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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【3】SUPER【3】


「見付けたぞ、おまえが大文字勇作か!」
 次に研究室を訪ねてきたのは結城 奈津(ゆうき・なつ)だった。
 レスラーマスクにレスラー衣装、どう見ても普通ではない出で立ちの彼女に、大文字は目をぱちくりさせた。
「な、なんだ、お前さん、その格好は……。プロレス同好会なら体育館で……」
「”イチに努力、二に根性、サンシがなくてあとは気合いだ!”とか口癖のように言ってるそうじゃないか。奇遇だね。あたしの座右の銘も『気合・気力・希望・闘魂』なんだ。ここは一つ、その言葉が本当か。見極めさせてもらうぜ!」
「なんだかわからんが熱い奴だ……!」
 マスクから覗く奈津の瞳に宿る闘魂、それは大文字の瞳に宿る光と同じだった。
「さぁ語り合おうぜ。口よりもものを言う、この拳で……あれ?」
 気合い万全の奈津の前に、ハーティオンとヴァディーシャが立ちはだかった。
「おまえが世間を騒がす怪事件の犯人か! 白昼堂々、神聖な学び舎に入り込むとはなんたる厚顔無恥! 許せん!」
「先生はボクが守る! ブラスターフィストぉ!!」
 ヴァディーシャの腕に光るブラスターフィスト(手甲)から破壊光線が発射された。
「うわああああっ!?」
 慌てて奈津がかわすと、後ろの壁に光線は直撃。爆発が起こった。
「勇心剣ッ!!」
 ハーティオンの胸のハートクリスタルから、光輝く剣が飛び出した。
「流星一文字斬り!」
「うわあああああっ!! な、何すんだよ! あたしはただ先生と拳で語ろうと……」
「黙れ、悪党! この蒼空戦士ハーティオンがここにいる限り、大文字博士には指一本触れさせん!!」
「こ、これはプロレスじゃねぇ……シュートじゃねぇか、うわあああっ!!」

「大文字先生といえば、浪漫溢れるスーパーロボット理論だよね!」
 研究棟の廊下を進みながら、十七夜 リオ(かなき・りお)は興奮した様子で話していた。
「整備科で講師やってた時の講義は、まぁあれだったけど、現在の技術体系で実現できるかどうかは兎も角、作りたいものが見て分かる浪漫溢れる先生だったね。こっちもイコン技術を転用して宇宙船作りたい身だから、整備士としては別だけど、結構好きなんだよね、ああいう先生」
「ワタシも興味はある。けど実現性が低くいのは否めない。はっきり言えば、ゲームの設定には使えそう、という位」
 楽しそうなリオとは逆に、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)はクールだ。
「……う、まぁ現行技術じゃ確かにトンデモ理論かもしれないけど。でも、この先どんな技術革新があるか分らないし、実現出来ないなんて言い切れないよ。機晶技術やイコンだって、パラミタ出現前はトンデモ理論に含まれるだろ?」
「それは認める」
「発想とか着眼点とか別方向からの視点がブレイクスルーに繋がる事もあるし、それ自体が実現しなくても、途中で生まれた派生技術が別方向で開花する事もありえるからね。まぁ、整備っていうよりも、研究・開発分野の話になっちゃうから、整備科に居れなくなっちゃったんだろうけどさ」
「それも認める。けど、イコンのパイロットとしては、きちんと性能証明が取れたもの以外には乗りたいとは思わない」
「……厳しいな。大丈夫か、これから会いに行くってのに?」
「リオが興味を向けてる相手に悪印象を与えたくない。それに、空気ぐらいは読める」
 とその時、目の前を奈津がゴロゴロと転がってきた。
 なんだろう、と廊下を覗き込もうとした瞬間、破壊光線が目の前を横切る。
「わっ……、な、なんだ!?」
「クルセイダーめ、大人しくするですよ!」
「あたしはそんなダサいリングネームじゃない、バーニングドラゴンって言うカッコイイ名前が……」
 ドタバタと怒濤の勢いで通り抜けて行った。
「……何、今の?」
「さ、さあ、プロレス同好会かなんかじゃないか……?」

「超絶変形イコンとか、気合いで動かすイコンとか、やっぱスーパーロボットは男のロマンだよな!」
 研究棟の廊下を歩きながら、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)もまた目を輝かせていた。
 そんな彼をアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)は冷ややかな目で見ている。
「スーパーロボット理論ですか……。聞けば聞くほど現実的じゃありませんね」
「……現実的って。そういうんじゃないんだよ、スーパーロボットは。女の子にはわかりにくいもんなのかなぁ?」
「こんなにも心躍るものはないのにね」
 桂輔たちの後ろから、ふとミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)が声をかけた。
「やぁ、キミたちも大文字先生のところに行くところ?」
「そうだけど……」
「整備科から左遷されて普通科って面白いよねー。ボクもパイロット科では落ちこぼれてたから親近感感じちゃうな」
「いや、何だ、あんたのその格好?」
「ん?」
 ミルトは、小さいシルクハットにチョッキ、半ズボン。ネコ耳ネコ尻尾のゴシックパンク風の格好だ。ぷにぷにの肉球が可愛らしいネコの前足が、尖端に付いたステッキをくるくると回している。
「魔法少女ミルキーミルト、参上だよっ☆」
「……そう言えば、昼休みになんかの同好会が、魔法少女だかなんかの仲間を集めてたけど、その仲間か?」
「おお、よくわかったね。さっき魔法少女仮契約書ってのを貰ってきたんだ」
 後ろを振り返り、ペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)を呼ぶ。
 すると、角から恥ずかしそうに衣装を押さえたペルラが出てきた。彼女の魔法少女ドレスは体型よりも小さめで、見えそで見えないミニスカを必死に押さえて、胸の布を引っ張ってこぼれそうになる巨乳を隠していた。
「うお、エロぉ……!」
「………………」
 鼻血を押さえる桂輔を、氷のように冷たい目でアルマが見つめる。
「ねー、凄い似合ってるよね。なのに、凄く恥ずかしがっちゃってさ」
「な、なんでこんな衣装が小さいんですか……」
「違うよ。衣装が小さいんじゃなくて、ペルラの胸がおっきいんだよ。それはとてもいいことなんだよ」
「うう、て言うか、今変身する必要ないのに……」
「折角、魔法少女になったんだから、皆に見てもらわなくちゃね。ペルラも見てほしいでしょ」
 完全なるプレイである。
 とそこに、またもや奈津が突っ込んできた。
「どけどけどけどけーーーっ!!」
「ん?」
 次の瞬間、ハーティオンの一撃が、桂輔とミルトの間に叩き込まれた。
「うおおおおおおおおおっ!?」
「うわああああっ!!」
 咄嗟に直撃は避けられたが、二人は衝撃波で吹き飛ばされた。ハーティオンは気付かず、そのまま走り去って行く。
「あ、危ないじゃねーか! 気を付けろー!!」

