 ≪封印の書≫を抱えたキアは、詰め寄るあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)に根負けしたように溜息をついた。
「……いいわ。あんた達が知りたい事があるかどうかは分からない。でも、もし真実の断片を求めるなら、挑んでみる?」
「私は……成り行きとはいえ、この災厄を巡る事件に関わってきました。この事態を収める手段が見つかるなら、挑みます」
 ガートルードが静かに言い、筐子もしっかりと頷いた。
 その眼前。
 ふわりと、本が床に舞い降りる。
 開かれたページには何も無かった。
 そこに在ったのはただ、本の形に繰り抜かれた白き空間。
「シャンバラの為に全てを投げ打つ覚悟があるのなら、トラップも他の挑戦者も蹴散らして、最深部までたどり着く自信があるのならば」
 キアの挑発的とも思える言葉。
「……」
 真っ先に飛び込んだのは樹月 刀真(きづき・とうま)だった。
 唇を引き結び、無言で身を躍らせる。
「刀真の眼、血の色してた……」
 後を追おうとした漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の足は、その意思に反して動かなかった。
 刀真が白花に無理をさせた事で落ち込んでいる事には、気付いていた。
 それを案じてもいた。
 だが、今の刀真は、真っすぐに突き進む刀真には、ついていけないような気がして。
「下手に追うよりは……私はここで待ってるよ。……どうか無事に帰ってきて」
「兎に角その最下層につけばいいんだろ? どんな事が分かるのか楽しみだ」
 続いてニヤリと不敵に答えたのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だった。
 何故試練に挑むのか?
「そりゃそこに試練と名のつくものがあるからだぜ」
 言って、その巨躯を軽やかに踊らせる。
 白き空間、本の『中』へと。
 本は瞬く間に巨漢をのみ込み。
「そして、選択する勇気があるのならば……」
 ポツリと祈るように呟くキアに、ガートルードは頷きラルクの後に続くべく、図書館の床を蹴り。
「あるわ。シャンバラの平和と学園の未来は、ワタシに任せときなさい」
 筐子もまたアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)と共に、本へと飛び込んだのだった。

「よっと……っとと、へーここが本の中なのか。何か信じられねぇな。どういう仕掛けなんだか……」
 白い空間に降り立ったラルクは周囲を見回した。
 降り立った、といっても足元に地面があるわけではない。
 見る者がいれば、白い空間に浮いているといった風ただろう。
「っとそんな事はどうでもいっか。とりあえず、試練って言ってたよな。シャンバラの為に全てを投げ出せるかどうかはわからんが……とりあえず最下層まで行ってみねぇとな!」
 周囲を警戒しつつ、進む。
 いつしか歩く道は白い通路へと変じていた。
「おっと、音がおかしい……あ〜、ここに仕掛けがあるな」
 前を通るとトラップが発動する仕組みだ。
 矢が飛んでくるか、何か落ちてくるか。
「槍かよ!」
 解除しつつ突っ込んでから、ラルフは気付いた。
 何ものかの気配に。
「こりゃまたやり辛そうなお客さんだぜ」
 ゆらゆらと揺らめく、人型の影。
 射撃はそれをゆっくりと貫通する。
「手ごたえはないわけじゃないか……いいぜ、存分に躍らせてやる」
 言って、間合いを取りつつ銃を連射する。
「へ! 流石だな。いいな! こういうスリルは!!」
 頭・胴体・足……少しずつ削り取りながら、ラルクは獰猛に笑った。

