空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

リアクション公開中!

七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「火の回りが早いわね。こうなったらツカサはフラグを、ウォーデンは逃げ道を!」
 狼のゲリとフレキが集めてきた動物たちに囲まれて、なんだかちょっと楽しそうにシオン・エヴァンジェリウスが言った。
「任せておけ」
 ウォーデン・オーディルーロキが、火天魔弓ガーンデーヴァを放った。炎の衝撃波が炎の壁の一部を吹き飛ばし、脱出路への道を穿った。一気に焼かれた道を、シオン・エヴァンジェリウスが杖の一振りで凍らせる。
「さあ、早く逃げるのじゃ」
 ウォーデン・オーディルーロキが、ゲリとフレキに通訳させて、動物たちを逃がす。だが、背後に迫ってきている炎が、動物たちが逃げ切る前に襲いかかろうとしていた。
「もう、ツカサったら何してるのよ。ミスティ先生を使わないの? 一人でできないんだったら……」
 そう言うと、シオン・エヴァンジェリウスが変身携帯たるたろすに手をかけた。
「うわ、それを使われるくらいなら、自分で変身します!」
 強制的に変身させられてたまるかと、月詠司が観念した。
「かすまえかでこど、てっすありし、すでょじうそうほまなりしぱもぅど」
 呪文を唱える月詠司の姿が光につつまれた。ボンと弾けるようにして着ていた服が粉々になって飛び散る。急いで前に回ろうとしたシオン・エヴァンジェリウスであったが、眩しくて果たせなかった。その間に、身体にぴちぴちのレオタードが月詠司の身体をつつみ込み、ニョキッと片膝をあげた足の動きに合わせて、ふわりと半透明の虹色スカートが腰をつつんだ。むきだしの肩にも薄いケープが、大きく開いた胸元を隠すように覆い被さる。頭には魔女っ子帽子が現れ、その左右にツインテールのようにしゅるんとピンクのリボンが結ばれ、腰の後ろにも大きな青いリボンがちょうちょ結びを作りあげた。
「しくしくしく……魔法装女……しくしくしく……しくしくしく」
「ええいうっとうしいわ、しゃきっとせんか!」
 くずぐずと名乗りをあげられない月詠司を、ウォーデン・オーディルーロキが後ろから蹴っ飛ばした。その勢いで、手の中に現れたチェンソー型のミスティ先生が起動する。
「わーん、もうどうにでもなれー。ミスティ先生きーっく!!」
 そう言いながら、月詠司がミスティ先生を振り回して周囲の炎を切り裂いていった。激しいチェンソーの回転に、あっと言うのに炎が噴き消されていく。ただ、それってどっちかというとキックではなくチョップのような……。まあ、気にしないでおこう。
 
    ★    ★    ★
 
 鳴り響くチェンソーの音に呼応するように、ここでもチェンソーが氷を纏いながら唸りをあげていた。
「それにしても、こんな大規模な焼き討ちを考えた奴って何者だよ」
 縦横無尽にチェンソーを振り回して燃えている草や木を粉砕しながら九條 静佳(くじょう・しずか)が言った。
「違います、これって、多分焚書です。誰かが、イルミンスールの森ごと世界樹を焼いて、すべての禁書を焚書するつもりなのです」
 魔道書である鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)が、ガタブルしながら叫んだ。
「そんなことあるわけないだろう。これは、りっぱな焼き討ちだよ、焼・き・討・ち」
「違います、焚書に決まってます。ああ、恐ろしい、恐ろしい」
「焼き討ち!」
「焚書!」
「ええい、二人共いいかげんにしなさいよ!」
 不毛な言い合いに、伏見 明子(ふしみ・めいこ)がキレて怒鳴った。
「さっさと火を消す。くずぐずしていたら、このあたりの原住民が死んじゃうかもしれないでしょうが」
「原住民って……」
「モヒカンの一人や二人ぐらいいるかもしれないじゃない」
 いったい何が住んでいると思っているんだという顔の九條静佳に、伏見明子が意味のない自信を込めて答えた。
「そんな、モヒカンがこんな所にいるはずがないで……」
 そう鬼一法眼著六韜が言ったときだった。炎の中から、モヒカンの一団が駆け込んできた。
「ホントにモヒカン!?」
 鬼一法眼著六韜がちょっとびっくりする。だが、そのモヒカンはたちはすでに風前の灯火であった。
「うぎゃあああ、俺たちのモヒカンが燃える、燃えてなくなっちまう!!」
 まさに人間蝋燭となりかけたモヒカンたちが悲鳴をあげて伏見明子の周りを走り回った。
「えーい、うっとうしい!!」
 躊躇なく、伏見明子が氷雪比翼を広げて絶零斬を放った。あわてて九條静佳が英傑の覇気で自分と鬼一法眼著六韜を守ったものの、モヒカンたちは全員かちんこちんの氷つげにされてしまった。
「あら、よく見たら、こいつら夜露死苦荘の受験生共じゃない。最近姿が見えないと思ったら、こんな所に逃げ込んでいただなんて。やっと捕まえたわ、さあ、夏休みの宿題忘れたつけはきっちりと払ってもらうわよ」
 そう言うと、伏見明子は火事の燃え残りでモヒカンたちを溶かし始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「よし、このあたりだな。綺雲さん、頼んだぜ」
 希龍千里の運転する小型飛空艇から炎の上に散水しながら久我浩一が頼んだ。下から噴き上げてくる熱気は半端ないが、心頭滅却すれば火もまた涼し、希龍千里姐さんの方は涼しい顔である。
「分かったのだ。ゆけ、冷凍ビィィィィーム!」
 タイミングを合わせて綺雲菜織が不知火の冷凍ビームを放った。冷却された大気が、久我浩一の撒いた水を凍らせ、炎も消し去っていった。
 冷凍ビームは冷たい光線などと言うとなんだか勘違いしそうだが、その実体はパラミタの魔法とレーザー冷却を融合応用したものである。物理学では熱の正体は分子振動であるため、その運動エネルギーに相当するエネルギーを逆ベクトルから与えてやればその振動はどんどん小さくなっていく。もし分子が静止してしまえば、それは絶対0度ということになる。これに基づいた武器が冷凍ビームである。その効果は、大気中の分子の運動を低下させ、そこに含まれる水分を急速に冷却する。
 久我浩一が霧状にもってきた水を散布したため、冷凍ビームの効果は倍加され、あっという間に炎を消していった。
 
