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世界を滅ぼす方法(第5回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第5回/全6回)

リアクション

 
 
 空京へ向かうヒラニプラ鉄道の中で万全の準備を済ませ、辿り着いた直後から、レベッカ・ウォレスはパートナーのアリシアをサンドイッチマンにしてスパイクバイクの高部座席に座らせ、お馴染みの格好で空京の街中を走り回ったが、意外にも、空京では全くハルカ祖父、ジェイダイトの足取りが掴めなかった。
 あらかじめ、影野陽太とも連絡を取り合っていたのだが、空京の駅で張っていた陽太は、ジェイダイトが降りてくるところを見かけなかったのだ。
「どうもおかしいですね」
 アリシアが首を傾げる。ジェイダイトは、未だ空京にたどり付いていないのだろうか?
「でも何処で追い越すのヨ?」
 彼が鉄道で空京に来たのは間違い無いはずだ。
 そこへ、改めて駅を調べていた光臣翔一朗から連絡が入った。
「掴んだぜ! あのじいさん、列車から放り出されていやがった!」
「はあ!?」

 駅員に話を聞いたところによると、駅弁を山積みしていた老人に切符の拝見を願い出たところ、切符を持っていなかったらしい。
 失くしたのか購入しなかったのかは不明だが、駅弁で使い果たしたのか何処かに財布を落としたのか、その時点で所持金が全くなく、列車内で切符を買うこともできなかった為、慎んで途中下車をお願いした、らしい。
「……どうしてそう、想定外のことばっかするネ!!」
 ああもう! とレベッカはアリシアの髪をかきむしる。
「自分のっ! 悔しい時は自分の髪をかきむしってくださいっ」
 アリシアの抗議は勿論無視だ。
「……問題は、そこからおじいさんがどうやって空京に向かうかですよね……。
 というか、空京に来るのかな……?」
 陽太が言った。
 鉄道が空京行きだったから、レベッカ達は空京へ追ってきたわけだが、ジェイダイトのその先の目的地を既に知っている。
 彼はどういうルートでそこへ向かうのだろうか。
 どこかで網を張るか、それとも最初からセレスタインで捕まえることを前提に、探すよりもセレスタインへ向かうことを考えるか。
「……はあ、それ、残りの奴等と合流してから考えればいいけえ。
 とりあえずそれまで、じいさんが遅れて来ることを想定して捜索を続けようや」
「……そうネ」
 そう、これから来ないとは限らないのだ。待ち伏せて掴まえられれば願ったりだ。
「……そもそも、どうしておじいさんはセレスタインに向かっているのでしょう……?」
 陽太はぽつりと呟いた。


 そして、遅れてハルカ達も空京に到着した。
 連絡を受けて出迎える陽太達の前に、ハルカは元気に姿を現したが、正義やゲー達、男性陣にやや精彩が欠ける。
「……女のおしゃべりは、どうしてああも際限が無いんだ……」
 ぐったりとしながら呟いたゲーのセリフが全てを物語っていた。
 これまでの、馬車とは違う旅のシチュエイションに、女の子達はそれはもう、盛り上がったのだ。
 特に一見ハーレム状態だった正義の消耗はすさまじかった。
 しかし一方空京組は、やはり合流までにジェイダイトを発見することができず、陽太は、仲間達人数分購入していたお土産のバナナケーキを手に、ハルカに謝った。
「……ごめん。
 本当は、このお土産はオマケのはずだったんですけど」
 本当のお土産は勿論、ジェイダイト自身にするつもりでいたのだ。
 だが結局、見つけられなかった。
 けれど、美味しそうです! とハルカは大喜びでバナナケーキを受け取る。
「おじいちゃんは、みんなで一緒に見つけるのです。
 ケーキありがとなのです」
 もう勝手に行ったら駄目なのです。と、ハルカは笑った。

 やがて彼等の元に、五条武と樹月刀真より、飛空艇が入手できたという一報が入ってきた。
 空京を目指して飛行を開始したらしい。
 ソアによる、”渡し”についての情報も齎され、さてどちらを使ってセレスタインへ行くか、という話になった。
「便利で確実な方、と言いたいところだが、危険性はどっちもどっち、という感じだな」
 雪国ベアが肩を竦める。
「ハルカはどっちがいい?」
 お兄ちゃんに遠慮なく言ってみろ! とベアに言われるが、ハルカはうーんと考え込んだ。
「みんながいい方がいいのです」
 そんなわけで多数決の結果、牙竜、刀真と武を待って、飛空艇でセレスタインを目指すことと決まった。


 そして、コハク達を乗せた飛空艇が空京に到着する。
 結界の外、郊外の荒野に着陸した飛空艇から降りながら、
「やれやれ、振り出しに戻る、ですか」
と刀真は肩を竦めた。




 あちこちに散らばっている、飛空艇に乗ることを希望する者達が集まる時間を確保する為に、飛空艇は1日そこに留まり、翌日セレスタインに向けて出発することになった。
 出発時間までに飛空艇に来た者を乗せ、来なかった者は置いて、飛空艇は出発する。
 シャンテ・セレナードや閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、飛空艇に水や食料などの物資を積み込む為の作業に追われた。
 静麻が主に食料類を担当するというので、シャンテとリアンは、ヨハンセンに助言を仰ぎながら、飛空艇が何らかの破損をした時のための、補修の為の物資を仕入れることにした。
「結構多いな」
 リアンが、ヨハンセンに渡されたメモを見て呟く。
「どなたかに協力して貰う必要がありそうですね」
 無論、シャンテ達だけに仕事を任せるつもりもなく、他にも協力してくれる者はいたので、シャンテは彼等と作業を手分けすることにする。
 手伝います、とコハクも進み出たが、
「おまえは休んでいろ」
と、シャンテより先にリアンがばっさり切り捨てた。
 ヨハンセンは直ちにアウインを呼び寄せて、操縦補佐を任せる。
 ヨハンセンの無事を泣いて喜んだアウインは、何処にでも行きますよ! と意気込んだ。

