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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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 結婚式を終えた島村 幸(しまむら・さち)は新妻らしく、夫のガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)のために手料理を作ることにした。
 幸、初めての手料理だ。
「絶対に入って来ちゃ駄目ですよ、ガートナ」
 ハートのエプロンをつけて、ニコッと笑顔で、幸は厨房に入っていった。
 いやな予感しかしないガートナだったが、しばらくは大人しくすることにした。
「今日はバレンタインですからね。チョコ風味の何かを……」
 何か、という時点ですでに危ない気もするのだが、幸が参考に取り出したのは、パラ実ビジネス図書だった。
「『ヤルぜ、手料理!これで巨獣もイチコロYO☆』! この本どおりに調理すれば間違いないはずです。なにせマニア垂涎物の幻の本になったといわれるほどの本ですから、きっとすごいものが出来るでしょう」
 いろんな意味でヤれてしまうので、回収となり、幻の本になったそれなのだが、幸は何の迷いもない。
 迷いのないのがいいところなのだが……いや、この場合、多少迷ってくれた方がガートナには幸福かもしれないのだが……。
 幸はそんな不安も微塵もなく、歌いながら、鍋の中に色々と放り込んでいった。
「ふんふんふーん♪ 秘密スパイスはキメラの翼と芋虫の粘液にテロルちょこ〜♪ アリスの角の若返り効果で元気100倍♪ みかんの皮と愛(ハート)で隠し味♪」
 (※注意:ギャザリングへクスではありません)
 幸はさらなる材料を入れようとして、ふと、袋の中で何かが動いてるのに気づいた。
「ああっ、調理中に出てはいけません!」
 材料の袋からもぞもぞと虫っぽい何かが逃げようとしているのに気づき、幸は慌てる。
 だが、慌てると同時にざくっという音がした。
「ザクッ?」
 幸が見ると、幸の手が切れて流血していた。
「何をしているのですか、幸!」
 こっそりと覗いてみたガートナは幸の手から血が出ているのに気づき、慌てて厨房に駆け込んだ。
「ガートナ、入ってこないでって言ったではありませんか!」
「そんな場合ではないでしょう。ほら、手を貸して!」
 何よりもまずは幸が大事と、ガートナはヒールを連発して、包帯を巻きつける。
「せっかくの花嫁さんの身体に傷をつけて……」
 そして、幸の治療が終わると、ガートナは厨房の惨状に気づいた。
「なんですか、幸これは……。まな板が割れてるし、おまけにメスで切ってたのですか? あれ、鍋が何やら」
「ああっ、まだ煮てないのに、出てはいけません!」
 幸は鍋から逃げ出そうとした何かを蓋でぎゅうぎゅう押し込める。
 だが、鍋から煙が出ていたので、ガートナは慌てて火を止めさせた。
「もういいですよ、幸。気持ちだけで十分です」
「だ、大丈夫、一人でできます! できますってばーー!!」
 幸は食い下がったが、ガートナが手早く片付けてしまう。
 涙目になりながら、幸はガートナの様子を見つめた。
「……せっかく私一人でちゃんとできるところを見せたかったのに、のにーー」
 しくしくと嘆きながら……しかし、それであきらめる幸ではない。
 こっそりと片づけをするガートナを尻目に、もう一度作り直した。
「よしよし、と鍋から紫色の煙が出てきたところで火から降ろして完成と……よし、これでOKですね♪」
 幸は満足そうに緑色のスープをガートナによそってあげた。
「…………チョコ風味の何かを作るって言ってませんでしたっけ、幸」
「うふふふふふ……」
 ガートナの疑問はさておき、というように、幸がずーっとガートナを見つめる。
 無言のプレッシャーを感じたものの、これは新妻の手料理。
 幸の態度は無言の威圧とも取れなくないが、「食べて☆」という奥さんの可愛いおねだりと思えば……。
 ガートナはそう覚悟を決めて、冷や汗をかきながら、スプーンを口に運んだ。
「ね、ガートナ。おいしいですか? おいしいですか?」
 キラキラとした目で、幸がガートナを見つめ、ガートナはがんばって、笑顔を作ろうとした。
「そう……です……ね、さち………………お…………」
 そこまで言って、ガートナは白煙を出してばたっと倒れた。
「ガートナー!?」
 そのまま何とか伝えようとしたのか、愛用のYES・NO枕に手を伸ばし、弱々しくNOの面を掲げ……ガートナは撃沈した。
「……っ! ガートナ、ガートナ!! しっかりしてー!」
 事の重大さに気づいた幸が慌ててガートナを抱きかかえる。
「ご、ごめんなさい、ガートナ。今度はまたちゃんと頑張るから……結婚式の夜なのに、ごめんなさい……」
 幸は涙目になりながらガートナを膝枕して、看病するのだった。