    ★    ★    ★
 
「歯がゆいものであるな」
 頭上を飛び交うミスファーンとジーナ・ユキノシタを見て、ガイアス・ミスファーンが悔しそうにつぶやいた。
 未だドラゴニュートである彼には、まだミスファーンのような力はない。
 その力ゆえに、ミスファーンから足手まといとされたジーナ・ユキノシタが騎乗を拒否されかかったようだが、強い彼女の願いでなんとか事なきを得たようだ。今は、ジーナ・ユキノシタを乗せたミスファーンがその力を遺憾なく発揮して延焼を防ぐ防火帯を作りのばしている。これで、この場所以上に炎が広がることもないだろう。
 だが、だとしたら、自分はなぜここにいるのだ?
 ガイアス・ミスファーンは自問せずにはいられなかった。
「ああ、こんな所にいた。手伝ってください。水源が見つかりそうなんですが、私一人では先に進めなくて」
 ダウジングで消火に使える水源を探していたユイリ・ウインドリィが、ガイアス・ミスファーンに声をかけてきた。
「断る理由があろうか」
 ガイアス・ミスファーンはドラゴンアーツで道を切り開くと、ユイリ・ウインドリィが指示する方向へと進んでいった。
 やがて、彼らは湖に出た。
 以前、エメラルドがクロセル・ラインツァートたちと戦った湖だ。
「この水なら、消火に使えますね」
 さっそくユイリ・ウインドリィが、ジーナ・ユキノシタに湖の存在を携帯で連絡した。
 その間に湖の周囲を調べていたガイアス・ミスファーンは、地面に落ちている金属片を見つけた。ごく小さいものだが、人工物だ。
「なぜこんな物が?」
 何かの手がかりになるかもしれないと、ガイアス・ミスファーンはその小さな破片をサイコメトリしてみることにした。
 
 ――それでしたら、この霧を使って調べるとしましょう。愚弟にも手伝いさせますので、すぐに遺跡の起動方法も分かると思いますよ。霧、水、このチャルチーにとって、これほど使い勝手のいい物がありましょうか。ちょうど、キラーラビットを改造したアトラウアも完成したことですし、大丈夫ですわ。
 
「なんだ、この女の子のイメージは。酷く断片的ではあるが……。遺跡とは……。そうか、この火事はそのための……。では、この火事の中央に何かがあるのだな。これは、ジーナにも知らせなければ!」
 ガイアス・ミスファーンは、先ほどまでの悩みも忘れて、まだジーナ・ユキノシタと話しているユイリ・ウインドリィの所へと駆け寄っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「巨大マナ様ー、けちくさいことしないでぱあっといきましょう。消火剤祭りです。ささ、ぱあーっと、ぱあーっと」
 武官たちと共に地上に降りたクロセル・ラインツァートが、空から消火剤を撒いている巨大マナ様にむかって叫んだ。それに応えて、かかえるようにして持っていたコンテナにゴム手袋を填めた手を突っ込んで、巨大マナ様がつかみ取った消火剤をばっばっと炎にむかって投げつけていった。ぱっと白い粉が待っていったん炎が消える。
「今です、みなさん!」
 炎が消えたのを見計らって、クロセル・ラインツァートが武官たちに声をかけた。すぐに武官たちが氷術で、火の消えた部分を凍らせて完全消火していく。こうしないと、火種が残っていたら再燃してしまうからだ。
 消火剤で着ぐるみパジャマを真っ白にしながら、巨大マナ様がどんどん撒いて火を消していく。だが、景気よすぎて、消火剤はすぐになくなってしまった。
「仕方ありません。後は防火帯で防ぎましょう。巨大マナ様、お願いします」
 クロセル・ラインツァートが言うと、巨大マナ様がひとかかえもある斬龍刀を取り出して、トントントントントンと景気よく木々を刻み始めた。その姿は、まるで朝のお味噌汁用の大根を刻むお母さんのようだ。
「では、こちらは、巨大マナ様が切った木材を、火が燃え移らない所に運びましょう。ああ、ちゃんと整理して後で運び出せるようにしてくださいね。そうそう、綺麗に焼けて炭になった物があったら、それも集めておいてください。後で雪だるま印の薪と備長炭というブランドでネット通販を行いますので」
 こんなときにも商魂たくましいクロセル・ラインツァートであった。