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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

リアクション


【1】日日是鍛錬!……2


「下水、下水道で修行かぁ……。なんでこう……ピザが食べたくなるんだろうなぁ……
 下水道という空間は、時としてカワバンガ的な発想をよびおこすようだ。
 風森 巽(かぜもり・たつみ)は集中集中と雑念を振り払い、目の前の課題に意識を高める。
 前回修行したのが『三火遅延返脚』……となれば五行相生的には火生土を習得するべきか。
 パラパラと万勇拳秘伝書のコピーをめくった。
「お、それっぽいのが……なになに『舞蹴・河岸潰堤』……?」
 舞蹴・河岸潰堤。
 気を敵に打ち込んで、毎週毎週、一度出した歌詞(作品)の改訂作業でやる気を削がれる気分にさせる秘技だ。
「字面だと河岸潰して、堤作るイメージなんだがなぁ。まぁ相手の気の放出を塞ぐってことか」
 それにしても……とコピーに目を落とす。
GMに効果はバツグンが出そうな技だな。改訂とか再提出とかやり直しとか……
 そういうの聞きたくないです。
 ともあれ、巽はドロドロと澱んだ下水に足を踏み入れ修行を始めた。
 相手の気の流れを水の流れに例える。流れる汚水が気ならば、それを塞き止める性質の気を叩き込まねばならない。
 イメージは堤防だ。大きく広がった気が流れを阻むイメージを頭の中に構築する。
「よし、行くぞ……!」
 練り上げた気を脚に集中し、汚水を天高く蹴り上げる。
 気を帯びた水は舞い上がったところで静止した。しかし止められるのは一瞬、すぐに気は散ってしまう。
「もっとイメージを明確にしないと……」
 再度、蹴りを連続で繰り出す。
「もっともっと長く流れを止められるように……! もっともっと長く……!」
きたないよっ!
 不意に怒鳴りつけたのは、万勇拳の噂を聞いて訪ねてきた琳 鳳明(りん・ほうめい)だった。
「え、あの……?」
 気が付けば、彼女だけではなく他の門下生も眉を寄せてこっちを見ている。
 夢中になってて気が付かなかったが、汚水に蹴りを入れてる所為で、周りにきったない水が飛び散りまくっていた。
「す、すみません……。向こうの人が居ないところで練習します……」
「もう、大事な本に汚水がかかるところだったよぉ」
 鳳明は頬を膨らませた。その大事な本とは『コンロン武術百般』という古書、著者はなんとミャオ老師。
 シャンバラに来たばかりの時分、古本屋で手に入れたもので、彼女はこの本をとても気に入っているのだ。
「よ、よくそんな本を持っておるのぅ。40年前に自費出版で出した本じゃ」
「素晴らしい本でした。コンロンの武術体系がおもしろおかしく書かれてて……特に万勇拳が凄いんですよね」
「う、うむ……」
「コンロンを代表する流派って書いてありますし……あ、そうだ。本にサインしてください、老師!」
 自分で出した本なんだから、万勇拳贔屓なのは当たり前だが、鳳明は素直に「すげえ!」となってしまったようだ。
 早速、弟子入りした彼女は老師に手合わせの相手をお願いして、奥義の修行を始めた。
 剛拳の万勇拳にはめずらしい柔の技、それこそが投げ・極め・絞めを基本とする奥義『豪流旋蓮華』
 人智を超えた剛と剛がぶつかりあえば、どちらかも砕けるのは自明の理。
 ならばと編み出されたのが、剛の中にもしなやかさを併せ持つこの技。しなる鋼鉄は容易に砕けない。
「ミャオ老師と修練出来るなんて光栄です! よろしくお願いします!」
「うむ」
 互いの手首を静かに合わせた。
 この技の習得には柔軟な対応力が必要とされる。
 限られた部位で相手の力量、力の方向を見極め、相手の力に逆らわずコントロールする技術。
 超近距離で使用するこの技は、守りを崩して技へと持ち込むまでの細密な流れが重要なのだ。

 30分経過。

「あの、寝てませんか、老師……?」
「ふにゃふにゃ……ふにゃ? ね、寝とらん寝とらん……、寝たフリをしておぬしの油断を誘っておったのじゃ」
「……ほんとですかぁ?」
 老師にとっても地味な修行だったようである。
「まぁ基礎はこれぐらいいいじゃろう。次はもっと密接状態からの修練だ」
 老師はおもむろに抱きついた。鳳明の胸にグッと頭を押し付ける。
「うわっ、ちょっと変な所触ってません!?」
「人聞きの悪いことを言うな。敵は箇所を選んで組み伏せようとはしてこんのじゃぞ」
「それはそうですけど……」
それにわしはメス猫にしか興味はない

 ・
 ・
 ・

「店での戦闘は見事なものだったが、随分騒々しい流派のようだな……」
 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は呆れた顔でそうこぼした。
 中華飯店『赤猫娘々』の戦いで敗北を帰してしまった彼は、更なる高みへ至るため万勇拳で修練に励むことにした。
 特に目に焼き付いているのは、老師の見せた万勇拳最大奥義『壊人拳』だ。
「あの速さの拳を会得すれば俺の使う剣技、雲耀にも生かせるはず……」
 動きを思い出し、動作を1つ1つ模倣する。
 技には歴史がある。気の遠くなる歳月をかけ、洗練させた技の型はひとつの動作として完成されている。
 一朝一夕で身に付くものではない。しかし身につけるためには繰り返し模倣するしかない。
 繰り返し繰り返し積み重ねたものはやがて人真似ではなく己の動作になる。
 それを人は『身に付いた』とよぶのだ。
「はあああああっ!!」
 虚空に向かって連続突き、休む間もなく連続蹴り。
 闘気を全開にした状態で放つ技はあっという間に体力を奪っていった。
 しかしそれでもまだ老師の技の速度には及ばない。失われる体力を気力で支え、なおも煉は厳しい修練を続ける。
 だんだんと意識が遠のく……しかしそれに連れ、感覚は露滴る刃の如く研ぎすまされていくのを感じる。
(なんだこの感覚は……)
 その時、背後に迫る殺気を感じとった。
 振り返り様に拳を突き出す……するとその拳はこれまでよりも気が伴った剛拳となって放たれた。
「ほう、いい突きじゃ」
「じ、じいさん……」
 気配の主は老師、放たれた拳を掌で優しく包んで、微笑んでいる。
「今の感覚を忘れてはいかんぞ。それこそが我が万勇拳の奥義の構え『万勇陣』じゃ」
「じ……いや老師、なんだそいつは?」
「肉体の脱力と精神の鋭敏さの調和から形成される構えじゃ」
 身体に無駄な力が入っていないため、気は隅々にまで行き渡る。
 そして研ぎすまされた精神は敵の動きを知覚し、対する自分の反応を素早く選択することを可能とする。
「ということは、奥義の一端を会得出来たってことか……」
 ふらっと壁にもたれた。
「そこまで自分を追い込まずにこの構えをとれれば、の話じゃが。ともあれ、しばらく休むのじゃ」