「こっちよ、勇作さん……!」
「ま、雅香さん。落ち着いて。さっきの女の子はおそらく襲撃者じゃないと思うぞ……」
「いいえ、油断してはダメよ。敵はどんな手を使ってくるか……」
 気が付けばため口になっている。雅香は大文字の手を引き、事前に調べておいた逃走経路を走った。
 しかし、下に続く階段に差し掛かったその時、窓の前に人影が見えた。
「……初めまして、大文字勇作。君を待っていました」
「!?」
 窓枠に腰掛け、アイスの棒をくわえているのは、教導団憲兵科の凱 鼬瓏(がい・ゆうろん)だった。
「……そこで何をしているの?」
「アイスを食べながら、海京を騒がせる事件について考えを巡らせていたんですよ」
「?」
「ソーダ味にするか、青リンゴ味にするか、小一時間ほど悩みましたが……こう食べながら事件の事を考えていると犯人の名前の一文字が、天啓として当り棒に書かれているのに気付きました。大当たり……つまり”大”と」
 くわえていたアイスの棒を見せた。
「この事件に未来人が絡んでいるのなら、大文字……君が悪の秘密結社の大総統にでもなった未来もあるかもしれない。となればもう一人の大文字はパラレルワールドの大文字を捨て置くはずがない。『私よ。共にこの理不尽な社会に対して戦いを挑もう』とか勧誘してくるに違いありません。いきなり中学校時代の名前も覚えていない同級生が尋ねてきて反原発デモに参加しようとかいうくらい無茶ぶりな展開ですが、君のノリなら受け入れるかもしれません」
「……何の話だ、一体?」
 完全に夏の暑さにやられている鼬瓏の迷推理に、大文字はポリポリと頭を掻いた。
「何故、道を誤ったかを考えれば、良き伴侶と巡りあえず独身を貫き通した事に原因があると思います」
「余計なお世話だ!」
「ですから、私はあなたを良き未来へ導くため、君の妻となる人物を見繕おうと考えたのです」
「え、まさか……」
 大文字ははっとして、目の前にいる雅香に目をやった。
「君に相応しい相手。芸術的な自分の感性から言わせてもらえばそれは、女性として完成されたものではなく未完成だからこそ興味をそそる……幼児体型の遠藤寿子です!」
「!?」
「……勇作さん、ロリコンだったの?」
「は?」
「だ、ダメよ。あんな年端もいかない女の子に……き、鬼畜!」
「ち、違う! 雅香さん、ワシはどっちかと言えば、大人の色気のあるほうがタイプで……!」
「自分に素直になりなさい、大文字勇作! 教え子とデキちゃったなんて理想の展開でしょ……ぶほっ!?」
「ファイナル勇作パーーーーンチッ!!!」
 大文字の拳が鼬瓏の顔面をおもくそはり倒す。そしてそのまま鼬瓏は窓から転がり落ちていった。
「うわあああああああああ!!!」
「……まったく、あることないこと……いやないことばっかりだが、言いおってからに……!」
 そこに、校舎を逃げ回って一周してきた奈津が戻ってきた。
 大文字の背中にくっ付いて、彼を守っていたラブが大きな声で叫ぶ。
「きゃあああーーっ!! 大変だよぉ! 早く来てぇハーティオン!」
「に、逃げてください、博士!」
 廊下の奥でドタバタと走りながらハーティオンとヴァディーシャが叫んでいる。
 しかしそんな声には耳を貸さず、大文字は落ち着いて、奈津と対峙した。
「目を見ればわかる。この子は事件の犯人なんかではない。そんな卑劣な真似をする子ではない」
「……流石、話がわかるじゃねぇか。ようやく戦いのリングに上がれるな、さぁ二本の腕で雄弁に語ろうぜ!」
 奈津は嬉々として渾身の水平チョップを叩き込む。大文字は防御もせずその攻撃を受けた。
「ぬうううううううううう……!!」
「この受けの姿勢。やっぱりあんたはプロレスをわかってる人間だ。レスラーは受けてナンボだよな!」
「全力で挑んでくる人間には全力で受けきる、それが最大の礼儀だろうが! 君の力はそんなものか、来いっ!」
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」