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リアクション
序章 空京座
ぴーひゃらぴーひゃらどんどんどん。
祭囃子が鳴り響く中、獅子舞が舞っている。
ここは空京神社の末社、野添貴(やそぎ)神社の境内だ。
野添貴神社は本社から破門されたという噂さえある窓際神社であり、一説には日本庭園マニアの神主が若い女の子に入れ込んで無駄に巫女さんのバイトを大量に雇って経営破綻しているとも言われている。
そして今日もまた正月三が日をとうに過ぎたというのに大量募集していた。
境内には屋台が並んで、エル・ウィンド(える・うぃんど)のパートナーギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)は焼きそばを売っていた。
「お客さん。おかわり52回目ですよ。これが最後ですからね」
「ええっ。そんなに食べてましたか。そうですか……でも、わんこそばってもっと食べるものじゃないですか?」
誰でもわかることだが、焼きそばはわんこそばではない。
焼きそばを53杯たいらげた男は、行儀よく「ごちそうさま」すると立ち上がった。
「さてと……隊長はどこにいるのか、探しに行きますか。いや、その前に……」
買っておいた絵馬にサササッと願い事を書いて、木にぶらさげた。
『のぞき部絶対撲滅!……パンダ隊隊長の応援団、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)』
リュースが探しているパンダ隊隊長の恋人白波 理沙(しらなみ・りさ)は、境内の真ん中にどどーん! と腕を組んで立っていた。厳しい顔で周囲を見渡している。
「私に宿るパンダの本能が言ってる。このあたりに敵がいる……!」
しかし、周囲には子供たちと、目の前で獅子舞が舞っているだけだ。
と、獅子は唐突に理沙の頭をカプッと噛んだ。
「え?」
――獅子舞に頭を噛まれると福が来る、と言われている。
それを思い出した理沙は、されるがまま噛まれた。
「へへ。やったね。福きたる!」
獅子舞は、理沙の首にお札のついた輪っかを首飾りのようにぶら下げると、そのまま踊りながら去っていった。
「今年こそ、のぞき部のアフォどもを一掃できそうね。あ。リュース! また焼きそば食べてたの? もお! ……へへ。彼氏もできちゃったし、いいことありそう!」
大きな文字で『福来たる』と書かれたお札を見て、理沙はすっかり上機嫌だ。
が、何気なくお札を裏返した次の瞬間!
理沙の顔つきが変わった。
「ひっ」
リュースは初めて見る理沙の怒った顔にビビって、腰が抜けていた。
「あわわ……どうしたの?」
理沙は無言でお札の首飾りを引きちぎると、地面に叩きつけた。
「のぞき部ぅぅぅぅぅううううう! ぶっっつぶーーーーーーーーーす!!!!!」
『福来たる』の裏には、こう記されていた。
『のぞき部来たる』
獅子舞が境内を走って逃げながら頭をパカッと取ると、ツルピカッとした頭が顔をのぞかせた。
「にんにん! まずは宣戦布告。大成功でござるな」
のぞき部のツルピカ忍者、椿 薫(つばき・かおる)だ。
にかっ! と、キュートな笑顔がはじけた。
「さーて、ひとのぞきするでござるかっ!」
ツルピカ忍者は軽快に駆けていった。
ここで、一斉に拍手と歓声、派手な口笛がぴーぴーひゅーひゅーと鳴らされた。
「いいぞー!」
「よっ! のぞき部! 愛と正義の男たち!!!」
スクリーンに写されたツルピカ忍者の勇姿に、観客ののぞき部を応援するスケベたちが喝采を送っているのだ。
――ここは、空京にある映画館“空京座”である。
この作品は、空京国際ドキュメンタリー映画祭のオープニングを飾っていたのだ。
上映前には、スタッフによる舞台挨拶も行われていたので、まずはその様子を振り返ってみよう。
◇ ◇ ◇
