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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【5】GURDIAN【4】


「なんなのぉ、あれぇ……」
「わかりません。未来のクルセイダーはあんなのも使ってはいませんでした……。初めて見る技術です」
 ポラリスとアウストラリアスは、繰り広げられるイコンとガーディアンの戦闘を見守っていた。
「あの時点では研究を続けても無意味だったからな。この時代ならばまだ使い道があると研究が再開されたものだ」
 クルセイダーは言った。
 けたたましい音を立てて研究棟の一部が崩れた。G3だ。叩き付けられた魂剛は満身創痍。噴き上がる煙は既に機体が限界を迎えている事を示している。ぎこちなく動く右手で魂剛はG3に手を伸ばす……しかし、
「!?」
 G3の巨大な口が魂剛の腕を食いちぎった。バリボリで耳障りな音を響かせ、腕を自らに取り込む。
 不意に、G3の顔が眼下にいるアウストラリアス達に向いた。
『ア、アウ……、アウストラリアス……!!』
 口元が真っ赤に灼熱し、熱線砲”メギドファイア”のチャージが始まった。
「あ、ア……アウストラリアス・ディフレク……」
「はう〜〜〜!! む、む、無理だよぉ〜〜! 早く逃げて! みんなも早くここから離れてぇぇ〜〜!!」
 ポラリスはアウストラリアスを引っ張って駆け出した。
 とその時だった。
「魔装転身! 征服型魔法少女・アレキサンダー☆イスカンダル!」
 G3のいる屋上に現れたイスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)は魔法少女に変身。
 ピンチに颯爽と駆けつけようと、生徒会の無線を傍受して機を窺っていたが、ようやくチャンスが回ってきた。
「我が覇道の前には小細工など無意味! テロリストなどマジカルゴルディアス・エレファントで蹂躙してくれるわ!」
 イスカはそう言うと、マジカルゴルディアス・エレファント……通称・ハンニバルの戦象で体当たりを仕掛ける。
 吹き飛ばされたG3は攻撃を中断。イスカはエクスカリバーを抜き払って、飛びかかった。
「アーサー王からかっぱらったこのエクスカリバーの斬れ味、とくと味わうがいい!」
 G3の頭を何度となく斬り付けるが、傷一つ与える事が出来ず、剣は弾かれる一方だった。
 イコンとは根本的に異なるガーディアンだが、通じる部分も幾つかある。例えば、イコンの装甲が機晶エネルギーでコーティングされているように、彼らの体表にはエネルギーコートが施されている。通常兵器ではダメージは通らない。
「むむむ……。しかし、こちらには切り札たるサーヴァント、クラス・イコンスレイヤーのレオ……じゃなかった、十音・円がいる!」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は象から飛び降り、身構えた。
「自律型魔法兵器『十音・円』参上!」
 説明しよう!
 自律型魔法兵器『十音・円』とは、アレキサンダー☆イスカンダルが使役するアイドル型使い魔だ! その性能は対イコン戦闘に特化しており、多く対イコン兵装を操るだけでなく、歌いながら殴りかかれば素手でもイコンにダメージを与えられる魔法礼装『魔装ロストエデン(レゾナント・アームズ)』を装備している! 伊達や酔狂でいつもグラシナでイコンの相手をしているわけじゃないぞ!
