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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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 とにかく、ハルカを助けなくては。
 ハルカの元に戻ったソアとベアが、ハルカに”核”を手渡した。
 しかしハルカは、どうしたらいいのか解らない顔で、それを見下ろしている。
 元はハルカだったそれも、今は全く別の存在になってしまった。
 扱い方が、ハルカには解らないのだ。
 そこへ。
「待って。その”核”は駄目だ。
 悪い心に染められて、穢れてしまっている」
 コハクが、ハルカの手から”核”を取り上げた。
「そんな」
 ソアは思わず声を漏らした。
 これでハルカを救えないというなら、どうすればいいのだろう。
「持ってて」
 と、リネンに”核”を手渡し、コハクはハルカに向き合った。


「僕と契約して、美羽」
 コハクは、美羽にそう言った。
「僕にも、君の力を貸して」
「――うん!」
 美羽は嬉しそうに笑う。
 直接的な、能力の付加だけの話ではなく、互いが互いの支えとなる為に。

 ハルカの相手は自分とは違う。
 何となくではあったが、コハクにはそう感じられた。
 だがそれは、ハルカを助けることを拒むものではない。
 むしろ、自分に契約を勧めてくれる人達、そして何とかハルカを引き止めようとする野々達を見て、コハクの意志は固まったのだ。
 美羽が『カゼ』に立ち向かって行く一方で、ハルカに向かって走り出すコハクに、邪霊達が襲いかかる。
 大して距離は離れていなかったはずなのに、気付けば間を邪霊達に阻まれる程度の距離があいてしまっていた。
 それらの邪霊から、コハクの脇をリネンや清泉 北都(いずみ・ほくと)とパートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)が固め、橘 恭司(たちばな・きょうじ)が背後からコハクを護る。
「道を、空けて!!」
 その先陣をきって、コハクが通る道を作る為に、ミルディアがハルバードを手に邪霊達に立ち向かった。
「全く、世界と心中なんてごめんよ!」
 毒づきながら、リネンのパートナー、ヘイリー・ウェイクが弓矢を放つ。
 武器を使う者や魔法らしきものを使ってくる者と攻撃は様々だったが、叩き壊された邪霊達は、土塊か石でできているかのように砕けて、崩れ、黒い地面に溶けてなくなる。
 コハクは、それを見てぎゅっと唇を噛み締めた。

 そうして、邪霊達の群れを突破して、コハクはハルカの元へ辿り付く。
 ハルカに手渡された”核”を取って、代わりに、ハルカの持つ”アケイシアの種”に、服の上から触れた。
「コハク、くん……」
 ハルカを抱きしめたまま、声を漏らした野々に、コハクは小さく笑う。
「僕は、この子をよく知らない。
 だからあなた達が願って」


 ハルカの胸元が、まばゆい輝きを放った。
 ハルカは呆然と、”アケイシアの種”があるはずのそこを見つめ、コハクの表情は苦痛に歪む。
 ビシ、と、激痛と共に、背中に亀裂が走るような音を聞いたような気がした。
 その事態に眉を寄せ、サルファが強引にハルカに近づこうとする。
「させるかあッ!!」
 シャンバランが、全身でそれを阻み、組み合って倒れた。
 絶対に、行かせない。
「ハルカちゃんは、護ってみせる!!」
 シャンバランは吠えた。

 ――セレスタインの守り人はお前だ、と、閃崎静麻はコハクに言った。
 ”守り人”は皆、そうである運命を自覚していて、コハクは一度も、自分がそうだと感じたことはない。
 けれど、もしもできるなら。
 ――できるなら、本当はコハクは、アズライアに生き返って欲しかった。
 だが、それを望んではいけないことも、アズライアが望まないであろうことも知っている。
(でも、アズライア。
 もしもこれが、間違ったことだとしても)
 一人の身勝手な欲望で、特別な人を甦らせようとするのは、自然の摂理に反することで、アズライアは自らの死を受け入れた。
 自分だけがそれに反し、生き返ることをアズライアは望まないだろう。
 けれどアズライアは抗ってもいいのだと言った。
 精一杯抗って、切り開いて行けと。
 この世界の一部として、望んでもいいはずだ。
 この少女の命を。
(だからアズライア……力を貸して……!)
 輝きは増し、コハクの苦痛も増す。
 制御できない力は、ただの力だ。
 どんなに強大な力でも、使いこなせなければ、無に等しい。
 守り人でもない自分にそれができるのか、コハクには解らなかったが、それでも、やらなければならないことだと思ったから。

 ぎゅっと腕を握る手を感じた。
「……大丈夫。……コハクになら、できる」
 半ば、自らに言い聞かせるように、リネンが言った。
 だから頑張って。
 背中がミシミシと上げる音は、北都の耳にも届いていて、北都は思わず、その背中に触れる。
「僕達もついてるよ。……大丈夫」
「頑張ってください、コハク」
 静麻と共に背後に立って、邪霊達からコハク達を守りながら、背を向けたままで橘恭司も言った。
 ここにいます、と。
 ミルディアは無言で、必死でコハクの肩にしがみついた。
 ああ、アズライアだけではない。
 皆も、一緒に、支えてくれている。
 途方にくれた表情で見上げるハルカに、びっしりと脂汗の浮かんだ顔で、微笑んだ。
「願って」