ステージには、京都戦争で使われた超ハイテク盗撮防止カメラの後継機「チェリーバージン2号」を手に、志位 大地(しい・だいち)、出雲 阿国(いずもの・おくに)、九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)の3人が並んでいた。
チェリーバージン1号は、女性の身体を撮影すると自動制御装置が働いて“大事な部分”が写らないようになる特殊カメラだが、2号は改良されて“魂サーモメーター”がついている。これで、あつい部の魂温度を計ることができるというわけである。
撮影監督の大地がカメラの説明を終えると、観客に頭を下げる。
「申し訳ありません。ディレクターが風呂に入っていて来られないので我々撮影スタッフが登壇させていただいてますが、今回は資金集めのためにプロデューサーを立てまして、今フィルムを持ってこっちに向かってるはずなんですが……あ、来ました来ました」
急いでステージに上がったのは、忍のパートナーだ。
「遅れて申し訳ありませんでした。チーム『プロジェクトN』のプロデューサー、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)です」
大和は汗でずり落ちるメガネを何度も押えながら話し続ける。
「ディレクターが風呂ばかり入って仕事しないものですから、編集が間に合わなくて……ようやく、間に合いました。今回、舞台となった野添貴神社の皆様にはこの場を借りて感謝の意を――」
という真面目な挨拶は、ボルテージの上がった観客の声にかき消されていった。
「早く上映しろー!」
「てめーこのやろー! えろいんだろなー!?」
「まなみんの巫女姿見せろーっ!」
ここで、大和はメガネを外した。彼はメガネを外すと、冷徹なドS男になるのだ。
「映画を見たいのですか? ふっ。しかし、その前にこれだけは言わせていただこう。……我々は、のぞき部ではない。我々が追いかけたのは裸体ではない。ピンク映画ではないのです。我々が撮ったのは……ロマン! ただそれだけなのです」
そして、大地も再びマイクを握ると、メガネを外した。彼もメガネを外すと愉快犯的S男に変身してしまう。2人は、メガネ変身コンビなのだ。
「ふっ。観客の皆さん。そうは言っても、この映画……当然ギリギリのセクシーショットあり、お馴染みの性的興奮状態における倒錯シーンあり。大いに楽しめると思いますよ? ん? 見たいんですか? そうですか、見たいですか。どうしようかな〜」
ブーブーブー!
劇場はブーイングの嵐だ。
結局、調子に乗りすぎたメガネコンビはステージから下ろされてしまった。
劇場の外のロビーでは、のぞき部がくつろいでいた。
さすがはのぞき部、見たいのは映画よりも女体のようで、次ののぞき計画で盛り上がっていた。
ブザーが鳴り響き、劇場内は暗転した。
ドキュメンタリー映画『明日に向かってのぞけ!』が、いよいよはじまる。
スクリーンでは、まずCMが流れた。
1人の男が頭に何かをかぶって、くねくねとパントマイムのような動きをしている。
このCMは一昔前に地球の日本で流されていた映画の海賊版撲滅CMをパロったもののようだが、頭にかぶっているのはカメラではなく……パンティーだ。
CMを打っているのは、大和プロデューサーが見つけてきた出資会社の下着メーカー「トリンパラ」。
くねくね男の顔はパンティーで隠れているが、ズタボロの学ランには見覚えがある。
あっという間に正義のヒーロー“ケンリュウガー”に追いつめられると、パンティーが奪い返されて……男の顔が露わになった。
姫宮 和希(ひめみや・かずき)だ。
哀れ、のぞき番長。こんな屈辱のCMに出てまで金を稼ごうとするなんて、よっぽど金に困っていたのだろう。
そして、くねくねと泣き叫んでいる和希をバックに、ケンリュウガーがカメラ目線でカッコよく台詞を言う。
「NO MORE 下着泥棒」
まるでこの後に上映される映画の結末を暗示するかのようだ……。
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