「遊んであげる! おいで、出来損ないの熾天使!」
 円はG3の攻撃をあえて誘う。振り下ろされる拳を回避し、撹乱するようにG3の周りを動き回る。
「そんなスピードじゃ、アタシを捕らえきれないんじゃないかな、ふふ……ん?」
 ふと気が付いた。少し戦闘をしただけなのに、既に体力は限界に近かった。奇妙な疲労感と重圧がのしかかっている。 
『グガアアアアアアァァァッ!』
「わわっ!?」
 G3の拳がすれすれのところを掠めた。体力だけではなく、スピードにもいつもの切れがない。
(こ、これは……短期決戦で戦いを決めたほうが良さそうだね……)
「魔術回路全力全壊(マジックサーキットフルバースト)! 運命律すら断ち切る蹂躙の一撃……ゴルディアス・インパクト!」
 全身全霊の必殺の一撃……のはずなのだが、G3の皮膚はぽゆんと跳ね返した。
「……な、何かがおかしいよ!?」
 それもそのはず、イスカは魔法少女なのでシャドウレイヤーから受ける能力低下は無し。しかし対イコン装備が無いため、ガーディアンにダメージを与える事は出来ない。
 そしてレオ……いや、円は対イコン用装備を持っているのでガーディアンにダメージを与えられるのだが、魔法少女(もしくはマスコット)ではないため、能力低下のため、やはりダメージを与える事は出来ない。
 G3が床を殴りつけると、屋上に亀裂が走り、瓦礫と共に円は滑り落ちた。
「うわわわわわ〜〜〜!!!」
 そして、研究棟の真下にいるアウストラリアスやポラリスにも瓦礫が降り注いだ。
「……な、なんですって!?」
「はう〜〜〜!!」
「……危ない!」
 マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)はスロットルレバーを倒し、ヤリーロを全速で走らせた。
 素早く落下する瓦礫を避けて、二人を攫うように回収すると、研究棟の足元からすぐに離れる。
「あ、あなたは風紀委員の……?」
 マイアは風紀委員として単独でパトロールをしている途中だった。
「いいですか。いくら契約者が強いといっても相手は既に何人も殺していて、場合によっては工場ひとつ跡形もなく吹き飛ばせるくらいの力を持っているんですよ。それでなくても、生徒が夜徘徊するのは褒められた行為じゃありません」
「ご、ごめんなさい……」
 G3は屋上から飛び降りた。翼をゆっくり羽ばたかせ、着地した先はマイアの目の前だった。
 するとヤリーロを止め、アウストラリアスとポラリスを降ろす。
「……来ましたか。早く避難してください。ここはボクがなんとかします」

「旧式のイコン相手に苦戦しているようでは、ガーディアン計画が頓挫したのも納得だな」
 炎の波間にたゆたうラボをクルセイダー達は眺めていた。
「実戦で”旧式のジェファルコン”程度の性能しか発揮できないのであれば使用に耐えん」
「そう結論を急ぐな。まだガーディアンは試験段階、この戦闘の記録がガーディアンを進化させてくれるだろう」
「……へ報告せねば」
 クルセイダーは煙幕筒を足元に放り投げた。次の瞬間、一気に吐き出された煙幕が周囲を覆った。
「……このまま逃がさないんだから!」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は魔法少女に変身する。
魔法少女アイシクル・ノーン! 氷臨だよ!!」
 風術で煙幕を吹き飛ばすと、クルセイダー達はこの僅かな間に大分先に行っていた。
 ノーンは追いかけようとしたが、唐突にアウストラリアスは止めた。
「深追いは危険です。単独で動くのは尚更……」
「でも、追跡すれば奴らのアジトがわかるよ」
 籠手型HCに地図と移動するクルセイダーを表示させた。と言っても、敵の進路にある遮蔽物を考慮した結果、導き出された逃走経路だ。追跡を妨げるためだろうか、彼らはそれぞれ別の方向に逃げていった。
 ノーンはその情報を御神楽 舞花(みかぐら・まいか)に送った。
(……来ましたか)
 戦闘中も息を潜め、双眼鏡で様子を窺っていた彼女は尾行を開始した。てんでバラバラに逃走しているため、一人に狙いを絞る。追っていくとシャドウレイヤーが比較的人通りの多い地区にまで広がっている事に気付いた。
 この空間を認識出来るのは契約者だけ、では非契約者はどうなるかと言うと、空間を認識出来ない彼らは石像のように静止している。暗殺相手が非契約者の場合、クルセイダーにとってこれほど容易い相手は居ないだろう。
(……人が増えてきましたね……)
 通りには静止した人々がたくさん並んでいた。
 その時、ふとクルセイダーがこちらを見ているのに気付いた。
(み、見られてる……!?)