「シャンバラ古王国の過去に触れる機会か……悪くねぇな」
「アレクセイさん、待って下さい!」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、言うなり飛び込むアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)の後を慌てて追った。
「きゃ……あぁぁぁぁぁ〜!」
 一瞬の浮遊感と落下感。
(「アレクさん、一人で行かないで下さい」)
 伸ばした手は虚しく、空をつかんだ。
「試練だの相手を蹴落とせだの、物騒な事だな。ま、相応のリスクが伴うって事か……やってやろうじゃねぇか」
 白い空間に立ち、不敵に笑むアレクセイ。
 見据える先には案の定、見知った顔たちがあった。
「はん、本家の連中か……分家の俺を小物だと思って見下しているんだろうが、そう簡単にやられはしねぇよ」
 悪辣な連中……これが幻だと分かっていても、嫌悪感・反発心は消せなかった。
「俺様だって成長してる……ユーキの奴と共に少しずつだが、確実に力は付けてるんだ」
 手に宿る炎をぶちかましつつ。
「数が多すぎだろ……だがな、シャンバラ古王国の過去がどんな物が見極める為にも、絶対に屈する訳にはいかねぇ!」
 アレクセイは吠えた。
「アレクさん?」
 一方の優希はアレクセイの姿を求めさ迷っていた。
 見渡す限りの白い空間。探し人の姿はどこにもなく。
 こみ上げる、不安。
「……アレクさん?……そんな、まさか」
 人影に気付きホッとした優希はしかし、顔色を変えた。
「お父様……お母様……」
「探しましたよ、優希。さぁ帰りましょう」
「一緒に来るんだ」
 記憶そのものの両親に、知らず一歩後ずさる。
「どうしたんだ?」
「優希は良い子でしょ? お父様に逆らったりしないですわよね?」
 表面上は優しい。けれど、有無を言わさぬそれらは、優希が逆らわない……自分の意思を持っていると認めてくれていないからこそだ。
「でも、私はここでまだやる事があって……帰る事は出来ませ……」
「まぁ! こんなに貴女を愛してる私達に逆らうというのですか?!」
「我々を悲しませて……何て悪い子なんだ」
 頭ごなしにに言われ、身がすくんだ。
 小さな頃から刻み込まれてきた、両親に逆らってはいけないと。
 両親の言う事に従順に従っていれば、それで良いのだと。
(「やっぱり私……」)
 萎縮し折れそうになる心に、アレクセイが浮かんだ。
「そうです……本当の意味で私の心が強くならないと、私自身を認めてくれたアレクさんに申し訳ないです。私は、アレクさんの事が好きですから……」
 とても怖い、両親に逆らうのは、その言葉を思いを否定するのは、とても勇気がいる事で。
 それでも、優希はアレクセイの手を取ったから。
 共に、在りたいから。
「お父様、お母様、今までありがとうございました。でも、私は……これからは私自身の意志で生きていきます。いつかちゃんと、本当のお二人にも伝えに行きますから」
 その時は本当の私を見て下さいね。
 そして、白い空間が砕けた。
「アレクさんっ!?」
 その向こうにビックリした顔の、傷だらけのアレクセイがいて。
 手を伸ばしながら優希はふと振り返った。
 消えゆく幻の両親はホンの少し寂しげに……それでも微笑んでくれていた気がした。


「何でこんな格好なんでしょうか?」
 自分の姿を見下ろし、支倉 遥(はせくら・はるか)は思わず首を傾げていた。
 気付いたら忍者の格好をしていたのだ。
「機関銃を持った忍者というのが面白いですな」
 妙にしみじみと観察するベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)は、金糸で刺繍された白いケープで司教といった装いである。
 但し、こちらも手には釘バット、といったいでたちだが。
「殿はさすがに似合いますな」
「ふむ、昔を思い出すぜ」
 確かに、侍大将然とした伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)は、堂々たるもの。
「なんか納得がいかんのぅ……」
 その横で不満げにもらしているのは御厨 縁(みくりや・えにし)
 巫女服姿はとてもよく馴染んでいる……それも当然。
 普段から巫女服を着用している縁にしてみれば、代り映えがしない事、甚だしい。
「どしたの、縁?」
 不服そうな声が聞こえたらしいサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)が、ぷるるん♪、とたわわな胸を揺らしながら振り向き。
 それがまた縁の不機嫌を助長させる。
「何故に、ビキニアーマーなのじゃ!」
「姉さま……羨ましい」
 縁のもう一人のパートナーであるシャチ・エクス・マシーナ(しゃち・えくすましーな)がその豊かな胸を見つめポツリと呟き。
「ん?……なにが?」
 褐色な肌とスタイルの良さでビキニアーマーをバッチリ着こなしたサラスは、縁やシャチの憧憬や嫉妬の視線に気付かず、「ん?」と小首を傾げた。
「縁は退魔師、サラスは戦士、シャチはその恰好だと狩人でしょうね」
 そんな仲間達を見回してから、遥は前方へと視線を向けた。
「これはアレですね、RPG的に進むしかありませんね」
 気がつくとそこは、10×10と思しき部屋だった。ご丁寧に前方と右側に扉が、左側には通路へと続く入口がある。
「ダンジョン探索じゃな」
「って、縁が一番前じゃダメでしょ」
「こういう場合は罠も想定して忍者な遥が行くべきでしょうな」
「む、姉者が言うならそうなのじゃろう。兄者、気をつけて下され」
「分かりました。ベアトリクスはマッピングを。フロアを踏破し、下への階段を見つけましょう」
 言って、遥達6人パーティーはダンジョンアタックを開始したのだった。
「……ゆくゆくは真っ裸でドラゴンの首を手刀で撥ねるような……そんな領域に達してみたい」
「いや、まっぱはやめてください」
 ポツリこぼれた呟きに、ベアトリクスは反射的に突っ込んでいた。

