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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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 出撃準備を終えた『魔王』の前には、リンネとモップス・ベアー(もっぷす・べあー)、そして博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)コード・エクイテス(こーど・えくいてす)天ヶ石 藍子(あまがせき・らんこ)の姿があった。
「……行きましょう、リンネさん。知っていて選択しないのと、知らないで選択出来ないのでは大きな違いがある……。
 未知の部分は、なるべく調べておくに越したことはありません」
「うん、そうだね……。この子にまだ隠された力があって、その力がみんなの役に立てるなら……私は、見つけてあげたい」
 告げるリンネを前にして、博季が少し間を置いて、リンネを真っ直ぐ見て口を開く。
「それに……命より大切なリンネさんが乗っているんです。
 僕だってこいつの事知っておかないと、安心してリンネさんを乗せておけませんから」
 その言葉に幽綺子と藍子、コードがそれぞれ微笑み、リンネが頬を染めて博季に身を寄せる。
「博季くん……!」
「そろそろ行くんだな。早くしないと何が起きるか分からないんだな」
「も、モップス! 空気読むとか出来ないの!?」
「ボクが言わなかったらずっとそのままなんだな」
「あら、私はしっかり突っ込むつもりだったわよ?」

 そうして、リンネとモップス、博季と幽綺子が『魔王』に乗り込み、藍子とコードが随伴する形で、一行はクリフォトへと向かう――。

「……で? モップス、当てはあるの?」
「ないんだな。この機体がクリフォトに近付けば、何かしらの反応があると思った、それだけなんだな」
「あらあら、随分と荒っぽいわね」
「……ですが、結果として的を得ていたようですよ。先程からこいつの魔力値が少しずつ高まっている。
 やっぱりここには、何かがあるんだ」
「もっと近付く?」
「出来るならこの中に入りたいんだな」
「それは……どうかしら。下手したら魔界に飛ばされてしまうかも知れないわよ」
「……待って下さい! クリフォトへ多数の戦艦が迫っています!
 先に建造された『I2セイバー』と大型飛空艇です!」

 博季がレーダーに捉えたのは、戦況がイルミンスールに有利になったと判断されたことによる、皐月率いる艦隊の一斉爆撃の様子であった。

「大型飛空艇からの全員の避難を確認した。残る飛空艇には援護をさせている。
 ……皐月、最後に確認する。本当にいいんだな?」
 飛空艇の動向を確認し終えたマルクスが、皐月に意思を問う。
「ああ。……どうせ戦争が終わった時には、全艦破壊するつもりだったんだ。
 それに、これが成功すればイルミンスールへの被害を減らせる。世界樹同士が戦うってのも、何かおかしいしな」
 そう言って、皐月が『爆薬を満載した大型飛空艇による特攻』そして『I2セイバーによる、ベルゼビュート城への道を拓く』を実行へと移す。大型飛空艇は既に自動操縦プログラムが作動しており、搭乗員が道連れ、ということはない。
「おまえたちも、よくここまで付き合ってくれた。後はオレたちに任せて、おまえたちは避難するんだ」
「艦長――」
「それ以上は言うな。誰かが残って操縦しなきゃ、目的は果たせない。
 ……死ぬつもりはない。さあ行け、時間がない」
 今は魔族の攻勢が緩んでいるが、いつ勢力を取り戻すか分からない。早急に本拠地への道を拓き、決着をつける必要がある。
「……ご武運を!!」
 どうあっても退くつもりがないと見た搭乗員が、皐月とマルクスの無事を願いながら避難用の飛空艇へと避難していく。最後の搭乗員が避難を終え、避難を完了した旨の通信が送られると、皐月はふぅ、と一息吐き、操舵を握る。
「そんじゃ、行きますか」
 何でもない風を装って、そして『I2セイバー』はゆっくりと前進を始める――。


「精霊長の皆さんにお聞きしたいのですが……。
 『先代イルミンスールも数千〜数万年で枯れ、このサイクルは何度か繰り返されている』というのを聞きました。
 これについて何かご存知でしょうか?」
 森への影響を最小限に食い止めるため、五精霊に協力を願いに来た関谷 未憂(せきや・みゆう)は、前々から気になっていた点を尋ねる。
「えっ? そんなのあったっけ?」
「……今回ばかりは、カヤノの発言は的を得ている。というより俺も同じ思いだ。
 だが現に、精霊の知識の中には確かに存在している。非常に不可解な現象だが、ともかく存在している以上、事実であった、と言う他ないな」
 ケイオースがそのように答える、結局『何が枯れる原因だったのか』『枯れたことによってどんな影響が及んだか』ということは明らかにされなかった。
「リングへの加護は終わりましたわ。……ご無理はなさらぬよう。
 プリム、あなたがしっかりと支えてあげるのですよ」
「……はい……セイラン様……」
 五精霊がそれぞれに加護を施したリングを受け取って、プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)がこくり、と頷く。
「それじゃ行こっかー」
 リン・リーファ(りん・りーふぁ)の言葉に未憂とプリムが同意し、一行は五精霊にお礼を言って、砦を後にしクリフォトへと向かう――。


