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神楽崎優子の挨拶回り

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神楽崎優子の挨拶回り

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「明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします」
 和服姿の神楽崎優子は、共に訪れたアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)ら、百合園生とともに、農家の主人とマリル、マリザに座礼で新年の挨拶をする。
「ええっと、おめでとう」
 農家の主人は少し困った顔でおろおろとしている。優しそうな印象の男性だった。
「寧ろ今年からよろしくね」
「宜しくお願いいたします」
 百合園生達の丁寧な姿にマリザ、マリルは微笑みを浮かべながら、ソファーに皆を招いた。
 テーブルを囲んで座ると、昆虫のような羽を生やした子供達が、トレーを持って現れ、皆に一生懸命茶を出していく。
 出し終わるとぺこりと頭を下げて、皆で顔をあわせて笑い合うとパタパタと部屋の隅に走っていった。
「あの子達の里親になって下さる方が、百合園女学院にもいましたら幸いなのですが……」
「あの……」
 マリルの言葉に真っ先に反応したのは百合園のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)だった。
「里親といいますかぁ、姉代わりとしてどなたかと一緒に生活できればと思っていますぅ」
 メイベルは真剣な瞳で、マリル、マリザに語りかける。
「百合園は男子禁制ですのでぇ、出来れば女の子と一緒に〜、学校で勉強をしたり、お昼を食べたり〜、部屋で他愛もない話をしたり〜。一緒に、姉妹のように接して、暮らしていけたらと思うんですぅ」
 メイベルは子供の頃、孤独な学校生活を送っていた。親のいない子供達に、同じような寂しい思いはさせたくないと思って、せめて1人だけでも自分が預かることができたら、と思ったのだ。
「わ、私も……!」
 百合園の神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)も、緊張で赤くなりながら手を上げた。
 有栖もまた、孤独な幼少期を送っていた。
 親のいない妖精達は、一見毎日友人達と楽しそうに過ごしているけれど……。
 本当は悲しみを抱えていることも。
 夜には寂しくて泣いている子がいることも、知っていた。
「一緒に料理したり、お菓子を作ったりしていたら……。特に気になる子が出来ました、ので」
 子供達は比較的仲が良かったが、大人しい子は皆についていけず、仲間はずれにされることもあった。
 そんな皆の輪から外れた妖精の子供に、孤独だった幼い頃の自分を重ねて、不憫に思い、愛しさも溢れて。
「1人でいることが多い子なんです。もっと、ゆっくり沢山お話をしてみたいと思いました。一対一でお話を聞いてあげれば、あの子にも話したいことがあると思うんです」
 有栖が頭を下げた。
「きちんと面倒を看ますから、お願いします……!」
 途端、頭の上に手が乗せられた。
「この2人は、百合園の生徒会メンバーとして立派に活動をしている生徒達です。私からも推薦させていただきます」
 有栖、それからメイベルの頭に手を乗せて、優子がマリル、マリザにそう言ったのだった。
「ありがとう。子供達が一緒に行きたいといったのなら、是非。お願いしたいわ」
 マリザがそう答えると、メイベルと有栖は「はい」と大きな声で返事をして、微笑みあった。
「ですが、みんなと離れるのが怖いという子供もいるかもしれないし、親が見つからないうちに二人が忙しくなるかもしれません」
 百合園のどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)が心配気な表情で話し始める。
「百合園の皆で、里親が見つからなかった子供達を預かる場所を作りたいです。子供を預かれる施設はなんとかして見つけます。あたしがそこで子供達をみますから」
「ここで、看てもらうわけにはいかないかな……」
 マリザが眉を寄せる。
「別の場所に施設を設けるよりは、イルミンスール魔法学校に預けるのがよろしいかと思います」