「試練ですか? ふむ……どんなものかしりませんが、私達に乗り越えられないものはありませんよね、ガートナ」
「ええ、勿論です」
 島村 幸(しまむら・さち)ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は信じて、本に飛び込んだ。
「ここが本の中ですか……あまり面白みがないですね」
 どこまでも広がる白い空間に、幸は少しガッカリした。
 けれど、そんな呑気なコメントを言っていられたのも、この時までだった。
「ん? 少し霧が出てきたようですね。視界が悪い……ガートナ?」
 渦巻く霧は瞬く間に視界を奪い。
 気がつくと幸は、さっきまで直ぐ傍にいたはずのガートナの姿を見失っていた。
「ガートナ? ガートナぁぁぁぁぁ!」
 必死に名を呼ぶが、答えは一向に返ってこにい。
 それが幸を焦らせた。
 やがて霧は現れた時と同じように唐突に晴れ。
 そして、幸は見た。
 緑の丘の上に建つ、白い小さな教会。
 その前で今まさに愛を誓おうとする白いウェディング姿の女性と、新郎にしか見えないガートナの姿を。
「!? 誰です? その女は…っ」
 勿論、幸が黙っているはずはなかった。
「はなれなさい! はなれなさっていってるでしょう!? この女狐!!」
 けれど、振り上げた手は他ならぬガートナに……愛するパートナーによって、阻まれた。
「やめないか! 私の恋人に何をするんだ! そもそも君は誰なんだ?」
「え……?」
 決して強い力ではなかった。なのに、ガンと殴られたかのように、頭がクラクラした。
 いつも愛しげな色を宿す青い瞳が、今は酷く冷たく幸を見下ろし。
 常ならば愛を囁く声が、今は酷く冷たく幸を拒絶する。
「ど、どうして? 私を愛してるっていってたでしょう? ずっと一緒だっていったじゃないですか!」
「知らないですな、君など見た事もありません」
 ガートナは言って幸に背を向けると、花嫁に愛しげに微笑み……儀式の続きを、誓いの口づけを贈ろうと身を屈め。
 プツリと、幸の中で何かが切れた。
「あはっあはははははははははは!!! 私と一緒に死にましょう♪」
 手に現れる、光条兵器。
 心のどこか、冷静な部分はこれは罠だと判断していた。
 けれど、止められない。
 愛するが故の、愛が強すぎるが故の、不安と恐怖。
 幸は壊れたように笑いながら、その切っ先をガートナに突き刺した。
(「動け、動きなさい!?」)
 一方、実はガートナはずっと意識が在った。というか、身体の自由は利かぬまま、意識だけはハッキリしていた。
 自分が……他ならぬ自分自身が幸を傷つけている、それに耐えきれず必死に抗おうと、身体のコントロールを取り戻そうともがいていた。
 果たして、願いは叶った。
 皮肉にも、幸に腹部を刺された痛み、流れ出る血によって、ガートナは自分を取り戻したのだから。
「……幸」
「あ……」
 血濡れた手にそっと重ねられる温もり。
 いつもの、愛しい愛しいと囁くような青い瞳を見つけ、幸の身体から力が抜けた。
「ああ……血が血がこんなに……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「泣かないでください、幸。君が謝るようなことは何もないのですぞ」
 泣きじゃくる幸を抱きしめるガートナは、心の底から思っていた。
 悪いのは幸ではなく、幸の心を傷つけた自分なのだと。
 だから抱きしめ、俯くその顔を上げさせ、その唇にそっと口付けた。
「愛しています、誰よりも何よりも君を愛しています」
「……ガートナ」
 いつか二人は元の場所……図書館に戻されていた。
 けれど、暫くはそれに気付く事無く、互いを確かめ合うように抱きしめ合っていたのだった。

「決めました、夜魅さんと白花さん、お嬢様方に尽くすのが詩穂の役割です」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はパートナーセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)アリーセ・リヒテンベルク(ありーせ・りひてんべるく)と共に、やってきた。
「災いと呼ばれ閉じ込められ、魂を御柱に拾われた女の子、かぁ……詩穂ちゃんはそんな二人を助けたいんだ?」
「はい、話を聞いて思ったんです。白花さんと夜魅さんが皆さんと一緒にいられるようにしてあげたい、って」
「そうですね。わたくしもその為に力を尽くしたいと思いますわ」
 アリーセとセルフィーナに「ありがとう」と微笑んだ顔が、剣呑な光を帯びた。
「あぁ、早速の歓迎ですね」
 わらわらわらわらと、鏖殺寺院の制服を着た者達が現れたのだ。
「これ、本のストーリーですから鏖殺寺院の皆様に御奉仕差し上げても構いませんよね」
 うふふ♪、と武器を構え楽しげな詩穂に、セルフィーナがこっそり溜め息をつく。
「いつもの癖が出ないと良いのですけど……」
 といっても、無駄なのだ。
「どうされたのですか、声が出てませんよ、ご主人様♪」
 サディスティックに敵をなぶる。
「こういう恥ずかしいのを皆に見られるのが好きなんですね、ふふふ。」
 服をはぎ取り、皮膚に赤い線を引いていく。
 戦闘に酔いながらも、どこか冷静な部分で考えつつ。
(「本の中の世界で何をしても現実世界に影響があるかわかりませんが、現実世界が変わる可能性があるなら……鏖殺寺院を倒します」)
 だが、敵は次から次へと湧いてくる。
「キリがありませんわね」
「うん。ここはアリーセちゃんとセルフィーナちゃんに任せて、詩穂ちゃんは先に行って!」
「でも……」
 敵を苛め足りない……そんな気持ちもちょっぴりあり、勿論二人を案じる気持ちもいっぱいで渋る詩穂の迷いを、アリーセが吹き飛ばした。
「白花ちゃんと夜魅ちゃんをしあわせにしてあげて!」
「……分かりました」
 信頼するパートナー達に託し駆けだす詩穂の足元が、不意に消えた。