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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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「おお。香取と水原は、拠点の制圧に成功したか。こちらへ向かっているんだな?」
 廃都群方面に集まった夜盗勢の本隊に潜入していたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、情報収集にあたるフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)から報告を受ける。
「いよいよか。ま、夜盗暮らしも思った程悪くは無かったが、さすがにここら辺で幕引きにさせてもらわんと、おっかないねーちゃんたち(注:香取翔子大尉と水原ゆかり少尉の事です!)に何されるか分からないからな。……ああ、そういやもうひとり、おっかない(フィリシア)のがいたな。……まったく、オレはつくづく女運が悪い」
「あなたね……聞こえてますわよ」
 フィリシアがジェイコブを睨んで言う。
「おっかないねーちゃんたちにもきちんと、伝えておきますわ」
「わ、わかった。すまないフィリシア。じゃあ、今度は廃都群の味方の方へ連絡を頼む」
 
  
 さて、幾度かの小競り合いはありつつも何とか膠着状態を保っていた廃都群の教導団部隊。ここへ、クィクモからのゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)率いる500が飛空艇で到着した。
「二つの部隊を合わせれば、参加兵力は三千名近いとは言え、ミロクシャの部隊も廃都群の部隊も、単独では夜盗団よりも劣勢だ。連携を密にして作戦行動に齟齬が生じないようにしなければ、各個撃破の危険すらあるかも。気を引き締めてかからないとね」
 そしてここに、ミロクシャ方面から敵陣を抜けてきたケーニッヒ・ファウストが合流する。ケーニッヒは人間通信機として、ミロクシャにいる本隊に残してきたパートナーとこれから行う作戦を確実なものとすべく連絡を取り合った。
「ああ、美悠か、オレの方は何ともないぜ。まぁ、敵と遭遇しても、戦わずに逃げ出さなきゃならねぇ上に、目的地に着いても、戦闘には加わらずに連絡役に徹しろ、ってのは、正直、とんでもないストレスの種だが。任務が任務だから、やむを得んが……アンゲロや麻衣にもよろしくな」
 ケーニッヒは、ミロクシャの本隊が首都を取り戻し龍騎士の増援も既に撃破したことを聞いた。こうして、挟撃の準備は整った。
 更に、ミロクシャで夜盗勢の本拠が落ちたことを廃都群に陣取る夜盗内部に潜入していたジェイコブが広め、不安に陥れた。
「撹乱工作か。こういうのは得意だ」
 このことは夜盗らを完全に浮き足立たせた。本拠が落ちた。頭目も捕われた。龍騎士の増援も来ない。しかし兵力の大部はここ廃都群に集っている。ここを新たな本拠とし立て直すべし。いや、教導団は我々を許さないだろう。ここは危険だ。様々な意見が出て纏まらない状態となった。一部は、密かにパラ実の立て篭もるドージェ寺院跡を頼って逃亡した。他にも、夜盗勢を抜けミロクシャ方面を落ち延びていった者たちも多かった。この時点で、二百から三百が離脱し夜盗勢の兵力は二千を下回っていた。だが、大部分はまだ、戦う姿勢を崩さなかった。今ならミロクシャも奪回できる。まずは目の前の教導団を叩くべし。いや、奪回が先だ……ここでも夜盗たちの意見は纏まらなかった。
 かくする内、香取たちノイエ・シュテルンの本隊はヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)を先鋒としてミロクシャから進軍。ケーニッヒと連絡を密にし、タイミングを計る。廃都群に到達すると最後の打ち合わせの後、一斉に攻撃を開始した。ここに挟撃は成った。更に、夜盗に身を潜めていたジェイコブも、クロスファイアで銃を乱射、片っ端から敵どもを蜂の巣にしながら突撃を敢行した。
 夜盗勢は、大混乱に陥る。
「殲滅せよ! 一兵たりとも、逃すな!!」
 先陣を切ったヨーゼフは、新しく配備された戦車を中心に迫撃砲10門、軍用バイク20台からなる装甲偵察小隊を率い敵陣の真後ろから突入し大きな打撃を与えた。エリス・メリベート(えりす・めりべーと)は、迫撃砲による火力支援を行う。エリスは、迫撃砲については分解して持ち運びが可能で、少人数でも操作できる為、複雑な地形での作戦行動が多い第四師団にとって理想的な火砲だ、と判断しヨーゼフに進言していた。大きく放物弾道を描いて目標地点に着弾するその特性を活かして、小高い丘や山の斜面などの高所に布陣した敵を砲撃したり、煙幕を張ったりするのに活用が可能。廃都群の入り組んだ地形においてもこれは効果を発揮するものとなった。
 彼らの活躍は、第四師団における新たな戦いぶりを垣間見せるものとなった。しかし、現状での部隊の規模は決して大きいものではないため、夜盗らが最初の混乱から立ち直り組織的な反撃が開始される前にと、離脱を行う。ここで香取隊の主力である、歩兵部隊へのバトンタッチを終えた。
「まぁ、戦力を考えれば、今回はこのくらいが限度だろう。師団に配備される装甲車輌や火砲の質や量が今よりも充実して、装甲部隊や自動車化歩兵部隊が編成されれば、より本格的な機甲戦術を駆使して戦うことも可能になるだろうがな」ヨーゼフは現状の師団の配備についてそう評価し、歩兵部隊の支援に回るのであった。
 夜盗勢と正面で睨みあっていた側の教導団部隊も、トマスの指揮する騎狼部隊を先陣に、歩兵部隊に編成したゴットリープの500が打って出、見事に挟撃を果たした。こちらは戦車などの重兵器はないもゴットリープはパートナー、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)にオートバイ騎兵、綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)に砲兵・機関銃歩兵などの火力支援部隊など率いてきた兵のサポートをさせ戦局を導いた。彼ら遅れてコンロン入りした部隊であるが、ノイエ・シュテルンに組み入れられるやレナ・ブランド(れな・ぶらんど)によってこれまでのコンロンでの作戦行動や実戦から得られた知識をレクチャーされ、活発な意見交換が行われてきた。ノイエ・シュテルンは部隊の強化にも余念がなかったわけである。対する敵は今や士気もなく、特別強い個の武があるわけでもない。勝負は明らかであった。

 結果、二千近かった夜盗勢はほぼ壊滅。一時はコンロンの首都を占拠までした一大勢力であったが、統制されたノイエ・シュテルンの軍に完膚なきまでに叩かれ、以降二度と勢力を盛り返すことはなかったのである。