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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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第3章 ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ【1】



 そして、ほろびの森では怒濤の砲撃が始まる。
 装甲列車上部の砲台が旋回、第一車両から順に砲弾が発射されていった。
 御神楽環菜は飛来する砲弾を視認し、トリニティ・ディーバに指示を飛ばす。
「前方に砲弾が来るわ! 減速して!」
「ただちに」
 砲弾は鼻先で炸裂し爆炎を上げる。さらに第二第三の砲撃逸れ左右に見える森を薙ぎ払う。
『あーあー、御神楽環菜とお供のサル共に告ぐ。大人しく投降なさい。あなたがたに勝ち目はありませんわ』
「あれは……!」
 駅の直上に浮かんだのはカーリー・ユーガのビジョン。
「間違いないわ。やっぱりあの姿は……」
『さぞ驚いていることでしょう。そう、あなたの親友【孔雀院麗華(くじゃくいん・れいか)】ですわ』
 見下すようにふんぞり、縦ロールを掻きあげる。
『よく言いますでしょう、獅子は兎を倒すのにもゲージ二本使うと。わたくし、物事には完璧を求めるタイプですの。一点の曇りなき勝利、それこそが美、完膚なきまでに敵に敗北を認めさせることのなんと甘美なことでしょう。おわかりですわね、環菜さん。この身体にわたくしが憑依している以上、あなたがたに選択の余地などないということを。武器を捨てプライドを捨て列車を降りなさい。使い古された台詞ですけど……コホン、人質がどうなってもいいのかしら?』
 環菜は目を細める。
「なんて卑劣なことを……」
 彼女の隣りに座る影野 陽太(かげの・ようた)は身を震わせた。
「……陽太」
「すぐに救出に向かわせましょう。大丈夫、優秀な生徒が揃っています。環菜の友達には傷一つ付けさせません!」
「ええと、あのね……」
 陽太はぎゅっと彼女の手を握りしめる。
「俺が救出隊を組織します。環菜は座っていて下さい……、あ、念のためにデスプルーフリングをどうぞ」
「あ、ありがとう。でも大丈夫だから」
 そう言って、頬を赤く染めた
「ところで、天御柱学院のデータベースにあたってみたのですが……、たしか君の母校ですよね?」
「ええ」
「だから彼女も卒業生だと思ったんですが、該当するデータは見当たりません。何者なんですか、彼女は?」
「え? それじゃ契約者じゃないの?」
 素っ頓狂な声を出したのは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)である。
「あ……ごめんなさい。カンナさm……いえ、環菜さんのお友達だって聞いたから気になって……」
「友達……? 誰がそんなことを言ったの……?」
「さっき麗華さん……じゃなかった、カーリーさんが言ってたけど……違うの?」
「正直、私もよく知らないレベル」
「え? で、でも、よく突っかかってきたって……。学科試験で一歩及ばなかったとか、何かの人気投票……みたいなので次点だったとか……きっとそんな些細なエピソードなんだろうなーって思ってたんだけど……、もしかして違うの?」
「……それは向こうからおしえてくれると思うわ。トリニティ、このまま全速前進、駅を制圧するわよ」
「え……えっ?」
「かしこまりました」
 再び加速するナラカエクスプレスに、カーリーは「え?」と思わず漏らした。
『あ、あの……、聞こえていないのかしら? あなたの親友ですのよ? 見殺しにすると目覚めが悪いですわよ?』
 しかし列車には一向に停止する気配を見せない。
『し、仕方がありません。麗華さんの思い出をスライドショーでお見せしますわ。よくお考えなさい』


 一枚目の写真。
 大企業とおぼしきビルの中、どんよりとした顔の社員に囲まれる環菜。
 そして、鬼も裸足で逃げ出す形相で睨んでいる麗華。
 題・お父様の会社を買収したドブス環菜と、屈辱のあまりハンケチを食いちぎる麗しいわたくし。

 二枚目の写真。
 どこぞの有名ホテルでのパーティー、イケメン達に囲まれるもシカトを決める環菜。
 そして、ゴウジャスな格好をしているにも関わらず、誰にも相手にされず凄まじい形相を浮かべる麗華。
 題・女の見る目のないバカ共に囲われていい気になってるメス豚と、ストレスのあまり過食にはしるわたくし。

