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リアクション
第1章 春なのに
教導団第3師団は遂にここまで来た。前回、敵ワイフェン軍の補給物資集積所を撃破して敵を後退に追い込んだ。大軍が災いして食料を焼き払われたワイフェン軍は混乱し、潰走した。意気上がる第3師団ではあったが、敵は敵とて逃げる戦力をとりまとめ、必死の防衛に入った。ワイフェン軍にしてみれば国境線を死守すれば曲がりなりにも「ワイフェン軍がモン族領内で戦っている」という構図は維持されるため、第3師団が進めている諸部族同盟交渉に死活的な影響が出る。要するに「教導団と仲良くするとお得です!」というのが同盟の基本である。であるならば現在絶賛侵攻中のワイフェン族を追い払うくらいの実力がなければ、教導団の「売り」がないからだ。
そう言うわけで、交渉も大詰めに来つつある。ここらで一つの片をつけないといろいろまずい。
「準備は順調の様ね?」
第3師団長、和泉 詩織(いずみ しおり)少将は物資集積状況の報告書を見ていった。
「車両の配備第二弾が来ましたから、これでまた整備が進みます」
参謀長の志賀 正行(しが まさゆき)大佐が答えた。AFVとトラックがほぼ同数、合計で30台ほどが到着した。これでまた一個大隊分、機械化が進むこととなった。
「オーヴィル少尉の進めている馬車の生産も始まっています。配備を進めて師団全体が最低でも馬車の速度で移動できれば師団の戦闘力は飛躍的にアップします」
「馬車は歩兵連隊の方から配備したいって言ってたわね?」
「はい。第3歩兵連隊辺りから配備を進め、早急に自動車化歩兵連隊ならぬ『馬車化歩兵連隊』を作れればと考えています」
「歩兵連隊はシャンバラ兵が多いから、その方がいいかしらね」
「近いうちに、ワイフェン族も配備を始めると思います。その前に先手を打って配備を進めたいところです」
「ワイフェン族が……どうなのかしら?」
「私は、やると思います。ワイフェン族は決して馬鹿ではありません。こちらに敗れてもそこから自分たちなりに研究して手を打ってきています。私がワイフェン族なら、最優先は全軍の機動力強化です。もし、私が今、ワイフェン族の指揮官で『ビートル』十両と全軍馬車化のどちらかを選べと言われたら迷わず全軍馬車化を選びます」
「……互いに相手より速く……厳しいことになるわね。それはそうと、負傷者の交替は進んでいるのよね?」
「は、ほぼ完了し、一応の戦力は回復しています」
「機動歩兵連隊の様子はどうなのかしら?歩兵連隊は交替しているけど、機動歩兵連隊は連戦続きだわ。……出来れば後方で休養させてやりたいけど」
「気持ちはわかりますが、機動歩兵連隊は第3師団の背骨です。あれがないと第3師団はクラゲになっちゃいますよ?幸い、士気は高いです。今回の一戦で勝利すれば敵の侵攻はしばらく考えにくいと思います。そうなれば再編成が完了する第2歩兵連隊を警備に当て、皆でしばらく休養出来ると思います」
「そう……そうよね……仕方ないわ、後一回がんばってもらいましょう」
和泉は頷いた。
出撃準備をしている司令部にクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)がやってきた。
「安心薬?」
志賀は明太子を丸ごと飲み込んだような顔をした。
「はい。ほれ薬を元に改良しました。これを飲めば安心します」
「精神安定剤の様なものですか?」
「副作用はありません。いろいろ役に立つと思います」
そう言ってアリアはカプセルを取り出した。
「なるほど。で、これを?」
「はい、オーヴィル少尉が交渉に尽力していると聞き、協力できると思い。持参しました」
「で、これをどうするんですか?」
「同盟交渉に役立つかと。それで許可を頂きたく」
「ほう。許可ですか」
そう言って志賀は思いきりな笑顔になった。
「で、貴女はどっちなんです?」
「どっち、……とおっしゃいますと?」
「いえ、つまり、シャンバラの人たちと共存するのか、それともシャンバラの植民地化を狙っているのか?と言うことです。……共存しましょうと言うのであれば話になりません。私なら何であれ、交渉に薬を使用する相手は絶対に信用しません。この場合、ばれなきゃいいという考えは捨てた方がいいです。ばれた時に修復不可能になりますし、だいたいばれます」
「えーと……」
「シャンバラを植民地化しようと言うのであれば、許可を取ろうとする方が変ですよね?都合のいい部分だけつなぎ合わせた状況での判断は問題があります。どっちなのかきちんと決めてから出直してください」
状況は全体を見て判断しなければならない。都合のいい部分だけを見て判断するのでは道を誤るからだ。
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