校長室
海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「オリュンポス・パレスと連動して、こちらも攻撃だぜ」 さらにステルスを解いて現れた新たな敵戦艦を見て、セリス・ファーランドがゴールデン・キャッツのブリッジで言った。 「超電磁ネット発射!」 「発射します!」 セリス・ファーランドの命令で、メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)がタイミングを計算して、接近してきたヴァラヌス・フライヤーに対して超電磁ネットを発射した。高々と挙げていたゴールデン・キャッツの右手が猫招きのように振り下ろされ、そこから発射された超電磁ネットがヴァラヌス・フライヤーに覆い被さって敵を墜落させた。 完全に戦闘に入り、敵艦隊は旗艦のスキッドブラッドと護衛戦艦四隻という艦隊の全容を現していた。戦艦の形状は、艦首にイコン射出口を持ち、上甲板に連装砲を四門備えたものだ。左右にはミサイルランチャー、船体下部にはフローティーングナセルが左右にむいて開くようについている。ただし、すでにその一隻は機動城塞オリュンポス・パレスによって沈められていた。艦載イコンは、およそ、ヴァラヌス・フライヤー40機、漆黒の機体に銀色のラインが入ったアーテル・フィーニクスが20機ほど、だが、その中には金のライン入ったカスタムタイプのアートゥラ・フィーニクスも含まれていた。 「艦と言うことは、我らのアワビ輸送計画を横取りするつもりであるな。ニルヴァーナの漁業権は譲らぬのである」 マネキ・ングたちの野望は、宇宙港を占領し、そこを中継基地としてニルヴァーナにアワビやアジの干物やパラミタサンマなどを輸出して、巨万の富を独占しようというものである。壮大なのか、ささやかなのか、よく分からない計画ではあった。だが、それを阻む者は、問答無用で叩き潰すつもりだ。 「照準位置計算完了で〜す。マイキーさん、出番ですよ〜」 「オゥ! 今こそボクらのビーム愛(アイ)を示すときが来たんだね!?」 メビウス・クグサクスクルスの準備オッケーよの合図に、砲手を務めるマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)がムーンウォークで後退しながら、身体を後ろ45度に傾けて背後にあった発射ボタンを押した。ゴールデン・キャッツの巨大な目から、ビームが発射される。あわてて、敵アーテル・フィーニクスが散開して回避運動をとった。 「さすがです。マイキーさん。次来ます!」 おだてるように、メビウス・クグサクスクルスがマイキー・ウォーリーに言った。その言葉だけで、マイキー・ウォーリーのテンションが、さらにノリノリになる。 「レッツ!! シャウト!! ミャーアォ〜♪」 マイクを掴んだマイキー・ウォーリーが思い切りシャウトして、奇妙なポーズを決める。 カッと口を開いたゴールデン・キャッツから、今度はソニックブラスターが放たれた。 敵護衛艦の砲台の一つが吹き飛ぶ。だが、同時に反撃がゴールデン・キャッツに降り注いだ。 「そんな物、このゴールデン・キャッツには効かないのだよ」 千万両の小判からビームシールドを張りながら、マネキ・ングが勝ち誇った。 「再び、熱き、あ〜い〜♪」 さっと後ろを指さして、マイキー・ウォーリーがビームアイの発射スイッチを押した。 ゆっくりと回頭していくゴールデン・キャッツの目から迸ったビームが、スキッドブラッドの舷側に展開したバリアブルシールド表面のビームシールドに当たって激しい閃光を放った。 砲撃戦では有利に見えたオリュンポス側だが、いかんせん艦載イコンの物量には押され気味となった。ヴァラヌス・フライヤー小隊の砲撃に、ゴールデン・キャッツがバリア出力を上げて耐え、機動城塞オリュンポス・パレス表面では、取り憑いたヴァラヌス・フライヤーとレーザー砲台が激戦を繰り広げていた。 「好き勝手はさせません。アテナ、騎士形態へチェーンジ!!」 「お任せしました、アルテミス様」 魔装騎士アテナが、使い切ったショルダーキャノンをパージした。クレイモアを抜いて、機動城塞オリュンポス・パレスのレーザーマシンガンをクローで引き裂いているヴァラヌス・フライヤーに突っ込んでいく。 「アルテミスブレード!!」 大刀一閃、魔装騎士アテナがヴァラヌス・フライヤーの腕を切って、機動城塞オリュンポス・パレスの上から地上へと叩き落とした。 「次は……!?」 他の敵を求めて魔装騎士アテナが振り返ったとき、機動城塞オリュンポス・パレスが鳴動した。 主砲であるグラビティ・キャノンの砲口周辺に怪しげな黒い稲光が発生している。 「なんか、ヤバいんじゃないのか!?」 突然燃えあがった呪符を見て、鵜飼衛がルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』に訊ねた。 「もちろん……、その通りですね。じきに、旧支配者の力に耐えきれず、異界のエネルギーが暴走して……。あっ、メイスン様どこへ?」 そそくさと格納庫へとむかうメイスン・ドットハックを見て、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が訊ねた。 「ここはもう終わりのようじゃのー。早めに避難するのが賢明じゃけー。後は頼んだきに」 「ちょっと待つのじゃ!! わしも行く」 引き止めるのかと思いきや、押しのけるようにして鵜飼衛が逃げだした。残る二人も彼に続く。こんな所で主砲が暴走したら、弾薬庫に引火して木っ端微塵だ。なまじ、強力な砲弾を用意したのが徒となった。 「バランスがとれません。墜落します」 「鵜飼たちは何をやっているんだ。ええいなんとかしろ」 天樹十六凪の言葉に、ドクター・ハデスが怒鳴り返した。 「無理です! せめて、主機関を停止させて自爆だけは防ぎます」 「当然……、いや、だが、自爆は悪のロマン……。ううむ、迷うな……」 「そんなことで迷わないでください」 ドクター・ハデスが変な美学に走りそうになるのを制して、天樹十六凪がメインエンジンを停止させた。 さっさと鵜飼衛たちがそれぞれの乗り物で脱出した後、機動城塞オリュンポス・パレスが墜落する。 「ごめんなさい、皆さん。いったん離脱します」 アルテミス・カリストが、魔装騎士アテナを機動城塞オリュンポス・パレスから離脱させた。 「オリュンポス・パレスが墜ちた!? 掩護だ!」 セリス・ファーランドが、レーザーマシンガンで弾幕を張りながら叫んだ。 「フォ〜ゥ♪ 任せ……」 ぷすぷすぷす……。 マイキー・ウォーリーが調子よく撃っていたビームが突然止まる。 「大変です師匠! もうエネルギー切れです!!」 メビウス・クグサクスクルスがマネキ・ングにむかって叫んだ。 「なんだと!? 我がゴールデン・キャッツのエネルギーは無限だったのでは……。お、墜ちる!?」 ぐらりとバランスを崩したゴールデン・キャッツが、機動城塞オリュンポス・パレスの隣へと墜落していった。 スキッドブラッドの残存艦が回頭し、再びアトラスの傷跡を目指す。数機のヴァラヌス・フライヤーが、地上で動けなくなったゴールデン・キャッツと機動城塞オリュンポス・パレスにむかって爆撃を開始した。