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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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空路 3
空の旅

 
 空路、こちらは前を行く湖賊らの船団。
 同じく武装飛空艇に改造してあるが、湖賊の方は船足の速い湖賊の船の性質を生かしたまま改良したもの。(教導団の方は、ヒラニプラ南部でもともとは敵水軍であった小国の軍船を改良したものになっている。)
 一隻の、教導団のとほぼ同じ大きさの中型艦に頭領のシェルダメルダが乗り込む。三隻は小型艦で、特にスピードには優れる。偵察や戦闘に適している。この小型艦の一つに、黒豹の軍旗が立っていることに、ここでは注目しておきたい。後々思い出すことになるだろう。また、飛空艇団全体を眺めていると、大きさから、それに空に溶け込むその色から、よく注意して見ないと見えないが、まるっこい小船が五、六隻と各艦の周囲を飛んでいるのである。シェルダメルダの言う「古い戦友達」が参戦を表明してくれ、これらも教導団の技術を借りて船を改良。「にゃぁぁ」「こ、こわい、おちるにゃ!」ね、ねこ……? 湖賊の古い友というのだから、水に縁のある生きものなのだろう。いかなる戦力となってくれるのか、こちらも注意を留めておきたい。
 武装飛空艇への改良についてだが、ローザマリアは南部平定後、葦原明倫館転校までの間(この時期についての詳細は明確でない)、水軍指揮の経験を活かして艦隊運用に携わっていたことになる。対空火器の増設や通信設備を充実させるための突貫工事等。ローザマリアが戦後新たに契約したクリーゲ・フォン・クラウゼヴィッツ(くりーげふぉん・くらうぜう゛ぃっつ)は、コンロン出兵において、「現地での船の整備は不可欠な為、出発前に南部の造船技術者や船大工を可能な限り、乗船させるべし」との進言をしており、実際そのようになった。
 
 
*編成*
◇湖賊小型艦(三隻) 黒豹小隊(50・ロイ)/湖賊(50・テバルク兄)/湖賊(50・テバルク弟)
◇湖賊旗艦(中型・一隻) 湖賊(200・シェルダメルダ)
◇教導団旗艦(一隻) ノイエ・シュテルン(250・クレーメック)、一般兵(250・クレア)、その他・雑務等(50)
◇教導団中型艦(二隻) 鋼鉄の獅子(250・月島)/一般兵(250)
◇みずねこ艦(?)
※各部隊と指揮官のみ記述。
 
 
 さて、これから着く葦原島では……
「頭(かしら)!」
「ああ。もうすぐ、葦原島が見えてくる頃かい。
 夕暮れ時だねぇ。ここで今度は、ローザに会えることになるかい。しかし、あの金髪の女の子が和服の学校に転校してたんだって?」
 南部平定後も、船の改良等に関わっていたローザマリアは勿論、シェルダメルダとの親交をもっていたことになる。
「ええ。お頭」
 教導団員のなかでこちらに芋ケンピ大使として来ているセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が、シェルダメルダの傍らで答える。
「ふふ。一度、見てみたかったねえ。可愛かったろ? な」
「ええ。……」
 セオボルトは、頬をほの紅くした。
 館山 文治(たてやま・ぶんじ)ヴラド・ツェペシュ(ぶらど・つぇぺしゅ)瀬尾 水月(せのお・みずき)らが相次いで、セオボルトの傍らにやってくる。
「可愛かったろ? な」
「ええ。……」セオボルトは、頬をほの紅くした。
「可愛かったろ? な」
「ええ。……」セオボルトは、頬をほの紅くした。
「可愛かったろ? な」
「ええ。……」セオボルトは、頬をほの紅くした。「く、……」セオボルトは、言い去っていく水月を見てちょっとだけかちんときそうになったが、大人の分別を保った。でも、……。セオボルトは、頬をほの紅くした。
「しかし」
「ん?」
「コンロンですか。コンロンは浪漫溢れる場所」
「そうなのかい?」
「……いえ詳しくは。お頭は何かご存知ですかな?」
「いや。外の世界のことは全然……空にいるってだけで足が震えそうだよ」
「(……豪胆で恐いモノなしな人かと思っていましたが、可憐なところがありますな)」
 湖賊艦に作られたバーでは、バーテンの文治が早速、その腕前を披露していた。ヴラド、水月らがカウンター席で飲んでいる。
「なんでも、セオボルトはコンロンに秘境的な魅力を感じているらしいってさ」「ふぅん」
 尚、これまでにセオボルトの実績として、高級芋ケンピがアイテム化されている。
 
