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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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第4章 支配者の憂鬱【1】



 戦闘が始まると同じくして。
 後方に控えていた【ガルーダ・ガルトマーン】は姿を消した。
 ゴーストライダー達は直属の部下ではないのだろう、供回りも付けずひとりひっそりと森に消えていった。
 勿論のこと彼との接触を考え、先行して駅周辺に潜んでいた生徒達も行動を起こす。
 森の中をしばらく行くと、何時頃から打ち捨てられたのかもさだかではない古城に行き当たった。
 白黒写真に映る一世紀も前の建物のような、無機質な気配が全体にベットリとへばりついている。
「……パルメーラさん達は何を考えているんでしょうね?」
 乾いた石畳の上を歩きながら、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)は言った。
 魔鎧である彼女はドレスとなって中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)の身体を包み込んでいる。
「どうして勝利の塔を使うのかと言うこと?」
「ええ、ナラカと現世を行き来可能にすることが目的なら、ナラカエクスプレスが正にそれだというのに……」
「それを知る為にも私達は『傍観』を行うのではないですか?」
「綾瀬……」
「物事の本質を捉えるには『第三視点』からモノを見ることが大事なのですよ」
 とは言え、その回答は第2章【2】のカーリーの発言を注視すればわかるだろう。
 今にも落ちてきそうな古ぼけた天井を見上げ、色あせた土色の広間の中心で立ち止まる。
「こんにちは、ガルーダ様。お初にお目にかかります、中願寺と申します」
「ふん……」
 奥からコツコツと靴を鳴らし、暗闇からガルーダは姿を見せた。
 憑依したルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の身体がほのかな光の中にゆらめく。
「そう言えば……、この肉体に用があるんだったな、貴様らは」
「ご心配なく、私にはどうでもいいことですわ。勝利の塔の破壊や防衛にも関心はありません」
「なに?」
「成り行きを観て楽しめれば結構。私はただの『傍観者』ですので。全てを楽しむにはトリニティとパルメーラ、どちらかに肩入れするよりあなた様と行動を共にするほうが有意義でしょう。おそばにいることをお許し願いませんか?」
 にこりと微笑む。
 けれども、ガルーダは無言のままだ。
「ガルーダ様、あなた様はこのナラカがどの様に在るべきだと考えておいでですか?」
「ナラカだと?」
「人々の死後の世界でしょうか? 世界の果てでしょうか? シャンバラ、エリュシオンと並ぶ1つの国でしょうか? あなた様はこのナラカに何を望み、何を成そうとしておられるのでしょうか? よろしければお聞かせ願えますか?」
 すると彼は答えた。
「ナラカの行く末に興味はない。オレはオレの心のままにナラカを支配する、ただそれだけのこと」
 そしてなぜか、壁にかかる肖像画に目を向けた。
「……こんなところで秘密の相談か?」
 声に振り返ると、葛葉 翔(くずのは・しょう)が立っていた。
 ナラカの障気に当てられたのか、ガルーダの追っかけみたいになってしまった残念な人である。
「そんな奴と組むぐらいなら俺と組め。俺はまだお前のことを諦めた訳じゃない。強くなりたいとお前は言っていたらしいな。ならば俺達と一緒にと来い。今はエリュシオンと戦争状態だ、戦う相手は神に竜騎士……選り取り見取りだぜ」
 カラーグラスをくいと押し上げ、真剣な眼差しでガルーダを見る。
「まだその身体に入っているのか……、いい加減にしたほうが身のためだぞ。女の身体に男の魂が入っていると段々と魂が肉体に引っ張られて女になっていくんだ。漫画と言う名の過去の文献に書いてあったからまず間違いないっ!」
「間違いまくりだろうが……」
「そう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな……」
 悟ったように漫画脳を全開にする。
「それはさておき、ひとつ聞きたいことがあってお前をつけていた。答えてもらえるか?」
「……言ってみろ」
「どうしてパルメーラに従っている、お前ならパルメーラに従わなくても一人でやっていけるんじゃないのか!?」
 言い終わるや、ガルーダは紫炎の拳で壁を殴りつけた。
 竜も身を凍らせるほどの殺気に、翔も思わず気圧されてしまった。
「いつ、オレがパルメーラに従った!」
「ち、違うのか……?」
「貴公は自分の力で覇を掴もうって気質だ……、そんな奴が誰かの下に付いて大人しくしているとは思えない」
 突然の声。
 吹き抜けとなった二階の窓を見上げる。
「誰かと思えば貴様か……」
 銀の仮面のヒーロー、仮面ツァンダーソークー1こと風森 巽(かぜもり・たつみ)
 そして、相棒のティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)がヒーロー然としたポーズで立っていた。
 空から追跡していたのだろう。背中にはツァンダースカイウィングがあった。
「3度も手合わせしたんだ……貴公の性格はそれなりに理解は出来るさ。目的は『トリシューラ』か?」
 ガルーダは黙った。
「カーリーの語り口じゃ、あの塔のエネルギー供給源みたいだからな」
「む……」
「そこを制圧してしまえば計画はおじゃん、いや乗っ取る事だって出来るわけだ」
 ふと、ティアは思い出したように唸った。
「それにしてもさぁ、あのカーリーって人……」
「ん? ああ……気付いたか?」
「うん。金髪縦ロールで……」
「高飛車系なお嬢様……」
『まるでミス・ケアレス……』
 口を揃えて誰かさんの名を口にした。
「まぁ、あそこまで凶暴で残忍じゃないよね」
「ああ、残念思考でもないしな」
 それはどうだろう……。彼らもカーリーに会ったら、もうちょっと違う感想を持つに違いない。
「……話が逸れたな。少なくとも、現状ルミーナさんの体を取り戻すよりも、あの塔をどうにかする方が優先度が高そうだ。もし利害が一致するっていうなら、今回だけは協力しよう。ルミーナさんの件とケリをつけるのはその後だ」
 その時、カタンと入り口のほうで物音がした。
「おやまぁ、皆さんお揃いで」
 物音の正体は東條カガチ、飄々とした物腰で一同の前に姿を現す。
「話は聞かせてもらったよ。俺的には仮面ツァンダーの提案もそう悪い話じゃないと思うんだよねぇ」
「…………」
「あんただって戦うには仲間が必要でしょ。ぐずぐずしてると連中、地上の次はナラカが持ってくんじゃねぇの?」
「……だろうな」
「はら? わかってるのに落ち着いてるんだねぇ?」
「焦ってどうなるものでもない。それに奴らを叩き潰すことは既に決めている」
「なんだ。やっぱりやるこた俺らと同じじゃない」
 コホンと咳払い。
「あのねぇ俺らルミーナさんの体返してもらって、やつらのオイタ止められればナラカに手出す気ないんだよね」
 翔も頷く。
「ああ、そいつの言うとおり、ナラカをどうこうしようって気はないぜ」
 二人を見、ガルーダは仮面ツァンダーを見る。
「……仮面の小僧にひとつ聞きたい。なぜ、敵であるオレに手を貸そうと思った?」
「不謹慎だが、貴公との手合いが楽しかったってのは理由になるかい?」
 すこし間を置き、ガルーダは静かに笑った。
「いや、その気持ちはオレにもわかる……」