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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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第三曲 〜Qualia〜


「どうした、アキラ?」
「どう考えてもおかしいんだ、樹ちゃん。あれだけ強化人間を誇らしげに語った人が、あっさり死ぬかい?」
 国軍上層部に海京クーデターの報告に向かっていた林田 樹(はやしだ・いつき)は、腑に落ちなさそうな様子の緒方 章(おがた・あきら)と目を合わせた。
「……確かに引っ掛かるな。あれだけ強化人間を擁護する言い方をしていた彼が、強化人間に対するトラウマを植えつけるような行動を起こすとは思えん。……その行動すらも作戦の内だったとしたらどうなる?」
「自分が死んだときの用意をしているかもしれないね」
「分かった、天学の少年に連絡を取ってみよう。アキラ、頼む」
 章に託し、上官のいる部屋に入った。
「林田です。先日の海京クーデターの報告に参りました」
 事件の経緯を説明している間に、章からの連絡が入った。
 断りを入れ、一度その内容を確認する。
 風間が別人に入れ替わっている可能性があるかといえば、「ある」とのことだったが、それが可能そうな黒川という強化人間は、クーデターで死んでいる。
「……以上が、全容になります。それと、今回の事件に関連して、天御柱学院にいる友人から奇妙な噂話を聞いたのです。『風間 天樹が、生きているかもしれない』と。
 噂話ではありますが、他人になりすますことの出来る能力者の話も聞いているので、黙殺する訳にもいかない情報だと思われます。私どもで、調べてみてもよろしいでしょうか?」
 国軍はこの事件で大きな被害を受けている。おそらく上官も、この申し出を断る理由はないはずだ。
 その予想通り、彼女はこの件を一任されることとなった。


第一楽章「復興」


 海京東地区。
「皆さん、一列に並んでください〜」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は海京の復興作業の手伝いに来ていた。
 現在、北地区の港と空港、及び天沼矛がまともに使える状態ではないため、海京への物資の供給が滞っている。
 そのため、シャンバラの有志によるボランティアの人達が少しずつではあるものの、それを担っていた。シャンバラから降りてきた物資輸送用の大型飛空艇が海上に停泊している。協定に基づきF.R.A.G.も派遣されることになっているが、現在はトゥーレでこちらに来ていた一部が物資を提供しているのみだ。本隊が到着するまでにはまだ時間が掛かる。
「日差しが強いから、水分補給も忘れずにね」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がクーラーボックスからペットボトルのジュースを取り出し、海京の住民に配っていく。
 一応電気、ガス、水道は正常に使えるようになっているものの、まだ日常に戻る余裕のない人が多い。それは、炊き出しにやってくる人達の顔を見て感じたことだ。
 いくら東地区の被害が少ないとはいえ、やはりこうも立て続けに大変なことが起こると、精神的にも辛いものがあるだろう。
 せめてそれを少しでも癒せればと、メイベル達は簡素ではあるが料理を作り、配っていった。もちろん、ただでさえ疲弊して弱っている街の人達が熱中症で倒れたりしないように、塩分と水分は欠かせない。
「そういえば、五機精の皆さんは?」
「北地区の瓦礫の撤去作業に行ってますわ。さっきクリスさんが食べ物を差し入れに行ったばかりですわね」
 メイベルの疑問に、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が応じた。
「大丈夫かなー? クリスのことだから、甘いものは移動中につまみ食いしちゃってそうだけど……」
「さすがにこういうときですから、大丈夫だと思いますよぉ」
 特に、クリスタル・フィーアは甘いものに目がない。本人にとっても、ここで手伝うのは苦痛だろう。彼女達はそれぞれの能力のこともあるため、自分達から手間の掛かる作業を請け負ったとのことだ。
 もっとも、クリスタルの場合は力仕事という柄でもないため、連絡役として往復しているのだが。
「それぞれが出来ることを、ですね。早く海京の皆さんが元気になれように精一杯やりましょう」
 ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)が力付けてきた。
 ちょうど今、古代都市では多くの人が戦っている。彼らが帰ってくる場所であるこの街を、少しでもいい状態に戻しておきたい。最後の戦いを終えた後、ゆっくりと休むことが出来るように。