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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第十五章 各地決戦〜イコンの活躍
 
 
 

旧都奪回と夜盗殲滅/ミロクシャ
 
 ミロクシャ方面。廃都群西、教導団陣営。まだ、状況は動いていない。
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は、魔獣使いとしての技能を生かし、騎狼部隊300の面倒を見ている。
「トマス……それに琳。俺たちだけで、何とかなるのか」
 は単身、パートナーのセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が予測した夜盗勢の進軍経路に、トラッパー・機晶爆弾・破壊工作といった使える限りのスキルを駆使し罠を仕掛けに行っている。乗り物には迷彩塗装を施し、斥候の役割も兼ねている。危険だが、本隊に残る同じくパートナーの藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)と精神感応を行い事が起きればいつでも報告できる状態にある。
 一方トマスはこの間、後方にあるドージェ寺院跡に陣取るパラ実勢のもとを訪れていた。付近まで来ると、不良や蛮族たちはバリケードを築き始めている様子が見られた。雪と月と花(牧神の猟犬)・鬼一と龍二(ドンネルケーファー)・夕(ヒポグリフ)までも総動員である。
 夢野 久(ゆめの・ひさし)は、何としても、この地(ドージェ寺院跡)を守り通す、という意向である。夜盗勢どもに示すべき意図は示した通りだ。だがアレで引き下がるとは到底思わねえ。今は教導団が前にいるからそっちに意識が行ってるだけだろうな。その教導団からは情報交換は兎も角、協力を求める交渉の類は来てねえ。と。
 今、若い指揮官の青年がここを訪れているところではあったのだが……思いは一足違いになってしまった。
 久は呼びかける。つまり俺らの方針は変わらねえ。夜盗どもが、いや帝国の軍勢が来ようが教導団が来ようがビクともしねえ、最低でも軽い気持ちじゃ喧嘩を売れねえ程度の拠点に。そしてコンロン各地にいるパラ実の仲間たちがイザってとき逃げ込める城に。心の拠り所かつ後ろ盾になる、そんな砦に。此処をそんな場所にするんだ。
「廃材を集めろ! 廃墟を整えろ!
 バリケードを張れ! 壁を立てろ!
 籠城とまでは言わねえ、防戦に有利になるだけの基盤を組み上げるんだ! 今はまだ即席でいい、此処を少しでも砦として機能する場所に! 後々、間抜け面して喧嘩吹っかけに来たアホどもに吠え面かかせてやるためにだ! 野郎ども気合入れろや!」
 久の号令に、一同は心を一つにした。
 そんな中を歩いていく、トマス。誰も見向きもしないくらい必死に砦を築き上げている……
「バリケード、か……!」
「あら? あの子」
 そんなトマスを見つけ出迎えることになったのは、ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)だ。
「私たちも保護対象? なんで?」
 基本的に彼らパラ実は軍人ではないので、彼らも保護対象であると、教導団員としてのトマスは考える。
「見返り? あなた方の信頼、としか僕には答えようがない。少々迂闊に深入りなさったとは思いますが、あなた方は一般人だ、どれほど強くても」
 但し治療系・情報撹乱系の手が足りないので、協力要請は願いたいところだと思ったのだ。彼らも帝国からの攻撃対象になる可能性はある。だから差し出がましいようだが、好機を見て連携で防御を果たしたいと。負傷している旧軍閥の人たちもいる。
「助けてくれ、と頼って来た命を、少しでも多く助けたい。頼られた人間の、責務じゃありませんか?」
 トマスは真剣な思いを述べた。
「フゥン。フフ、若いわね」
「国頭さんに認めてもらえるような男に、僕はなりたいんです……」
