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話をしましょう ~はばたきの日~

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話をしましょう ~はばたきの日~

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「ええっと、こっちかな。んーと……」
 ライナは迷子の幼子の手を引いて、救護・迷子センターに向かおうとしていた。
 明るい時間なら、飛んでしまえば自分一人ならば迷子にはならないけれど。
 泣き出しそうな小さな女の子を連れていては、飛ぶこともできなくて。
 お外はどんどん暗くなり、足下も良く見えなくなってきて、どうしようかと困っていた。
「さて、学校の校舎があっち。あっちには騎士の橋、そしてあっちには喫茶店。さて、今は何処でしょう?」
 突如地図を見せながら、話しかけてきた少女がいた……巡回していた円だ。
「んと、このあたり、かな。でも、ひとがたくさんいて、なかなかまえにすすめないの」
 不安そうに言って、ライナは円の服をきゅっと掴んだ。
 彼女が白百合団員だってことは知っているから。
「うんそっか、そうだね。丁度ボクも迷子、迷子になっちゃって。迷子センター連れて行ってよ」
 自分が先頭を歩けば、道を開けてあげることができるから。
 円はそう言って、2人の前に出た。
「どっちに行けばいい?」
「んーと、あっち。あっちに鈴子おねぇちゃんたちいるの!」
 そしてライナの指差す方へと、歩いていく。

 それから数分後。
 無事に、センターに迷子を届けたライナは、1人で騎士の橋に戻ろう辺りを見回した。
「めじるし、あるから。とおまわりしてもいけるっ」
 空にナコトが召喚したフェニックスが飛んでいた。
『ようこそ、ヴァイシャリーへ』
 フェニックスの炎と、魔法の光を放ちながら演舞して、ナコトはそんな言葉を空に描いていた。
 暗い空を飛んだら危ないけれど。目印があるから大丈夫。
 ライナはその文字を目印に、騎士の橋へと戻っていった。

○     ○     ○


「暗くなってきたな。けど、祭りはまだまだこれからだよな!」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は、ゴンドラの中で団子を食べていた。
 その他、手に下げた袋の中には、店舗や屋台で買った様々な食べ物が入っている。
「この団子はなかなか上手かった。こっちのも団子みたいだが、中にタコが入ってやがる」
 団子を食べた後は、その串でたこ焼きを刺して食べて。
 林檎飴や、綿菓子なんかもぱくぱくむしゃむしゃ食べていく。
「一応巡回中なんだけどな〜」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がくすりと笑みを浮かべる。
 その隣には、一緒に巡回を行ていた神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の姿もあった。
「巡回に支障はだしてない。本格的に喰うのはこれからだしな、っと」
 カルキノスは2人より先に、ゴンドラから飛び降りて、岸へと着地する。
「土産買ってくるぜー」
 そう言って、手を振ると街中へと戻っていく。
 ルカルカと優子はくすりと微笑み合って、ゴンドラを下りて。
 その先にある建物――百合園女学院の校舎へと向かって行った。

 校舎の屋上へ出て、手すりにつかまりながらルカルカと優子は並んで街を見る。
 賑やかな音楽も声も、ここまで響いてくる。
「楽しい祭りでしたね」
 綿あめを手に、ルカルカは優子に微笑みかけた。
「楽しんでもらえて良かった。といっても、私はほとんど準備に携われなかったんだけれど」
「一緒に、教導で任務に当たってたからね」
 言って、笑い合う。
「本音を言うと、教導に残ってほしい気持ちもあったりして」
 笑みを浮かべながら、ルカルカは言う。
「なんていうか……合ってると思うの。あ、戦争がってんじゃないわよ」
「うん……そうかもしれない」
 優子はそう答えて、苦笑気味の笑みを浮かべる。
「うまく言えないけれど」
 ルカルカは少し考えて、こう言葉を続けた。
「優子さんならヘタな軍人より軍人できちゃうと思ったんだ」
 街に目を向けて。
 楽しむ人々を微笑ましげに見守りながら。
「ずっと一緒にやていけたらいいのにな……って」
 ルカルカはしみじみとそう言うのだった。
「自分でも、なんだか百合園より教導団の方がしっくりくる気が最近してて。でも……」
 優子もまたヴァイシャリーを見下ろしながら。
「私の所属は、この街であるべきな気がするんだ。今は」
「うん、わかってる。私には私の、優子さんには優子さんの居場所があるもんね」
 ルカルカの寂しげな微笑みに、優子は頷いた。
「短いあいだだったけれど、楽しかった。有意義だったわ。一緒にやれたこと、やったこと、忘れない。ここに大切に取っておくね」
 ルカルカは自分の胸を指差した。
「うん。多分今後も長期で休みが取れる時には教導団に短期留学をさせてもらって、学ばせてもらうと思う。だから、これからもよろしく」
 微笑み合って、頷き合って。
 それからまた一緒に、ヴァイシャリーと人々を眺める。
 屋台で買った、綿菓子や、饅頭を一緒に食べながら――。

 パレードが終わった頃。ルカルカは手すりから身を起こす。
「留学、お疲れさまでした。隊長就任おめでとうございます」
 敬意をもってそう言って。
 鞄の中から長方形の箱を取り出した。
「これからもロイヤルガードの仲間として、よろしくお願いします」
 差し出したプレゼント箱の中には、万年筆が入っている。ルカルカの故郷である日本の伝統工芸品(越前漆器)だ。
 黒漆塗の太い万年筆に、螺鈿と沈金で白百合をあしらった物だった。
「ありがとう。長く大事に使わせてもらうよ」
 それから、優子もルカルカに。
「至らないところも多いかと思いますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします」
 と、頭を下げた。
 一緒に、この美しい街と。
 大切な国を守っていこうと。
 語り合わずとも互いの心を、感じあっていた。