リアクション
はばたき広場の時計塔にメニエス・レイン(めにえす・れいん)は立っていた。 〇 〇 〇 「ミルミちゃん……」 百合園女学院を出て、迎えの馬車に乗ろうとしたミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)は、知り合いの声に笑顔で振り向いた。 「あ……」 でも、その相手は……自分に嘘をついていた人だった。 自分ではなくて、ルリマーレン家のお嬢様に近づいてきた人。 その人物の名前は――。 「ミクルちゃん、どうしてここにいるの」 ミルミは笑顔を消して、尋ねた。 「ラズィーヤさんや生徒会の人に話して、もう少し百合園に通わせてもらうことにしたんだ」 以前とは違って、その人物、ミクル・フレイバディの声は少し、低い。 これが地声なのだろう。 「僕の性別のことは、沢山の人にバレちゃってると思うから……もう、隠すことはしないつもり。聞かれたら話すし、着替えとかの時は皆から離れるし……」 ミクルが説明している間、ミルミはいつもの笑顔を見せなかった。疑心に満ちた目でミクルを見ている。 「白百合団員として、皆に奉仕させてもらうつもりなんだ。沢山嘘をついていたお詫びとして」 「別に、謝んなくてもいいんじゃない」 ミルミは少し膨れ面で言う。 「百合園は男の娘の入学もナイショで認めている学院だっていうしね。嫌な人もいっぱいいるから虐められるかもしれないけどさ」 ちょっと冷たい言い方だった。 「うん。でも僕が、一番謝らなきゃいけないのは、ミルミちゃんなんだ。ミルミちゃんに近づいた理由は……もう知っているよね。ずっと仲良くしてもらって、ミルミちゃんのいいところも、僕は沢山知ってる。だから、ちゃんと謝らないとダメだって思ったんだ。もしかしたら、側でお詫びとして何か、ミルミちゃんに喜んでもらえるようなこと、出来るかもしれないから。でも、ミルミちゃんが嫌なら、僕はすぐに転校するよ」 「どっちでもいいよ。いてもいなくても変わんないし」 ぷいっとミルミは顔を背ける。 「わかってるから、ミルミに近づいてくる人は、嘘つきばかりだってこと。鈴子ちゃんとか、アルちゃんとか本当にミルミのこと好きって言ってくれる人もいるけど、ね……」 「好きか、嫌いかでいうのなら、僕もミルミちゃんのこと好きだよ。嫌いな人なら、謝りたいとか思わないし」 ミルミの前で、意識を失った時にもミクルは謝罪の言葉と礼をミルミに口にしていた。 「ミルミだって……嫌いな人なら、ラザンとか警備員とか呼んで追い払ってもらうんだからね!」 「……うん」 ミクルは淡い笑みを見せた。 「じゃ、ミルミ帰る」 くるりと、ミクルは背を向ける。 「……また明日ね、ミクルちゃん」 「また明日、教室で会おうね、ミルミちゃん――」 ミルミはその日は最後まで笑顔は見せなかった。 迎えの馬車に駆け込んで、馬車の中に待たせていた大好きなぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて。 「おかえり、おかえり……」 小さな声で、呟いていた。 「あ……花びら。どこから飛んで来たのかな」 下校途中の百合園生が、鞄の上に舞い落ちた花びらを手に取った。 薄い黄色の花びらだった。 「桃色の花びらも飛んでいますわ」 少し風の強い日だった。 どこからか飛んで来た沢山の花びらが、校舎の前でふわふわと踊っている。 「今日で、これで最後、だ」 四条 輪廻(しじょう・りんね)が袋の中から最後の花びらを風に乗せた。 色とりどりの花びらは、ヴァイシャリーの、離宮の上に生きる人達の元で舞い踊り、風に乗って彼方へと消えていく――。 ただ戦うために作られ、そして死んで行った者に。 敵であれど、己の信念を貫き、そして死んだものに。 誰かを守るために、その身を犠牲にしたものに。 輪廻は少しだけ、祈るように目を瞑った。 「ありがとう……いずれ、また、な」 僅かな。 そう、僅かな休息の後。 シャンバラは――コントラクター達は、混迷の道へ戻っていく。 この数日後、2020ろくりんスタジアムで蒼空学園校長御御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が何者かに暗殺される。 フマナではドージェと龍騎士団が戦いが始まり、東西シャンバラはそれに対して不干渉の態度をとっている。 東西シャンバラ政府はロイヤルガードを設立した。 共に東シャンバラのロイヤルガードを立ち上げた神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、そのまま隊長の任に就く。 戦いの足音が急速に近づいてくる。 コントラクター達は再び剣を取り、歩き出す。 新たな道を切り開くために。 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
シナリオへのご参加、ありがとうございました。 |
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