「1日! 1日って少ねーよ!
 羽根伸ばす暇もねえっていうかナンパしてる暇もねえ! いやするが! がしかし! のんびりしてる時間もねえんだわかってる!」
 鈴木 周(すずき・しゅう)がわけの解らないことを喚いている間に、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、コハクを
「コハク準備終わった?
 セレスタインに行く前に、もっかい『ミスド』にドーナツ食べに行こうよ!」
 と誘い、周りの人達に断って、ミスドに繰り出した。
「体調は大丈夫なんですね?」
 念の為、橘 恭司(たちばな・きょうじ)がコハクに確認するが、良くは無いだろうが酷く悪い様子でもなかったので、頷くコハクを信用して行かせてやる。
 息抜きは大事だろう。
 しかし断って行ったとはいえ、無論美羽が頼りにならないとかいう次元の話ではなく心配なので、恭司も、パートナーのクレア・アルバート(くれあ・あるばーと)フィアナ・アルバート(ふぃあな・あるばーと)趙雲 子竜(ちょううん・しりゅう)と共に、気を遣って2人と多少の距離はあけつつ付いて行った。
 別に美羽達2人もこそこそしたいわけではないようで、疚しいことは互いにない。

「ね、この戦いが終わったら、コハクも蒼空学園に来ない?」
 ドーナツを選び、コハクにお勧めの紅茶を選んでやってテーブルについて、もう少しだね、と言った後で、美羽はそう言った。
 誘われて、コハクは面食らった顔をする。
 終わった後のことなんて、考えたこともなかった。
「……美羽が行ってるところ?」
「うんそう。楽しいこといっぱいあるよ。
 それに、私も一緒にいられるし……」
 辛くて悲しいことがあって、けれど今、コハクはあまりそれを表に出さずにいるが、それなら沢山、楽しいことを考えて欲しいな、と美羽は思った。
 明るい未来について、沢山話し合いたいな、と。
 後ろの席で、聞くでもなく2人の会話が聞こえている恭司に、ミルクティーのカップを手にしながら、クレアが
「本当に蒼空学園に入ってきたら、後輩になるわね」
と微笑ましく囁く。恭司は黙って肩を竦めた。
「……いいな。行ってみたい。
 ザンスカールとかキマクとは、違う感じなの?」
「違うよ〜! それにねー蒼空学園は町じゃなくて学校のことよ!
 あ、勿論ツァンダも色々案内してあげる!」
 だから楽しい話だけして、心の中で、アズライアの遺志を受け継ぐんだと改めて決意して、セレスタインに向かう飛空艇の中で食べようねとテイクアウトでドーナツを購入して、ささやかなデートは終わった。
「じゃ、また後でねー」
と別れ、美羽に手を振ったコハクの背後から、がばっと周が肩を組んできた。
「んで? ぶっちゃけ美羽とはどーなんだよ?」
「うわッ!!」
 突然の接触に驚いたのかセリフに驚いたのか、ビックウ! と面白い程に驚いて、激しい動悸と共に振り返る。
「し、周……? あの」
「おらおら、恥ずかしがらずに話してみろ。
 どうだ、この俺が女性の説き方の極意を教授してやるぜ。
 別にナンパに使えとは言わねえぜ?」
「いや、あの、別にそういうのじゃ、ないし……」
 真っ赤になって口篭るコハクに、周はけらけらと笑い出した。
「おまえほんとーに可愛いのな! マジで今度一緒にナンパ行こうぜ!
 お前みたいなタイプは割と需要があるんだぜ?」
 ばしばしとコハクの肩を叩いてそう言った後、
「……なあコハク」
と、少し周の口調が変わった。
「恋愛とかそういうんじゃなくていいけど。大事に思える人とか、作れよ?
 もういれば、いいんだけど」
 コハクにとってそうであったアズライアは、失ってしまったけれど。
「そしたらさ、世界とか、その人のついででいーんだぜ?」
 笑って、もう一度ぽんと肩を叩いて、
「つーわけでナンパ行こうか?」
と誘うと、コハクは慌ててふるふると首を横に振った。
 ちょん、とそんなコハクの前に、周のパートナー、レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が立つ。
 2人で話をさせろと言われたが、そろそろ助け船を出してあげないとコハクが可哀想だった。
「あのねコハクくん、あたし達も蒼空学園だよ。
 もしコハクくんが来たら、一緒に通えるね」
 そう言って微笑みかけると、レミは周を引きずって行った。


「コハク」
 パートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)と手分けして、積荷の準備に追われていた閃崎静麻は、一息ついたところでコハクの姿を見付け、声をかけた。
 呼ばれて歩み寄ったコハクに、気になっていたことを訊ねる。
「あんた、セレスタインで全てにケリをつけた後、どういう身の振り方をするのか考えているか?」
「え」
「アズライアが亡くなった今、セレスタインの”守り人”は、あんただろう」
「!」
 ぎょっとし、夢から醒めたような顔をして、コハクは目を見開いた。
「僕は……」
「いや、別に俺に答えろと言ってるんじゃない。
 セレスタインに着くまでには決めとけって話さ」
 静麻はコハクの言葉を遮った。
 その答えはコハクの中にあれば充分で、聞くつもりはなかったからだ。
「答えを決めたら、それに向かって足掻き続ければ、それでいい」
 そう言い残して、静麻は再び積荷の準備に戻る。
 コハクは呆然とそれを見送ったまま、少しの間、立ち尽くしていた。