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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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●ミスティルテイン騎士団本部

「なんとか、メニエス・レインを教頭から降ろす案は纏まりそうだ。しかし、教頭職を廃することは難しいだろう。
 教頭職には、我らミスティルテイン騎士団の専制を防ぐ意味合いもある。元の木阿弥にしてしまっては、いずれまたホーリーアスティン騎士団のような存在を生むことになるだろう」
「そうですよね……。私も、教頭職を廃することは難しいと考えています。
 あの……本当に、私が新しい教頭に赴任しなくてはいけないのでしょうか」
 ミスティルテイン騎士団の一室にて、現状を伝えるノルベルト・ワルプルギスに、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が尋ねる。彼女は先日、ノルベルトから直々に「次の教頭になってほしい」と伝えられていた。
「……教頭職が廃せない以上は、な。他に適当な人材は思いつかん」
「ですが、今回の騒動でイルミンスール生にEMUに対する不信感が広がっていると思われます。事実イルミンスールでは、EMUの影響を切り離そうという動きも見られていると、ルーレンさんから先程連絡がありました」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)の発言に、フレデリカが「そうなの?」という顔をし、ルイーザが黙っていたことを申し訳ないような顔をして、言葉を続ける。
「このような状況で、一介の生徒に過ぎないフレデリカを教頭職の後任に推すのは、政治色が露骨で余計にイルミンスールとEMUの乖離を招きかねません。そもそも教頭職が設立された裏には、『校長先生だけでは頼りないので補佐が必要』という意見があったはずです。この役割を満たす組織であれば、何も教頭職である必要はないはずです」
「……具体的には?」
 ノルベルトの促す言葉に、フレデリカが答える。
「はい。代替案として『イルミンスール生徒会』を設立します。生徒会には現在の教頭職の代行を担ってもらいます」
 つまり、『教頭職』という枠は存在するが、その枠に収まる人物は一人である必要はない、というものである。それに生徒会の方が、『生徒』には馴染みがいいだろうというのもある。
「ただその場合、生徒会発足まで空白期間が生じるため、何らかの方法で空白期間を埋める必要があるだろう。フレデリカが教頭として赴任した場合に比べ、EMU外部の意見が入りやすくなり、イルミンスールに対するEMUの影響力が低下する懸念もある。
 一方新教頭赴任案は、まずEMU議会の承認がすんなりと得られると思えない。また、特定の個人に強力な権力を持たせると、今回の大ババ様のようにその個人に何らかの問題があった場合に混乱が生じる。
 双方の案に一長一短と言えるか」
 グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)が双方の利点欠点を纏め、実質二つの案に絞られる。
「ふむ……ルイーザ君の言うEMUへの不信感があるのならば、我々は今後しばらくの間、鳴りを潜めるべきなのかもしれぬな」
「しかし、それでは他の議員が黙っていないだろう」
 グリューエントの問いに、そうでもない、とノルベルトが続ける。
「ホーリーアスティンの件が、議員たちには相当堪えたようでな。何処の馬の骨とも知れぬ結社に手を貸して滅ぼされるよりは、という理由でミスティルテイン傘下に加わろうとしている。暫くの間は一所に纏まるだろう。
 だがいずれは、一党独裁体制を解散する時が来るだろう。その時は新党を立ち上げてもらい、幅広く意見を取り込めるようにする。……ああ、これは私の意見ではない。君たちの同胞、確か、ダイチ、と言ったかな、彼の提案だ」
 これまで協力してくれた者の名を聞いて、フレデリカがほっ、と息を吐く。ホーリーアスティンがもたらした混乱で連絡が取れずにいたが、無事だったようだ。

「……ええ、確かにホーリーアスティンは自壊という形で、消滅していました。
 俺の方で交流のある議員に連絡を取ってみましたが、一様に怯えていますね。自分たちもホーリーアスティンに巻き込まれてしまうのではないか、と」
 志位 大地(しい・だいち)が、ホーリーアスティン騎士団の本部が燃えているという話の裏付けを取った後、これまでに行なってきた講演でパイプを作った議員の様子を調べ、ノルベルトに伝える。
『ああ、こちらにも救済を求める議員が接触を図っている。おかげでEMUは一つに纏まりそうだがな』
「なるほど。……ですがそれでは、EMUが一党独裁のような形になってしまうのでは?
 一連の騒動も、元はといえばミスティルテイン騎士団の専横が原因であったはずです」
 フレデリカを通じて信任してもらった身であることを理解しつつ、大地はノルベルトにとっては耳の痛い話を切り出す。ここで言わなければ、再び同じような問題にイルミンスールは振り回されることになる。今の状況から考えて、二度同じことが起きればもう取り返しがつかなくなるだろう。
『……耳の痛い話だが、君の言う通りだろう。
 私ではよい解決策が思い付かない。ここは君の意見を聞いてみたい』
 ノルベルトに言われて、大地は頭にあった考えを告げる。言うかどうかは迷っていたが、当主自ら言えと言っているのだからいいだろう、と思った。
「ミスティルテインの息の比較的かかっていない、無所属の農業従事者を支持層に持つ議員を集めて、新党を立ち上げてもらいます。
 ミスティルテインがほぼ過半数だけど過半数ではなく、議題ごとに内容の妥当さで無所属をある程度取り込めば可決される、という状態を作り上げるのです」
 暫くの間、沈黙が続く。どうだ、どうか、と反芻する大地に、ノルベルトの声が響く。
『……分かった。検討しよう。しかし今しばらくの間は、混乱を打開するためにもミスティルテイン騎士団の下に一つ集まる形になるだろう。
 また、その間は鳴りを潜める必要があるだろう。EMUとイルミンスールの間には、深い溝が出来てしまった』
「それは……ええ、そうですね」
 嘘を言っても仕方ない、大地は同意する。イルミンスール生徒の中には、EMUなんなのさ、という思いの者が少なからずいる。
『それについては、これからフレデリカ君と話を進めていくことにするよ。
 有意義な意見をありがとう。くれぐれも気をつけてくれ』
 ノルベルトからの通信が切れ、大地はふぅ、と大きく息を吐いて、自分が発した言葉の影響を考え始める――。

「……つまり、EMUの体制が整うまでは、イルミンスールは一時的に生徒たちの運営に委ねられることになるのですね?」
 話を纏めるように告げたフレデリカに、ノルベルトが頷く。
「ああ、そうだ。だがくれぐれも留意してくれ。生徒たちだけで全てを決めるというのは、途方も無い苦労だ。何か問題が発生しても、公には我々は力を貸せなくなる。君たちで考え、君たちで決定しなくてはならないのだ」
 ノルベルトの言葉を、フレデリカ一行は重く受け止める。もしかしたら教頭職よりも面倒な事になるかも知れない。だがもし、生徒たちがイルミンスールの今後の方針に関わるようになることは、イルミンスールの新時代の幕開けとも言えるかも知れない。
「……全て元通り、にはならないんでしょうね。だったら、生徒会という新しい場で頑張る……」
 自分に言い聞かせるように呟くフレデリカ。

 こうしてイルミンスールには、教頭職の代わりを担う、生徒たちによる運営組織の発足が提案されたのだった――。