「しっかりせえや、ハルカ! 俺達のことを忘れる気か!」
 光臣翔一朗が叫んだ。
「ハルカさん! 死んでいたからって、それが何だというんです。
 今ここにいるハルカさんが、偽りだと言うんですか?
 違います! ハルカさんも、ここまでハルカさんと私達が過ごした日々も、全部、偽りのない、ほんとーのものです。
 だから……だからお願い、私達の側に、いてください」
 野々が必死に訴える。
「ハルカ!」
 正義やレベッカ達の、ハルカを呼ぶ叫び。
「ハルカ……ハルカ……!」
 漆髪月夜は、思いを込めて、ハルカの名を呼び続ける。
「ハルカ、消えては駄目だと言ったはずです!」
 陽太が。
 死を、受け入れてしまわないで。
 生きることを願って、と。
「……皆……」
 ハルカは呟き、ぎゅっと表情を歪めた。
「――ハルカは、皆と、一緒に、いたい」
 泣きそうな顔をして。
 ああ、あの時は、言えなかった。
「……助けて……!」
 爆発するような閃光が閃いた。


 その瞬間、翼が失われ、呪詛に覆われていたコハクの背中から、光が噴き出した。
 呪詛を弾き飛ばして、光の翼が現れたのだ。
 元から持っていた翼と同じ形の、しかし光翼種の、翼。

 ハルカから手を離し、力尽きたようにコハクが倒れ、光の翼も消える。
「コハク!」
 ミルディアが取り縋り、ユーベルが慌ててヒールをかけた。
 命には別状はないようだとみてほっとする。
「大丈夫ですわ」
 不安げにコハクを見るリネン達に、そう言って安心させた。

 そして、ハルカを抱きしめ続けていた野々の手の中には、今迄とは全く違った、確かな存在感。
 ハルカが、ここにいる。
「ハルカさん……! よかった!」
 それまで以上に強く、ぎゅっと抱きしめて、野々は涙を浮かべる。
 ずっと下ろされていたままだったハルカの手が、野々を抱きしめ返した。
「ありがとう、なのです」



 ハルカを復活させたことによって、ハルカの中に吸収されたのか、”アケイシアの種”は形を失った。
「もう、終わりにしろ! これ以上は全然意味がない!」
 葉月ショウが叫ぶ。
 奪うべき種はなくなった。
 サルファがハルカを狙う意味はなくなったのだ。
 だが、サルファは冷たくショウを睨みつけただけだった。
 説得は通じない。全く無意味なことでしかないのに、サルファは止まろうとしなかった。
 仕方がない。
 封印解凍を伴ったパーストダッシュでショウはライトブレードでサルファの足元を狙って斬り付ける。
 サルファは、己の負傷に全く構わず、強引にショウの手を取り、引っ張り上げて地面に投げつけた。
「うっ!」
 ものすごい力だ。抵抗もできずに、ショウはまともに地面に叩き付けられる。
「明智、周りの邪魔者は任せるヨ!」
 レベッカが叫んだ。
 狙いを、サルファに定める。
 足元を狙った、動きを止めるものではなく。
 そう、ハルカもサルファも、などというのは甘い考えだったのだ。
 ハルカを護る為には、確実にサルファを排除しなくてはならない。
精密射撃による一撃が、サルファの胸を弾いた。サルファがよろめく。
 そこへ更にもう一撃。そして更に。
 レベッカは精密射撃の連射を放ち、サルファは胸を押さえ、それでも前を睨み据えて、
「これで、最後だッ!!」
 そこへ、シャンバランが、渾身の力を込めて飛び込み、全身全霊を以って、ソニックブレードを放った。

 がく、と、ついにサルファが崩れ折れる。
 ずるりと滑るように倒れて、顔を上げようとするも、身体はもう、いうことを利かないようだった。

 ――名前は何だね。

 サルファは無表情のまま、動こうとする試みをやめた。
 自分はここで、終わりらしい。

 放置か廃棄かという失敗作に、名前など。
 答えずにいると、老人は、ふむ、と少し考えて、
 ではサルファ。これからよろしく頼む。
 と。

 首を回すこともできなかったので、その死体を確認できないことが、少し残念に思う自分自身が不思議だ。

 すまない。もう、無理のようです。

 サルファは目を閉じた。



 張り詰めた表情で戦いを見守っていたハルカ達のところに、回復も後回しにして、正義が戻ってきた。
 仮面はいつの間にか、外れてしまった。
「ただいま」
 じゃ、ヒーロー談議しようか、と。
「あー……今日のテーマは……そうだな!
 世界を救ってきたヒーローについて語ろうか!」
 ハルカは無言で、正義に抱き付く。
「え?」
 抱き付いて、ほろほろと泣き出したハルカに、あわあわと慌てて周囲を見渡し、助けを求めるように大神愛を見たが、愛は呆れたように、
「全く、色々相変わらずなんですから」
 と、苦笑するだけだった。