 一行がクリフォト付近へ辿り着いた時には、既にエリザベートはその場を後にしていた。イルミンスールへ戻ったとの話を耳にして、リンが思い返すように口を開く。
「校長せんせー、前にあたし、言ったよね。『一人じゃ無理なら、みんなで一緒にがんばろー』ってさ。
 別に嫌いにはならないと思うんだよねー」
 エリザベートの『誰か一人がいればいい』という態度や言葉に対しての発言でもあったのだが、どうやら未憂たちが来る前に同じような思いを抱いた生徒との間で色々あったらしいことも耳にして、少しは分かってくれたのかな、と思う。それよりも気になったのは、イルミンスール側が優勢を築いたことにより、クリフォトへの総攻撃が始まろうとしている点だった。総攻撃自体はエリザベートの命令でもあったため、直訴して取り消す事も出来ないだろう。
「魔族さん、わーって出てくるんじゃないかな? そうなったら森に被害が出ちゃうかも!」
「……急ぎましょう。私達でクリフォトを囲んで五芒星を描くの。クリフォトと魔族が活動しにくくなるように」
「……うん……」
 一行は急ぎ、魔法学校生徒らしいやり方で森を守り、魔族を撃退するべく行動を起こす。未憂がファイアーリング、リンがシルフィーリング、プリムがブライトリング、ペットの二匹がアイシクルリングとカオティックリングを持ち(まあ、二匹に括りつけておく程度だが)、クリフォトを囲んで五つの頂点の位置にそれぞれが移動する。
(校長先生、世界樹イルミンスールが他の世界樹を攻撃すれば、コーラルネットワークに抵触するのでは?
 もしそれを分かった上での行動なら……私は、そんなことはさせない。今のイルミンスールを、私は守る)
 決意を胸に、未憂がリングに魔力を込めれば、レーザーポインターのように赤い、魔力の篭った線が出現する。五芒星の描き方を聞いた五精霊の面々が、『敵陣のど真ん中に居続けるのはあまりに危険過ぎる』ということで、魔力を込めた線で地面をなぞり、五本の線を結ぶことで同様の効果を得られるようにした(このために時間がかかった)。五名が今自分たちのいる場所から、一個飛びの頂点へ向けて飛ぶ際にリングから出る魔力で地面をなぞれば、五芒星が描けることになる。問題はペットが請け負う部分だが、それは未憂とリンがフォローすることになっていた。自分たちが一本描く前に、たとえ少しでも進んでいれば、時間の短縮になる。
(あまり時間は残ってないみたい……急がなきゃ)
 遠くから迫り来る船団を見、未憂は箒に乗って線を描き始める――。

「リンネ、すぐにでもここを離れるんだな。ボクたちも爆撃に巻き込まれるんだな」
 大型飛空艇による特攻が行われることを通信を通して確認したモップスが、リンネに提言する。
「うん――えっ? ちょっと待って、今モニターに人影が――」
 言いながらリンネが気になった部分へモニターを移すと、本を携えて詠唱を行なっている様子のイルミンスール生、未憂の姿が写った。
「こんな所で一体何を――」
「論じている場合ではないわ。すぐに避難するように伝えないと」
 『魔王』が移動し、風圧に気をつけながら未憂たちの傍へ降り立つ。
「未憂ちゃん、何してるの!? ここは危ないよ、早く逃げて!」
「分かっています! でも、この結界を強化しないと……!」
 リンネの警告を聞きつつ、未憂とリン、プリムはリングの魔力と自身の魔力を結界へと注ぐ。決着がつくまで持つだけの魔力を……その思いで懸命に魔力を注ぎ込んだ結果、全ての作業が完成した時には、大型飛空艇はクリフォトの目と鼻の先まで迫っていた。
「今から逃げてももう間に合わないんだな!」
「……それなら!」
 リンネが『魔王』を、未憂たちの前に立たせる。逃げられないなら、ここで爆撃の影響を受け切るしかない。
「ムチャなんだな! ボクたちもただじゃすまないんだな!」
「無茶でも何でもやるっきゃないでしょ!? 私はみんなのリーダーなんだよ? リーダーがみんなを置いて先に逃げるなんて出来るわけないじゃない! リーダーがみんなを守るのは、当たり前でしょ!」
「でも――」
 なおも食い下がろうとするモップスを止め、博季がリンネに告げる。
「リンネさん、いつだったか僕がお話したこと、覚えてますか?
 『特別な人なんかどこにも居ない。誰もが皆、自分に出来る『当たり前』を、『当たり前』にこなしているだけなんだ』。
 だから、リンネさんはリンネさんの『当たり前』を貫き通せばいい。……安心して。例え何があっても、リンネさんは僕が守ります。何があっても、傷一つつけさせやしませんから。
 ……行こう、リンネさん」
「博季くん……うんっ!」
「……そこまで言うなら、ボクも付き合うしかないんだな。苦労が二倍に増えたようなものなんだな」
「ふふ、それは合ってるかしらね」
 モップスの愚痴に幽綺子が微笑んで答え、博季と共に『魔王』の魔力を限界まで引き出せるよう手配する。リンネがその魔力を障壁として展開し、生じる爆撃の影響を受け止めんとする。
(お願い、みんなを守って!)
 『魔王』に呼びかけるリンネ、そして爆撃が敢行される――。

――我、真の名を“エールライン”――

「お願い、エールライン! みんなを守って!」