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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

「えへへ……」
 シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)はクリスマスに渋井 誠治(しぶい・せいじ)からもらったお揃いのシルバーのペアリングをつけ、上機嫌でデートに向かった。
「よう、シャロ」
 誠治の方はそれに加えて、シャーロットから紅葉を見に行ったときに貰った、手編みのマフラーと手袋をつけていた。
「おまたせしました、誠治」
 ニコッと微笑んで、シャーロットは誠治と一緒に歩き出した。
 今日は特にどこかに行くという目的のあるデートではない。
 でも、一緒に歩くだけでも、2人はとても楽しかった。
 誠治がぎゅっと手を繋いでくれるのを、うれしく感じながら、シャーロットは彼の横を歩き、誠治も楽しそうなシャーロットを見て、デートに誘って良かったと思っていた。
「イルミンスールってたくさんの学科があるのですけれど、私のいるルーン学科は割と人数が多くて……」
 2人はそんな感じでお互いの学校のことや友達のことなどを話しながら歩いた。
「街は本当にバレンタイン一色だよな〜」
 さりげなーい感じのその誠治の言葉に、シャーロットはピクッとする。
 バレンタインである今日にデートに誘われたと言うことは、バレンタインのプレゼントをくださいという合図かなとシャーロットは思っていたのだが……。
 大正解で、誠治はチョコが貰えるのかな? と思っていた。
 それと同時に、誠治はこんな野望? を抱いていた。
(今回は、オレの本気を見せてやるぜ! ヘタレの汚名返上だ!)
 付き合って半年、そろそろ、本気を見せたい。
 クリスマスのときのような助けようとして唇が接触してしまった予想外の事故とかではなく、本気のチューをと思っていたのだ。
 そんなことを考える誠治の横顔を見つめながら、シャーロットもぼんやりと考えていた。
(こうやっていつどおりデートをしているのも楽しいけれど、その……クリスマスの時のキスは事故だったから、今度はちゃんと…………)
 そう考えたシャーロットだったが、途中で思考が停止してしまった。
「私からは無理……」
 ボソッと口から出てしまった言葉が、誠治の耳に入り、誠治がシャーロットの方を向いた。
「ん、何か言ったかシャロ」
「あ、い、いえ……」
 シャーロットは慌てて首を振った。
 それと同時に、2人の歩いていた近くの教会の鐘が鳴った。
「あ……」
「ん?」
 2人が見上げると、そこはバレンタインデーに開放されるという話のあった教会だった。
「こういう教会だったんですね。綺麗です」
 こじんまりとしたクリーム色だけれど、屋根の色や形が可愛く、ステンドグラスが素敵な教会だった。
「中、入ってみるか?」
 誠治に肩を押され、シャーロットは「はい」と喜んで中に入った。
 
 教会の中はバレンタインのために特別に飾り付けたのか、結婚式のときのように座席や台に花が飾られ、意外と華やかな感じになっていた。
「わあ、綺麗」
 シャーロットが喜んで中に入る。
「素敵ですね、誠治」
「あ、ああ」
 くるっと振り返ったシャーロットが可愛くて、誠治は思わず照れてしまった。
 そんな誠治を見て、シャーロットは忘れ物をしていたことに気づき、彼の前にあるものを差し出した。
「はい、誠治。ハッピーバレンタインです」
 シャーロットはミルクチョコとホワイトチョコの2種類が入ったハート型の一口チョコの詰め合わせを誠治に渡した。
 もちろん、ラーメンは入ってないし、毒も入ってない。
 ……毒なんてひどいこと書くなと、思われそうですが、シャーロットさん自信がそう自己申告されていたので一応。
「お、ありがとう、シャロ!」
 もらたらいいなあと思っていた誠治なので、可愛らしいハート型のチョコをもらい、素直に喜んだ。
 うれしそうな誠治を見ながら、シャーロットは頭の中で数分間迷い、誠治に手を伸ばして……ぎゅっと腕に抱きついた。
「え?」
 驚く誠治に、シャーロットは一瞬、誠治から離れかけたが、ここで離れちゃいけないと思い、がんばった。
「そ、その、せっかく教会なんで、歩いてみたいなって」
「歩く?」
「ウェディングドレスとか憧れるじゃないですか。1度は着てみたいんですけれどねー……」
「え、ええと、それは……」
 誠治はシャーロットの言葉に慌てた。
 それは、もしや……。
「え、い、いえ、結婚式って羨ましいなあとか、いつか私も……と思うだけで、あわわわわ……」
 どんどん墓穴を掘っている気がしたシャーロットだが、うまくごまかしどころが分からない。
 も、もう何が何やら分からない状況になり、シャーロットはひとまず謝った。
「ごめんなさい、いろいろと! でも一緒に居られるだけで幸せなので……!」
 腕の力を弱め、シャーロットが離れようとしたのに気づき、誠治は自分を鼓舞した。
(ここは男を見せるんだ、渋井誠治!!)
 誠治は離れようとしたシャーロットの腕を捕らえるように、少し自分の腕を引いた。
「え……?」
「あれだよな、教会に入るときみたいに歩いてみたいって事だよな、シャロ」
「は、はい。実際にはお父さんに手を引かれて入って、お婿さんにバトンタッチするのですが、ちょっとやってみたいなって」
「よし、それじゃ歩こうぜ」
 2人は赤いじゅうたんの上を教会の奥の方まで、一緒に歩くことにした。
 結婚式のようにゆっくりと歩きながら、誠治はシャーロットに言った。
「普段、シャロはなかなか自分のしたい事とかして欲しい事を言ってくれないから、こうやって、自分の意思を示してくれて、うれしいよ」
「誠治……」
 絨毯の最後まで辿り着き、二人は新郎新婦のように向かい合った。
 教会で自分たちの未来に思いを馳せたのは、シャーロットだけではない。
 誠治も「いつかはこんな綺麗な教会で結婚式を……」と自分たちの未来を思っていた。
 まだまだ先の話なんだけど。
 卒業後の予定とかまだ何もなくて、ちゃんと決めないとなのだけど。
 それでもいつか、と誠治も思っていたのだ。
「シャロ……」
 花嫁のブーケを取るかのように、誠治はシャーロットの横の髪を払ってあげて、そして、そのまま何か言葉を言おうかと迷ったが、うまく出ない言葉よりも、想いが伝わりますようにと祈って、誠治はシャーロットの唇にキスをした。
 光差す教会の中で、誠治とシャーロットの唇が重なり、シャーロットはゆっくりと目を閉じたのだった。