 そう提案をしたのは、教導団の比島 真紀(ひしま・まき)だ。
「問題を抱えているヴァイシャリーを除いて考えると、他の学校所在地と比べてヴァイシャリーからそれほど遠くなく、また環境としては妖精たちが住まう里とも似た環境だと思われます」
「そうだね、別荘が恋しくなったら、そんなに物凄く遠い訳じゃないから、遊びにだって来られるし……だけど、イルミンスールが預かる理由が思いつかない」
 イルミンスールのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が腕を組んだ。
「志願者が少ないようなら、イルミンスールへの子供たちの集団疎開も検討したらどうだ? やはり、イルミンスールなら自然環境も良く、子供たちも安心して暮らせそうだからな」
 芳樹も、イルミンスールに預けることに賛成だった。
「僕自身も、喜んで里親に志願させてもらうよ」
 そう言葉を続けると、妖精の姉妹は微笑みを見せながら頷き、だけれど表情をすぐに難しい表情へと戻す。
「ただ、ヴァイシャリーで探すにしても、イルミンスールでお世話になるにしても、私達には子供を預ける資金がありません。どりーむさんのご好意もとても嬉しいのですが、もし皆さんが一切の報酬を求めず、ボランティアで面倒を看てくださるとしても、私達には施設を借りるお金も、学校に入学させるお金もないのです。ですが、この場所は古い友人の子孫の方が設けて下さった場所であり、自立できるまで自由に施設を使ってもよいと言われてますし、食材の提供も受けることが出来ます。私達も子供達も農園のお手伝いをしていますから、自分達の生活分くらいの労働はここにいれば行なっていけるものと思います」
「どこにせよ学校が無償で受け入れてくれて、無償で生活費を提供してくれる……なんて都合のいいこと、ないだろうから」
 マリルの言葉にマリザが続けた。
「一緒に住める施設を作れればいいんですが、確かにヴァイシャリーで土地を確保して、建設して、人員を確保して……保育園のような場所を運営するのは、あたしの力だけでは無理ですね……」
 どりーむは悲しげに言った。事情を話せば百合園の校長は親身になって聞いてはくれると思うけれど、校長に資金提供は出来ないだろう。
 ヴァイシャリー家からそれほどのお金を出してもらうためには、心情的な交渉では無理だ。資金提供がヴァイシャリーにとってどんな利益があるのか、そういったことをきちんと示せないと、ヴァイシャリーで施設を任されることは難しいと、どりーむは気づいていく。
「せめて、出来る限りここで里親が見つからなかった子供達の面倒を看させてもらいます」
 どりーむがそう言うとマリル、マリザが頭を下げる。
「よろしくお願いいたします」
「助かるわ。子供達もあなたのこと好きみたいだから」
 こくり、とどりーむは頷いて、出来る限り頑張ろうと心に決めるのだった。
「でも、大きい子もいるし、どこかの学校に通わせてあげたいな」
 蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、子供達のこれからを案じていた。
「学校に通えばちゃんとした教育を受けられるし、同年代の友達がいっぱい出来ると思うから」
「学校といえば、神楽崎優子副団長の分校なら無料で通わせていただけそうではありますが……」
 蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)は考え込みながらそう発言をした。
「ちゃんとした現代の教育を受ける為には、パラ実より別の学校のほうがいいと思うの。蒼空学園に通わせることが出来たらいいのだけど……」
 美羽はマリル、マリザの方に目を向ける。
「実は私……ここに来たのはミルミさんの手伝いじゃなくて、宝探しが目的だったの。でも、いまは子供たちの笑顔という宝を見つけることができた。仲良くなった子、全員は無理だけれど……携帯で音楽を聞かせたら、凄く興味を持ってくれる子がいたんだ。その子を、預かりたいと思ってる」
 真剣な目で、美羽は言葉を続ける。
「私が責任もって、蒼空学園に通わせるから」
 パートナーと共に、長くこの別荘で働き、妖精達の面倒を看てきた美羽の言葉に、マリザが微笑みを浮かべる。
「ありがとう、宝って言ってくれて」
「お願いします」
 マリルが頭を下げ、マリザが美羽の肩をぽんと叩く。
「お願いするわね、美羽」
「うん!」
 美羽は決意を込めて強く頷いた。