「国頭さんにねぇ。なかなか、厳しいと思うわよ?」
 トマスは尚真剣な面持ちだ。ルルールはにこにことトマスを見ていたが、
「んー、まあ確かに帝国はドージェの仇だけど……
 教導団はそのドージェが孤軍で龍騎士とやりあってるとき、何も、しなかったし?」
 トマスは少々、胸に刺さる思いがした。
 助ける義理は別にないかなー。ルルールの答え。
 佐野 豊実(さの・とよみ)も、近くからそのやり取りを眺めていた。教導団ねえ……。そう。それでいいよ、ルルール。悪いけど、依頼も報酬も一切なしに仲間の命を張る意義がない。流石に900もの命を預かればね……久君だって自分の感情よりそっちを重く扱うさ。
 トマスは、仕方なく部隊のもとへと戻った。若き臨時の指揮官として陣頭に立ち、
「勝って、生き延びて、シャンバラに帰るんです!」
 いよいよ、夜盗勢の進撃が始まったのである。本拠からの敵援軍が到達しその数は二千を越えている。
 騎狼部隊、琳と天樹らが前衛を務める。無論この数の差、後衛の者たちも決死の覚悟で臨む。セラフィーナは、祈るように、思う。「戦う力に乏しいとはいえ、今回もワタシは後方での任務ですね……。鳳明や天樹にばかり前を任せている現状に多少の歯がゆさも感じますが。ここは持ち場をしっかり堅持して、ワタシのするべきことを成しましょう。一人でも多く……いいえ、全員でしたね。共に生きて戻りましょう……!」
 数に任せ、怒涛の勢いで押し寄せる夜盗勢。
 トマスは、後方で砂埃を立たせ、こちらにも更なる兵がいるように見せかけ相手の行動を抑制する。琳の張った罠が作動し、夜盗勢先鋒の勢いがそがれる。だが実際には圧倒的な兵力の差を前にすぐに押されてしまう。相手も最初は多少慎重になったものの攻めることはやめず、兵を展開し、包囲し殲滅できる程度だとわかると一気に攻め寄せた。
 琳と天樹は善戦する。天樹は先頭に立ち放ったヒプノシスに敵勢の先頭集団は眠りに落ち倒れるも、それを乗り越えるように敵は押し寄せ押し寄せた。
「天樹……!」
 琳は夜盗どもを次々に打ち倒し払いのけていくが、
「ダメだ、多すぎるよっ! 天樹!」
 近くで戦う味方の姿さえも見えなくなりそうだ。
「(……全員で生きて帰る、か。……あくまで理想。……でも、それが前を向く力になるのなら……。鳳明のためにも負けられないね)」
「うぉぉ!!」テノーリオは、野生の蹂躙で戦場を駆けた。「敵将は、敵将はどこだ!」だが、敵数の多さに、敵の中央にはとても辿り着けない。
「ハハハ!」「熊め!」「将が貴様の相手などするかっ」
「ううっおのれ」テノーリオは降り注ぐ矢の雨を避けるように退いた。
 やがて教導団部隊は蹴散らされ、退くことを余儀なくされる。
 しかし、その後の収拾は非常に素早く、撤退を視野に入れていたミカエラ、撤退戦を得意とする魯粛らの指揮で被害を最小限に抑え退くことに成功。夜盗もまだ相手の士気高しと見て深入りし追撃を行うことは避け、教導団はある程度退いた地点で陣を張り膠着状況まで持ち込んだ。
 
 また、この際に夜盗の勢いは、ドージェ寺院跡の方面にまで及んだが、防戦に徹するパラ実が被害を受けることはなく、それに夜盗勢も帝国の援軍なしには同属性である不良や蛮族である彼らを攻撃対象とすることは避けるきらいがあった。帝国の増援が到着する気配はまだない。
 久は負け戦も覚悟で、犬死は自身だけでいいとの覚悟まで決めていたが、これで仲間が討たれずに済んだことにひとまず安堵を持った。これでパラ実がこの地に拠る基盤は残せた。いやまだ、予断は許せないが。豊美は、状況が膠着するこの機を利用し夜盗に働きかけた。
「帝国は、明らかに君らを使い捨てにしようとしてると思うんだよ。身に覚えがないかい? 久君曰く、『誰であろうと無駄死にされるのは気分が悪い』だってさ。はは、馬鹿だろ? ……私たちなら?仲間?の命は重く扱う。保障するよ」
 夜盗の一部の心理に揺らぎが生じる。
「ま、考えておいてくれたまえ。何時でも歓迎するから。ね?」