 三枚目の写真。
 おそらく軽井沢の高原、テニスコートにて勝負を挑む気合いマキシマムの麗華。
 そして、まったく彼女に視線を向けず、ケータイをいじくっている環菜。
 題・勝負から逃げた腰抜けのケータイ中毒と、憤怒のあまり憤死しかかるいじらしいわたくし。



「ぜ……全然友達じゃないじゃん!」
 環菜の身辺警護を務めるルカルカ・ルー(るかるか・るー)は口をあんぐり開けた。
「正直、今フルネームを知ったぐらいよ」
「写真じゃ目も合わせてなかったもんね……。てか、どうしたらあの写真で親友なんて勘違いを……?」
「……だ、だよね。明らかに盗撮のアングルだったし……」
 ルカルカと沙幸は顔を見合わせる。
 その時、またカーリーの声が響いた。
『全てこの娘が所有していた写真よ! こんだけ一緒に写真を撮るほどの親友を見捨てると言うのかしら!』
「……だそうよ」
 ふかーいため息を吐き、環菜はこめかみに手を当てた。
「あ、なるほど……」
「一方的につきまとわれてたんだ……」
「か……、環菜、大丈夫です! これからは俺がストーカーから守ります!」
 ほろびの森の女王カーリー、彼女は昔からなにか肝心なところが間違っている残念な奈落人だった。
 遠い目をしてトリニティはそんなことを思う。
「しかし、影野様。ストーカーよりも先にあちらからお守りするほうが先決ではないかと思われます」
「え?」
 振り返り、窓に見たのはゴーストライダーの騎影。
 いち早く臨戦態勢をとったのは、陽太のパートナーであるエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)だ。
 ディテクトエビルと殺気看破で警戒態勢だったおかげだろう、不意打ちを回避し彼女は先に打って出ることが出来た。
「下がってください!」
 魔道銃で窓の外に銃撃を行うと、悲鳴にも似た音をたて、窓硝子が車内に飛び散る。
「陽太!」
 声をかけた時にはもう、歴戦の立ち回りで行動していた。
 身を挺して抱きしめ、ゴーストライダーの襲撃から環菜を守る。
「もう誰にも環菜を傷つけさせるものか……!」
 しかし、そこに銃撃を回避したゴーストライダーが槍を構え突進を仕掛けてきた。
 切っ先を絡まる二人に向け振りかぶろうとしたその時……、青鋼色の甲冑に無数の太刀筋が瞬時にして走った。
「……っ!」
「オデコちゃんには近づけさせないわ。ルカの目が黒いうちは絶対にね……!」
 ウルクの剣を二刀流に構えるルカルカ、その身に立ち上るのは竜気……ドラゴンアーツ。
 再びの実践的錯覚で敵を捕らえると、間合いの伸びた則天去私の乱れ斬りを胸元に叩き込む。
「……っ!」
 槍ごと刻まれた騎兵は転倒し、あっという間に列車の後方に転がっていった。
「まだだ! もう一騎来るぞ! 正面右、二時の方向!」
 不意にダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が声を上げた。
 窓から身を乗り出し、両手の曙光銃エルドリッジで応戦するが、ゴーストライダーは卓越した馬術で攻撃を避ける。
「一筋縄じゃいかないか……。おいルカ、こっちにも手を貸せ」
「はいはい」
 そう言って、焔のフラワシを発現させる。
「と、その前に……、今のうちに影野君は彼女を連れて後方車両に移って。ここは私たちが引き受ける」
「す……、すみません」
 よろよろと立ち上がり、陽太は環菜の手をとる。
「ルカルカ……」
「気にしないで、環菜。山菜ペアは勝手に護ることにしてるの」
「山菜?」
 ダリルは怪訝な顔で振り返る。
「『山』葉+環『菜』。だから山菜♪」
「……御神楽。気にしなくていいぞ、いいから早く行け」
「あーっ、スルーしたーっ。ぷーう」