リアクション
第十六章 神龍騎士との決着 接戦/ボーローキョー イコンの持つ力は十分に発揮され、クレセントベースで、クィクモで、ヒクーロ、ミロクシャ……コンロン山と、各地で龍騎士を撃破した。そして、ボーローキョーでは……ここにいるのは、神龍騎士である。 傷を負い、それでも神龍騎士に立ち向かっていた朝霧、風次郎、騎凛にそれをかばう千代ら。次々と、倒れてゆく仲間たち。風次郎はタズグラフの前に膝を付いた。その手に尚握られている刀は、すでに折れている。甲賀も倒れた。その両手は、放ち続けた炎で黒焦げになっている。国頭は騎凛に倒された。朝霧は、パートナーが倒れてゆく中、自らも最後まで騎凛を守ろうとする。「騎凛先生、朝霧さんも、もう、逃げて……」ミレイユは二人にすがるように、言う。しかし、逃げ場はないのだ。戦うしか……騎凛はしっかりとナギナタを握った。 タズグラフはまだ立ち上がろうとする風次郎にそろそろとどめをくれようと剣を振り上げた。 「! ……何だ?」 タズグラフは、その場から数歩下がり、辺りを見渡す。「上か……」タズグラフは素早く避けた。射撃が来る。 「知己知彼、百戦不殆……」 降り立ったのはアンズー。慎重に探る様子で、そこからすぐに攻勢を仕掛けることはしなかった。クィクモから向かっていた叶 白竜(よう・ぱいろん)の搭乗する『黄山』だ。白竜は、味方の状況や周囲の地形なども素早く確認する。隠れたり逃れられるような場所はない。味方もほとんどが戦闘不能の状態にあるようで、ここは…… 「敵を退ける、しかないようですね」 「……だね」同じく搭乗者のパートナー、世 羅儀(せい・らぎ)。 「師団長。ですね? そこにいらっしゃるのは」 「は、はい……あなたは?」 「叶 白竜。とにかく、この場を少しでも、離れてください」 「叶、さん……わかりました」 タズグラフは、アンズーに立ちはだかれ戦場を退く騎凛らを無理に追うことはしなかった。敵は、飛龍をすでに失っていた。これは、こちらにとってはさいわいであった。まず、敵は龍騎士、ということで作戦を立てていたのだが、飛龍はすでにない。これならば、予想外に、いけるかもしれない……無論、それで油断をする叶ではない。年齢の為もあるだろうが、血気盛んで若い士官の多い教導団にあって彼の性格は慎重であり、冷静。慎重さ故、遅れを取ることもあるだろうが、実力者には違いない。今回は思い切った行動になったかもしれない。単機で神龍騎士に向かうこととなったわけであった。 「せめて三機編成でいきたいところだと思ったね」世羅儀は言う。ともあれ状況は予想したより有利なようではある。 だが、イコンは単機であれ、現地には味方の部隊もあると踏んでいた。「私の腕でなんとかできるとは思わないが……応援部隊の主隊が到着するまで帝の周辺から引き離すことだけでもできれば」味方側は多くが負傷し戦闘不能だが、帝の一行というのはここには姿が見えない。おそらくすでに逃れたのではないか? この時点で目的はほぼ達成できたのではとも思えるが、向かい合ったまま終わってくれる相手でもないだろうとは。それに、このまま終えるなどはさすがに消極的に過ぎるか。 「白竜。さてそろそろ……」 タズグラフの方でも、現れたイコンの出方を見ていたようだが、一戦する気はあるらしい。飛龍はないとは言え、相手は神のクラスだ。 羅儀は火器の準備を万全にしている。 相手が来る。 「はっ」 「白竜。先に撃たないと死ぬよ?」 性格ゆえ、白竜の攻撃はタイミングを逃していた。タズグラフは一瞬の内に、アンズーの足もとに飛び込んできたのだが、羅儀の方が判断で一撃を加えた。タズグラフは射撃を逃れ、しかし尚距離を縮めようとくる。 「くっ」 白竜が射撃を行う。 「この射程では無理だ」 白竜は、アンズーの片手のハンマーを振り下ろした。しかし、当てることはできない。 「駄目か?! ……うわっ」 「白竜。距離を取って!」 アンズーを後ろに飛ばし離れた。足の装甲にひびが入っている。一撃を食らってしまった。衝撃もかなりのものがあった。数撃食らえば倒されてしまう可能性もある……アンズーに距離を取らせつつ、アサルトライフルを放つ。幾つかの銃弾が命中しているようだが、タズグラフは腕を前にして防ぎ、損傷がない。 「ライフルは当てることができても、ダメージが……く、アンズーの武器性能では……」 タズグラフは射撃を防いだ後、暫くそこに構えていたが、す、と直立の姿勢になり、それから剣を仕舞った。 帝も敵将も結局取り逃がすこととなった。飛龍も、メインの武器もなく、この状態で仮に相手を倒しても、ダメージを被るであろうしただの敵機一機を撃破したことにしかならない。 「……むう」 白竜にしても、この時点で敵を退けることに成功したことを知った。 |
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