「……」
 バーの窓側席。
 あちらの様子を気にとめるでもなく、少々真剣な面持ちで飲んでいる少女は、ナイン・カロッサ(ないん・かろっさ)だ。「……ジュースよ。これは」
 第四師団の南部平定戦では、龍雷連隊の評価に貢献した一人なのだが、彼女自身では、自らの力量の至らなさを感じ、「鍛え直さないとね」と思っていた。修練の意味合いも兼ねて、陸路を行く本隊とは離れ、独自の選択を取った。教導団の艦には煙(けむい)が乗っていることだ。連隊員としての使命はあの子に任せて、単身、湖賊の船へ。頭のシェルダメルダとかいう女(年齢は判らない。まだ若くも見えるが、大変老獪にも見える)には、ナインの風体を見るなり、どうも気に入ってもらえたらしい。「……」幼い頃から戦場にいた……愛や友情よりもお金……たぶんそういうナインの醸し出す雰囲気がそうさせたのだろう。
「(とは言え、他の団員たちみたいに、湖賊とは仲良いわけじゃないから。……知り合いもまったくないし。でも、いいわ。今回は私自身の目的のために動く。
 情報収集源は……)」
「や。こんにちは、元気?」
「? ……」
 考え巡らしていたナインが顔を上げると、明るい青の髪を横で束ねた優しげな女の子。親しげに、話しかけてくれる。服装を見ると、教導団ではないらしいし……湖賊の子?
 ナインはとくに、答えるでもなく、飲み物を口にした。
「飲んでる? おお、飲んでるね」
 女の子も持ってきたビールを飲んだ。「あたしも。あ、ジュースね」
 夏野 夢見(なつの・ゆめみ)であった。
「傭兵の子? 空京から? ……あれ、でも最初からいなかったっけ。えっと……」
「いいわよ。傭兵で。ナイン。ワタシは」
「あたしは、夢見だよ。えっと……湖賊で、食事とか掃除とか、してるんだ。まだまだ下っ端だよ!」
「ふうん、そうなのね。……よろしく」
「うんっ。あっちに着いてからも仕事するから。別々になるかもだけど、それまでよろしくね」
 教導団員であると知らぬまま知り合った。二人とも二年目だが、教導団は広い。そんなところへ……
「あ。教導団のひと入ってきたね」
「そうね。教導団の人ね。どう見ても」
 ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)。ノイエ・シュテルンのメンバーである。
「ええと。ここかな?」
 新星のなかでは、若者アクィラとまたタイプは違うが、気弱でなかなか自分に自信を持てないでいるのが彼ゴットリープだった。彼の預かった任は、飛空艦の操縦そして空での戦い方を習い覚えること。そのためには、湖賊のところに乗り込むのがいちばんいいということで、ノイエから一人、パートナーらには引っ張られつつ、やってきた。
「操舵室は、ここかな?」
「兄ちゃん。ここは、バーだぜ?」
「え、何と。そうでしたか。知りませんでした。失礼しました」
 地味で色白で角刈りなそんな彼であった。
「ああちょっと。操舵なら、あたしだって教えてあげられるよ」
「え? あなたが」
 夢見は、「せっかくなんだから、飲んでいきなよ。せっかく湖賊の船に来たんだから、まずは交流から!」とゴットリープを案内した。
「文治。ここのバーテンをやってる」「此方はヴラドじゃ」「……水月です。ぼそっ。それからここにはいませんが、これがセオボルトです」水月は、ゴットリープに芋ケンピを分け与えた。
「私は本名ゴットリープ・フォン・フリンガー。ドイツ系。四年生。シャンバラ教導団航空科所属。空軍士官コース志望。です。
 ありがとうございます。これは芋ケンピ(セオボルト産?)ですね」
「……わかるんだ」
 夢見は、ナインのいるテーブル席に着いた。
「私は本名ゴットリープ・フォン・フリンガー。ドイツ系。四年生。シャンバラ教導団航空科所属。空軍士官コース志望。です。
 ……あ、あの。何か」
「……」
 ナインは特に、これと言って答えなかった。夢見は料理を運びに行っている。
「……」
「……」
 戦闘が発生するまでは、基本訓練するくらいしか考えてなかったのよね。だけど。ナインは突如、思いだした。
 かつて南部でお色気作戦が成功したことがあったけど、実際にはあまり慣れていなかったし……練習でもしておこうかしら。
「え、あの、あ、ナインさん(なんで急に近付いて。え、もしかして、え、)……?」
「ねえ。……」
 夢見が戻ってきた。「空のうえで食べるお魚料理……あれ。なんか雰囲気変わってる?? ソー」夢見は戻っていった。
 ゴットリープのパートナーレナ・ブランド(れな・ぶらんど)らも入ってきた。「え、あのフリンガーが?」
「え、あ、そ、あの、え、ナ……」
 
 文治、「……。色々ある。バーテンとしてこの世界見てきて、四十年……」