 気配を絶つように配慮をしているつもりだが、彼らの持つ未来の技術なら、こちらの細工が見破られても不思議ではない。それでなくとも、彼らは暗殺・破壊・工作に特化した存在。追跡を振り切る術など熟知しているだろう。
 舞花が慌てて追いかけると、いきなり動き出した人にぶつかった。
「どこ見て歩いてるんだい。危ないよ、お嬢ちゃん」
「す、すみません……」
 先ほどまで止まっていた人々が一斉に動き出した。どうやらここがシャドウレイヤーと外部を分ける境界なのだろう。
「……あ!」
 気付いた時には、クルセイダーは人ごみに紛れ消えてしまっていた。

「……それにしても何だか今日は変な寒気がするな」
 飛空艇を駆る斎賀 昌毅(さいが・まさき)は、HCに表示されるマイアのヤリーロの反応を追跡していた。
(あんましあいつの仕事に俺が関わるのもどうかとは思うんだがな。俺風紀委員じゃないし……)
 彼女のヤリーロは海京内での市街戦を想定して換装してある。ワイアクローの立体機動やヤリーロ自身の機動力があれば、狭いビル郡や普通のイコンじゃ到底入れない路地でも100%のパフォーマンスを発揮出来る使用だ。
 現場に到着すると戦闘中。ヤリーロはG3にボロボロにやられていた。
「!?」
 小回りの利くヤリーロだが、現状、その能力を発揮出来ていなかった。この空間に浸食されているマイアでは、当然の事ながら、ヤリーロの出力も上がらない。機動性を失ったS型機など棺桶も同然だ。
「……どうしたんです、ヤリーロ。頑張ってください」
「マイア!」
 昌毅は飛空艇をG3にぶつける。が、あの怪物にとっては蚊に刺された程度のダメージもない。
「ち、ちくしょう……!」
 転がり落ちた昌毅は、よろよろと立ち上がった。それからすぐ、はっとして周囲を見回す。
「……この灰色の世界。アイリが言ってた”シャドウレイヤー”ってぇ奴か……」
 気にも留めていなかったが、自身を襲った寒気とヤリーロに起きた変調を考えれば、いろいろと説明が出来る。
「……となるとやべぇな。魔法少女じゃなけりゃ、この状況をどうにも出来ねぇじゃねぇか……ん?」
 ふと、足元にアウストラリアスが落とした魔法少女仮契約書を見付けた。
「アイリの契約書……。あいつの言ってることが、全部本当ならこれで契約すれば身体が自由に動くはず……!」
(でも、絶対に魔法少女はお断りだぞ……。あんなふりふりなもの着られねぇし、大体、俺だと性別的にも年齢的にも少女はないだろ。苦情の電話がかかってくるレベル。
 それに、マスコットってのも、可愛い小動物とかだから見栄えするんであって、おっさんがやってたら正しく淫獣じゃねぇか。如何わしい臭いしかしないって言う……。
 まぁ、どうせやるならタキシードに仮面の変態みたいに、魔法少女のピンチに颯爽と現れる役がいいが……)
「きゃあああああっ!!」
 G3に吹き飛ばされ、ヤリーロは横転、マイアは芝生の上に投げ出された。
「迷ってる暇なんかなかった……!」
 昌毅は契約書で変身する。
 シルクハットにタキシード、ひらひらと舞うマントにアブノーマルなアイマスク。そして胸元の薔薇。
「……おお、上手くいった。結構イメージした格好になれるもんだな」
 しかし上はタキシードだが、下がスカートなのに気付き絶望する。
「ここだけは融通利かねぇのかよ! 他が紳士的な分、よりアブノーマル感が増してるじゃねぇか!」
 G3が腕を振り上げた。
「!?」
 昌毅は飛び出し、マイアを抱えて跳躍した。振り上げた腕は、間一髪、地面をえぐり飛ばした。
「……身体が軽いぜ」
「昌毅……。どうしてここにいるんです?」
「ん、ああ……たまたま、夜の散歩で足を伸ばしてきたんだよ。しっかり捕まってろ」
「はい……」
 昌毅をぎゅっと抱きしめる。
「あー、あと下は見るなよ」
「え?」
 跳躍する彼のスカートは、ひらひら踊るように灰色の空に舞った。